Chapoutier (シャプティエ)
シャプティエはローヌで最も知名度が高く規模が大きいワイナリーの一つである。ローヌ全域からワインを生産することで知られるが、フラッグシップであるエルミタージュこそシャプティエの真髄が味わえる。
目次
歴史
ローヌにおけるシャプティエ家の歴史は1808年にまで遡ることができるが、1879年にポリドール・シャプティエがワイン造りと販売を始めるまで、シャプティエ家はブドウを栽培するだけであった。シャプティエは七代目ミシェルが継いでから大きく飛躍したが、世代間の引き継ぎは決して円満とはいえなかった。ミシェルは世界のワイン産地を旅して経験を積んだ後で実家に戻り、1987年にシャプティエのワインメーカーに就任した。しかし、兄弟と父が熟成を担当していたため作るワインは完全にミシェルのものとは言えなかった。1989年、この状況に耐えることができなくなったミシェルは祖父マルクの元へ行き辞職を告げた。これを拒んだマルクは父マックスを飛び越してワイナリーをミシェルに任せるというオファーをした。しかしミシェルは仮に継いだとしても自分の献身的な作業の報いがそれを受け取るのに不相応な家族に行くこと納得ができず、祖父に究極の二択を迫った。ミシェル個人がワイナリーを買収するか、あるいはシャプティエを去るか。その結果、1990年に26歳という若さでミシェルはワイナリーを手にした。そして即座に父マックスを含む家族メンバーを一人残らず解雇した。これは裏を返せば、先人から教えを乞わず、全て独学と自力で道を切り開いていかねばならないということでもあった。しかし彼はすぐにビオディナミ栽培を取り入れ、1992年にラ・ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス誌でwinemaker of the yearに輝くと、破竹の勢いで品質と評価を上げていった。彼が達成してきた数々の偉業はロバート・パーカーの次の言葉に要約されるだろう。「歴史はミシェル・シャプティエを革命家だと記すだろう。」「世界の全てのワイン消費者たちは彼の成し遂げたことを称賛すべきである。」
そして現在、コート・ロティからシャトーヌフ・デュ・パプまでローヌ中の畑を手中に収め、さらにはルーション、アルザス、ポルトガル、オーストラリアなど国外にも進出してワイン造りを行うミシェルの存在は、ローヌという枠に収まらない。こうした様々なプロジェクトを含むシャプティエ全体の年間生産本数は約1,000万本にも及び、500haを超す畑を所有する。一方で、ポートフォリオの頂点に君臨するエルミタージュの単一畑キュヴェたちの年産は極めて少なく、年によって差はあるが3,000-6,000本のみとなっている。現在ワイナリーの舵を取るのはミシェルの娘マチルダと息子マキシムで、醸造は2010年にシャプティエに来るまでDRCで修行していたベテランのクレマン・バルチが支えている。
畑
シャーヴがブレンドによってエルミタージュ全体を表現しようとするのに対し、シャプティエは単一区画にこだわって畑ごとの個性を描き出すというスタイルを貫く。Le Pavillon (4ha)は公式なリューディーではなくミシェルが独自に単一区画として扱っているものでLe Bessardsに由来する。花崗岩が豊富な土壌に樹齢65年のシラーが植わっている。最もタンニンが強いワインを生む。Le Meal (0.6ha)は高いテラスで小石と粘土からなる。南向きの急斜面でエルミタージュの中で最も温かく、リッチで完熟感のある味わいとなる。L’Eermite (3ha)はかの有名なチャペルを取り囲む区画でエルミタージュの山頂にある。痩せた花崗岩土壌に樹齢80年のシラーが植わっている。Les Greffieuxはエルミタージュの丘の麓にある区画で砂利と粘土を含む沖積土壌。なお、シャプティエでは単一キュヴェだけでなく複数区画のブレンドキュヴェMonier de la Sizeranneもスタンダードレンジとして生産している。
