ボルドーのいわゆる「右岸」地域でかつてはかなりの存在感がありながら、近年はどうも「ポムロール」にその主役の座を奪われてしまったかのように見える「サン・テミリオン」。ですが世界遺産にも指定されたこの美しい地域には、やはり隠れた名シャトー、新興の生産者がまだまだたくさん潜んでいます。
今回見つけてきた『シャトー・ド・ラ・クール』は、90年代前半に現オーナーが購入してからまだ30年程という歴史が浅いシャトー。伝統の名門シャトーがひしめくボルドー地方では「新米シャトー」みたいなものです。
ですが…さほどの期待もなく試飲をしたこのワインに、僕は驚かされました。それは、このワインの『密度』に。香りにも味わいにも緻密にぎっしり詰め込まれている、膨大な要素と情報量。
結局のところ、低価格帯のワインと高級ワインの違いというのはワインに含まれる「要素の量」だと思うのですが、このワインは「3,000円台ボルドー」への期待値を遥かに上回っています。
驚くほどの複雑性で、飲み手を長いストーリーに誘うようなつくり。これはもう、シャトーの伝統とかそういったものを超えて、生産者の手腕・センス一発でしょうね。
ボルドーワインを飲む楽しみというのは、最終的にはその複雑性を楽しむということ。その醍醐味がたっぷりと詰め込まれたこのワイン、是非皆さんにお楽しみ戴きたいと思います。…価値ある1本だと、自信を持って断言します！

【シャトー・ド・ラ・クール ル・シュヴァリエ サン・テミリオン・グラン・クリュ 2016年を自宅でもっとおいしく楽しむには…？】
≪こんな香り･味わいのワインです≫：
前回2015年ヴィンテージの紹介時にも書いたのですが、やはりこれは『密度のワイン』。2016年ヴィンテージはそこにクリーミーな要素が非常に柔らかに際立っています。香りの先陣は苺、梅、サクランボなど赤系果実＋ブルーベリーなど黒系果実、そこに数々の香辛料、樽由来の甘い香りなど非常に多くの要素が次々に現れてきます。

ひとくち含んだ状態では果実味豊かで柔らかな良質なメルロワイン、という印象ですが、時間経過を経て優しい酸とよくこなれたタンニンが絶妙に良いバランスで存在感を示してきます。抜栓から90分程の時点で、果実の甘さ密度・タンニンの柔らかさなどが最適のステータスになりました。

≪このワインとのマリアージュ料理は？≫：
料理は幅広く合わせられそうですが、肉料理ならソースにも『密度』を。赤ワインソースやベリー系ソースなど、煮詰めて濃厚な味わいなったソースをたっぷりとかけて合わせたいですね。

≪良い状態で楽しむには、いつ抜栓する？≫：
最適の状態になるまで少し時間がかかった印象。開けたての時点でも果実の甘味が優美に出ていておいしく楽しめますが、出来れば90分前には開けておいて戴きたいワインです。抜栓直後-30分後くらいまでは、このワインの実力は半分も発揮されていないと思いますよ。

≪このワインがもっとおいしくなる温度設定≫：
セラー保存だったらそのままの状態で大丈夫です。常温保存していたのなら、2-30分でも冷蔵庫で冷やすか、3分程アイスバケツで冷やすと適温になります。冷たすぎるとこのワインの滑らか感が失われてしまうので、もし冷えすぎてしまったらゆっくり適温に戻しつつお楽しみください。

≪おすすめのワイングラス形状･サイズ≫：
「密度」を楽しむワインなわけですから、当然ワインの要素を集約していくようなグラスを選ぶのがベター。口細・卵型のボルドータイプのグラスだと、その緻密にぎっしり詰まった要素を存分に楽しめます。
でも、2016年ヴィンテージについてはブルゴーニュ型の丸形グラスも決して悪くありませんでした。果実の甘味が柔らかく前に出てきながら、ちゃんと緻密さは維持されます！



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