Alsace(アルザス地方)
アルザスワインを選ぶ上で重要なものは品種×土壌+気候 酸と硬質なミネラルのドイツワイン、 パワフルなボディとリッチな甘さのアルザスワイン
ドイツとの国境、南北170kmに渡り長く広がるアルザス地方。(三重県と同じくらい)
非常に広いアペラシオンのためもちろん気候条件や土壌が異なってくる。
さらにアルザスでは赤白10種類を超える品種が植えられている上に、様々な土壌がパッチワークのようになっているため品種の組み合わせはまさに無限大。
『アルザスワイン』と一括りにすることは難しく、単純なようで複雑、しっかりと吟味しないといいワインに巡り合えない。
それぞれの要素を分解してすっきりさせることで、上手に使いこなせればワイン選びの幅がぐっと広がる。はず。
目次
■ドイツとの関係性
ライン川を挟んでドイツとの国境にあるため、ドイツとの関係は切っても切り離せない。
かつてはフランスとドイツの二国間でアルザスの所有権を巡ってしばしば争いが起きた。
ドイツ領になったりフランス領になったりを繰り返し、1945年にフランス領に復帰し現在に至る。
このような背景から文化的・民族的にもドイツの影響を強く受けており、それはワイン文化においても垣間見える。
品種や細長い瓶の形、ラベル表示の仕方など、ドイツワインと共通する面が多い。
「ドイツ的なワインをフランス風に作っている」という表現もあるくらいだ。
ではワインの味わいが同じようかと聞かれると、それはちがう。
例えば主要ブドウ品種であるリースリングを大雑把に比べると、ドイツワインは酸と硬質なミネラルが特徴だが、アルザスワインはよりパワフルなボディとリッチな甘さが特徴になる。
■南北と標高で考える気候
南北に連なるヴォージュ山脈が西からの湿った風を遮断するため、アルザスはフランス内でも特に雨が少ない。
また、山を越えた風は暖かく乾いているため、実は同緯度のほかの地域と比べると平均気温が1.5度も高く、夏も暖かい。
フランス最北のワイン産地なのでもちろん涼しいのだが、南北で170kmの距離があるため北と南でも気候が変わる。
さらに標高が低いところで170m、高い所で478mに達するため、その上下でも条件が変わってくる。
その気候と土壌に合った品種を選択することが、良いワインを作るために非常に重要なファクターとなる。
より涼しい場所ではアルザスよりも冷涼なドイツ・オーストリア由来のブドウ品種が適しているし、暖かい場所ではブルゴーニュや南仏由来の品種が適している。
・ドイツ・オーストリア由来…リースリング、ゲヴェルツトラミネール、シルヴァネールなど
・ブルゴーニュ・南仏由来…ピノ・ノワール、ミュスカなど
■モザイクと呼ばれるテロワール
モザイクと呼ばれるほど多様な土壌が存在するアルザス。
隣り合う畑同士でもまったく違う土壌というのはザラで、一つの村に4,5種類の土壌が見られると言われているが、
大雑把に分けると以下のように分類することができる。
【場所】
・北部…冷涼で湿潤でしっとり涼やかな味わいになる。クレマンを造る生産者が多い
・中部…全体的に重い土壌。急斜面で南向きの畑が多いのでパワフルでフィネスのあるワインが出来る
・南部…おだやかな丘陵が多く気温の高さもあいまってややぽっちゃりなスタイル
【スタイル】
・軽い砂系…サラッとして軽やか
・重い粘土系…粘りと重厚感
【酸の出方】
・石灰系(石灰岩、泥灰土、チョーク)…しなやかで優しい酸
・非石灰系(片岩、砂岩、花崗岩、火成岩)…引き締まった硬い酸
例えば石灰が多く、石灰を含む土壌だと軽やかでエレガントなスタイルに近づく。
逆に粘土が多く、石灰を含まない土壌だとパワフルでボリューム感のあるスタイルに近くなる。
ここで重要なのが、土壌と相性の悪い品種を知ること。
ゲヴェルツやピノ・グリ、シルヴァネールが砂・非石灰系の土壌で育つとゆるくメリハリのないワインになりがちで、
リースリングは粘土・石灰系の土壌で育つと固く酸っぱく、ぼてっとしたワインになってしまう。
甘口ワインが一世を風靡した世界大戦後、とにかくリースリングというだけでワインが売れていったので、
今までほかの品種が栽培されていた粘土・石灰系の土壌にもリースリングが植え替えられた。
現在もそういったテロワールを無視した栽培は一部で続いており、残念ながらそれはアルザスワインの本質ではない。
特にリースリングは栽培される土壌のキャラクターを強く反映するため、その良し悪しが色濃く現れる。
気候と同じように、その品種にあった土壌を選んでブドウを植えることはとても重要なことである。
■品種
よくよく思い返すと、フランス国内で品種名をエチケットに掲げている産地は少ない。