エルミタージュ・ブランも複数作っており、De L’Orée(3.5ha)はリューディーLes Muretsにある沖積土壌の区画で樹齢60-70年のマルサンヌが植わっている。Le Méal (2ha)は石がちな沖積土壌を持ち、樹齢50年以上のマルサンヌが植わる。L’Eermite (0.5ha)には樹齢100年を超える最古樹のマルサンヌが植わる。加えて、赤同様に複数区画をブレンドしてスタンダードキュヴェChante Alouetteを生産している。なお、AOC上はルーサンヌもブレンド可能だが、シャプティエはマルサンヌ単一にこだわる。この理由はマルサンヌにはテロワールの表現と長熟に欠かせないフェノールが豊富に含まれているからだとミシェルは言い、ルーサンヌは酸化しやすく熟成に向かないため使用していない。
栽培
シャプティエといえばヨーロッパで最も規模の大きなビオディナミ生産者の一人であるが、このアプローチ導入の背景には若かりし頃の国外遠征が影響している。1980年代後半にカリフォルニアから帰還した際、ミシェルはニューワールドのワイン造りは醸造技術にフォーカスしすぎており、土地の表現にピントが合わなくなるのではないかという危機感を抱いた。当時のヨーロッパのワインはニューワールドに売上を奪われ始めており、多くのワイナリーがニューワールドのスタイルを取り入れなければと焦っていた。しかし、ミシェルはヨーロッパのワインが生き残るためには新しいトレンドを追いかけるのではなく、自分たちが持つ土地の個性をはっきりと表現していくべきだと考えた。そこで彼ははるか昔から畑の土の中で生き続けている土壌微生物たちの生命に目を向けたのである。こうして1990年にビオディナミを一部の畑に取り入れ、その後段階的に規模を広げていった。「より大きな声で語るべきなのは土壌であって、ワインメーカーではない」という彼のモットーはワイナリーの規模が大きくなった今でも変わることはない。
醸造
赤のエルミタージュでは以前までは発酵温度を30°Cまで上げ、マセラシオンは4-5週間と長めにとっていたが、2015年頃から発酵温度のピークを29C°までに下げ、かつマセラシオンも3週間に抑えるようになった。また完全除梗というのが伝統的なエルミタージュの醸造であったが、近年では全房も15%前後取り入れるようになった。熟成はバリック、デュミ・ミュイ、大樽を組み合わせてキュヴェごとに14-20ヶ月熟成。一部で新樽25%前後を使用する。ボトリングは無清澄・無濾過で行う。
一方、白のエルミタージュでも変化が見られる。以前は全部プレスで軽めの澱引きを終えてから発酵が始まっていたが、現在はプレスした果汁を意図的に酸化させ、大量の澱を残した状態で発酵させる。発酵容器はデュミ・ミュイ、フードル、ステンレスタンクを組み合わせて使用し、一部で新樽を使用する。澱とともに11-12ヶ月熟成させて瓶詰め。
味わい
濃く、ウッディーでストラクチャーの強固なワインというのがシャプティエのトレードマークであったが、現在マキシムの元では従来の味筋の土台は残しつつもよりデリケートでエレガントな路線に変わっている。エルミタージュはダークな黒系果実に力強いペッパーを感じるが、わずかなスモーキーさとフローラルな香り高さも混ざる複雑なアロマを持つ。口の中ではさらにスモーキーさを感じ、濃度があって凝縮した黒系果実の甘さと強い薫香や肉がつくるセイボリーさが衝突する。厚みがあり、奥深く、リッチなテクスチャーを持つ。花崗岩のシラーに特有のペトリコールのようなニュアンスと塩気のあるミネラルがコンパクトでチョーキーなタンニンと相まってフレッシュでドライなフィニッシュをつくる。濃密だがあくまでも最後まで香り高さが持続しており、力強さ、エネルギー、エレガンスが絶妙なバランスで口内を駆け巡る。
一方、白のエルミタージュはシトラス、洋梨、完熟したイエロープラムに炒ったナッツ、スパイス、スモークがつくるセイボリーなニュアンス、わずかにハニーサックルなどのフローラルさも感じられる。口の中では丸みがあって粘性が高く、深みのある完熟果実を感じる。クリーミーな質感のアタックの後でフレッシュな酸と塩味が口内に張りを与え、砕いた岩のようなミネラルが余韻に残る。
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