Clos Rougeard(クロ・ルジャール)

一部のファンからロワールのロマネ・コンティとして崇拝されるクロ・ルジャール。世界で最も探し求められるワインのひとつである一方、立役者のシャルリー&ナディ・フコー兄弟は公の場を嫌い、常に人目を避けていた。畑を愛し、ブドウ自らの力を信じた彼らのワインは、薄くて青いというカベルネ・フランのイメージを覆し、ワイン界に大きな衝撃を与えた。

 

歴史

ソーミュール・シャンピニーのChacé村に位置するクロ・ルジャールは、この地で1664年からブドウを育ててきた。1969年に8代目当主となったシャルリー&ナディ・フコー兄弟からクロ・ルジャールの伝説が始まった。彼らの親もまたその親もケミカルを嫌っていたため、フコー兄弟が1970年代という早期にオーガニック栽培を始めたのは自然の成り行きだったのかもしれない。当時周りは化学肥料や農薬を撒いて高収量を取ることに夢中だった時代である。彼らのワインが世界の注目を集めるようになったきっかけの一つに、1993年のブラインドテイスティングがある。Decanter誌によると1990年のLe Bourgとともにサーヴされたのは1990年のPetrus、 Le PinそしてTrotanoyという最高峰のポムロールたちだったが、並み居る強豪を抑え最高得点を叩き出したのはロワールのカベルネ・フランであった。この衝撃は瞬く間に世間に広まり、クロ・ルジャールのカルト人気に火がついた。しかし一方で、当の本人たちは世間で騒がれることや注目を浴びることに全くもって関心がなく、むしろ地元の若い世代たちとの交流を大切にしていた。今をときめくRoches Neuvesのティエリー・ジェルマンやGuiberteauのロマン・ギベルトーらのメンターはフコー兄弟というのは有名な話である。

ところが2015年、シャルリーが66歳という若さでこの世を去るというショッキングなニュースが業界を駆け巡った。2015年が兄弟でのラストヴィンテージとなり、翌2016年はナディーとシャルリーの息子アントワンヌが共同でワインを作った。翌年以降もこのタッグが続くかと思われたが、アントワンヌは自身のワイナリー(Domaine du Collier)に専念しており、ナディーの引退発表も重なったため、フコー家によるクロ・ルジャールの歴史は突如として終わってしまう。
そして2017年、モンローズのオーナーであるマルティン&オリヴィエ・ブイグ兄弟がクロ・ルジャール買収し、ワイン業界を騒がせた。2017-2021年まではジャック・アントワンヌ・トゥブランが栽培と醸造を管轄し、フコー兄弟らが作り上げた品質をしっかりと受け継いだ。2022年の終わり頃に新ワインメーカーとしてボジョレーのChateau des Jacquesからシリル・チルーズが就任した。

 

11haの畑を所有する。大部分が粘土石灰土壌で、ここから4つのワインを生産している。
エントリーキュヴェとなるのはLe Closで、14区画のブドウがブレンドされる。次に単一区画のLes Poyeux(3ha)には樹齢45年のカベルネ・フランが植わっており、粘土石灰岩に砂が混ざる軽めの土壌となる。このため、ふわっとしたフレグランスと軽やかなエレガンスが際立つ。そしてポートフォリオの頂点に立つのが樹齢80年のブドウの4区画をブレンドして作られるLe Bourg(1ha)である。粘土が厚く深い土壌となるため、パワフルで最もストラクチャーが強いワインとなる。
一方、少量だがシュナン・ブランからBrézé(1ha)も作っており、このワインだけソーミュールAOCとなる。

 

栽培

クロ・ルジャールの品質を支えるのはケミカルに冒されていない健全な土と代々自社畑から選び抜いた最高品質のブドウ木である(シュナン・ブランはヴーヴレのユエの畑に由来)。これをベースに周囲とは比べ物にならないほど収量を抑え、機械に頼らない手摘み収穫を行う。その結果、ブドウには見事な凝縮感と濃度が備わり、この力強さこそがその後の長い樽熟成を可能にするのである。2017年のオーナー変更以降も、畑作業はフコー兄弟スタイルが徹底されている。

 

醸造

人目を嫌うことで有名なフコー兄弟だが、皮肉にも彼らのワインメイキングは1990年代に目立っていた。当時近隣の生産者たちはカベルネ・フランをステンレスタンクか大樽で仕込み、長い熟成をさせずに早飲み用のワインを作っていた。一方でフコー兄弟はLe Bourgを新樽で仕込み、二年近く熟成させるという真逆のアプローチを取っていた。従来のソーミュールの概念とあまりにもかけ離れていたのである。フコー兄弟は樽へのこだわりが強いことでも知られており、Le Bourgにはロワールの職人が作る樽を使用し、Le PoyeuxにはCh. Angelusの一年樽を使用していた。2017年にワインメーカーに就任したジャック・アントワンヌ・トゥブランも原則この伝統に従っており、Le ClosにはPoyeuxとLe Bourgの古樽を、PoyeuxにはMontroseの樽も少し使うようになった。

新体制のもとでもセラーでの介入を極力抑えるというルールがしっかりと受け継がれており、完全除梗、天然酵母発酵、長期樽熟成、瓶詰めまで最小限のSO2でワインを作っている。そして無濾過で瓶詰めした後は地下の涼しいセラーでさらに2-3年瓶熟させてから市場にリリースする。この瓶熟用のセラーは地下7mにあり、年間を通して気温(12C°)と湿度(65%)が安定しているため、ワインを落ち着かせてゆっくり進化させるのに理想的な環境となる。
新オーナーとなって以降、設備面のリニューアルも目覚ましく2021年にはイタリアから17の卵型コンクリートタンクを購入した。オーダーメイドのこのタンクは67hlの容量を持ち、クロ・ルジャールのhaあたりの収穫量とおおよそ合致している。

 

味わい

こう言うと陳腐に聞こえるかもしれないが、クロ・ルジャールの魅力はそのバランスにある。例えばボルドーの一級シャトーやブルゴーニュのグランクリュといった偉大なワインを20-30年寝かせるとエレガンスとフィネスに満ちた極限のバランス感が現れてくる。濃度があるにも関わらず軽やかさがあり、時の経過を感じさせないほどのフレッシュさが余韻まで持続する。果実味とストラクチャーを構成する要素が完璧に溶け合い、つなぎ目が完全に消滅するあの球体感が、若いVT(とりわけLe Bourg)にも垣間見られるのである。スモーキーさやスパイシーさ、若干ジビエっぽさを感じるワイルドなニュアンスがある一方、口に含むと完熟したダークベリーの甘やかな果実味とシルキーなタンニンが滑らかな質感を与えてくれる。このコントラストがギャップを生むのかと思いきや、お互いが見事に補完し合ってハーモニーを生む。ここに芍薬のようなフローラルさと砕いた岩のようなミネラル、そして香ばしいナッツが混ざり合い非常に複雑かつ長い余韻につながっていく。

CTA-IMAGE Firadisは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社です。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。
Translate »