ドイツの影響なのか、アルザスワインのエチケットにはしっかりとその品種名が記載されている。
赤ワインはピノ・ノワールが生産されるが、アルザス全体で生産されるワインの大部分を占めるのは白ワインである。
その割合はなんと赤1%:白94%。(残りはロゼワイン。ロゼもピノ・ノワールが原料となる)
まさに名実ともに白ワインの銘醸地である。
白ワインの栽培で認められているのは12品種で、その中でも主力な品種が以下の5品種である。
・リースリング…辛口から甘口まで多様なスタイルで醸造される、アルザスの顔とも言える品種。鮮烈な酸があるが、それをカバーする花のような香りと力強さは多くの人を魅了する。早飲みから長期熟成向きのワインができる。
・ゲヴェルツトラミネール…『ゲヴェルツ』はドイツ語でスパイスの意味であり、バラやジャスミン、ライチのような芳しい香りを持ち、豊かなボディが特徴。ボリューム感のあるアルザス料理の中でも特に鴨や豚肉料理に合わせられることが多い。
・ピノ・ブラン…エチケットに記載されるときはオーセロワ、またはクレヴネールと表記されることもあり紛らわしい。比較的カジュアルレンジのライトなワインに使われることが多い。また、クレマン・ド・アルザスの原料として重要なベースとなる。
アルザスではリースリングやゲヴェルツがもっとも重要で大切な品種なので、ピノ・ブランはいわゆるダメテロワールに植えられる。
クレマンの主原料なのは、いくらダメテロワールでもクレマン・ド・アルザスという名前があるだけで売れるからという理由もある。
・ミュスカ…通常ミュスカ・オットネルとミュスカ・ブランのブレンドを指す。いわゆるマスカットだが、決して甘口ではなく華やかな香りを残しながら辛口に仕上げられているため、アペリティフにもピッタリ。
・シルヴァネール…ドイツでは「なんでも屋」と言われるくらいニュートラルな品種で、リースリングと同じく土地の個性を反映しやすい。爽快でハツラツとした軽やかなワイン。
醸造の仕方によってはそこそこ厚みのあるワインもできるため肉にも合わせられ、ペアリングに役立つ。
また、伝統的なワイン造りとしてこれらの品種を混植混醸されることもある。
複数の品種を同じ畑に植え、同時に収穫、醸造を行う手法で、味わいに複雑さと奥行きをもたらし、絶妙なバランスを楽しめる。
普通、収穫時期はブドウによって異なるのだが、混植するとなぜか収穫のタイミングが揃うらしい。
不思議だ。
■51のグランクリュ
1975年にキンツァイムのシュロスベルグが初めてグランクリュに認められ、現在は51の畑が選ばれている。
原則として品種はリースリング、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの4つ。
畑ごとにそれぞれ認められている品種や規定が異なる。
また、唯一シルヴァネールが認められている畑がゾッツェンベルグである。
グランクリュは首都ストラスブールの真西、南北のちょうど真ん中あたりに集中している。
このエリアは南と南東向きの低い斜面で、日照量が十分確保できる。
規定の最低アルコール度数が高く、熟したブドウを多く必要とするため、必然的にこのエリアにグランクリュが集まった。
多くの区画と品種の組み合わせは管理委員会によってうまく制定されているので、アルザスワインの真髄を知るためにはグランクリュを選ぶと間違いないだろう。
しかし、51区画というと多く感じるが生産量は全体の4%だけしかない。
さらにグランクリュというとどうしてもブルゴーニュのような破滅的な値段を想像しがちだが、実は5,000円くらいで手に入るワインも多い。
世界有数の白ワインの銘醸地、さらにグランクリュがこの値段、と考えると非常にお買い得なのではないだろうか。
ぜひエチケットに「Alsace Grand Cru 」の文字を探してみてほしい。
アルザスワインを選ぶ上で重要なものは品種×土壌+気候。
すべての組み合わせを把握することは大変難しいし、不可能だと思う。
ただ、単純に品種だけで選択をするのではなくさらに一歩、ブドウが育った環境に思いを馳せることができれば今までと違った視点でアルザスワインを楽しむことができるだろう。
主なブドウ品種 | 黒ブドウ:ピノ・ノワール
白ブドウ:リースリング、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカ |
気候 | 穏やかで暖かい大陸性気候。 |
土壌 | 花崗岩、片麻岩、シスト、石灰岩、泥灰土、粘土など多岐に渡る |
AOC | ・AlsaceまたはVin d’Alsace
・Alsace Grand Cru ・Creman d’Alsace |