Henri Gouges(アンリ・グージュ)

ニュイ・サン・ジョルジュを代表する大御所アンリ・グージュ。ワインの品質は無論のこと、粗悪品が横行していた時代に品質管理の重要性を説き、自社瓶詰めやAOC制定を先導したパイオニア的なドメーヌである。初代アンリ・グージュの残した功績はとてつもなく大きい。

 

歴史

父から畑を譲り受けたアンリ・グージュは、1920年にドメーヌを設立した。当時は第一次世界大戦によって地価が下がっていたため、畑を買い増すことは難しくなかったが、一方で品質の悪いまがい物が横行する時代でもあった。アンリ・グージュはLeroyやRousseau、Marquis d’ Angervilleらとともにこうした偽ワインに強く反対し、1920年代という早い時期から自社瓶詰め生産をスタートした。また1930年代にはニュイ・サン・ジョルジュの市長となり、またAOCを管轄するINAOのメンバーとしてブルゴーニュの格付けに深く関わった。アペラシオンを決める側の立場であり、かつLes Saint Georgesを所有していたにも関わらず、アンリはニュイ・サン・ジョルジュを贔屓しないようどの畑もグラン・クリュに認定しなかった。またこの時代にアンリは畑でピノ・ノワールの突然変異(白ブドウ)を発見し、これをピノ・グージュと名付けて白ワインを作るようになった。

1940年になるとアンリの息子ミシェルとマルセルがドメーヌに加わる。アンリは1967年に亡くなるまでドメーヌの指揮を取り続けた。その後1980年に三代目としてクリスチャンとピエールが参画し、ワインの輸出や栽培・醸造面でのモダン化が進んだ。そして2003年に4代目グレゴリーが、2011年にはいとこのアントワーヌが加わり現在はこの二人がドメーヌを取り仕切っている。

 

ニュイ・サン・ジョルジュに約14.5haの畑を持ち、その大部分がニュイの南部に位置する。プルミエは7つ所有しており、グラン・クリュ昇格の筆頭候補であるLes Saint Georges(1.08ha)を筆頭に、その斜面上部北寄りに位置するLes Vaucrains(0.98ha)、斜面上部南寄りに位置するLes Chênes Carteaux(1ha)と続く。さらにLes Pruliers(1.88ha)に加えてアイコン的なモノポールのLe Clos des Porrets Saint Georges(3.57ha)、その斜面上部に位置するLa Perrières (0.41ha)にはピノ・グージュ(・ブラン)が植えられている。そしてニュイ北部に唯一所有するのがLes Chaignots(0.46ha)である。村名は5区画のブレンドで作られるNuits-Saint-Georges Village(2ha)と石垣で囲われたClos Fontaine Jacquinot Village (1ha)がある。広域はBourgogne Blanc(ピノ・グージュ100%)、Bourgogne Rouge、そして2017年より生産するHautes Côtes de Nuitsとなる。

 

栽培

冬の選定では各枝につき芽を8-10個ほど残すが、翌春には5個までに絞る。グレゴリーは芽かきと副梢の除去による収量制限を好むが、必要であれば7-8月にグリーン・ハーヴェストを行う。2005年以降、畑ではケミカルは使用されておらず、その3年後にはオーガニック栽培へと移行した。グレゴリーはあくまでも有機栽培をテロワールとワインをリスペクトするための手段だと考えており、認証の取得は目的ではない。また、過度な圧力による土の凝固を防ぐためにトラクターの使用も減らしている。

 

醸造

アンリ時代のワインはかなり強く、若いうちは引っ込みがちで長期熟成を経て初めてその真価を発揮するスタイルだった。三代目ピエールとクリスチャンの時代までこのパワフルでストラクチャーの強い味わいが維持されていたが、現当主グレゴリーはドメーヌの哲学を維持しながらも近づきやすさを取り入れ、ワインは格段に飲みやすくなっている。

ブドウを除梗するスタイルは変わらず、コンクリートタンクでの発酵も先代のやり方を受け継いでいる。一方で発酵温度には変化が見られ、グレゴリーは比較的低め(28-29℃)に抑えることで過度な抽出を避けている。またヴィンテージの特徴に応じてマセラシオンを柔軟に変化させている。例えばデリケートな年ではピジャージュとルモンタージュを控えめに行い、抽出というよりは「浸漬」によってタンニンを染み出させるようなアプローチを心がけ、フィネスとシルキーさを重視する。樽熟成でも新樽比率を約20%に下げ、マロ後のラッキングと熟成期間に変化を取り入れた。以前は樽内でマロラクティック発酵が終わるとラッキングをしてワインを澱から離し、トータル18ヶ月の熟成を行っていた。ところが近年ではマロ後のラッキングを無くしてワインを澱と接触させ続け、かつ熟成期間を3-6ヶ月ほど短縮している。この目的はワインのフレッシュさと果実味を引き出すためだとグレゴリーは語る。

彼のモダンなアプローチによってアンリ・グージュのワインは以前よりも近づきやすく、より魅力的になったと言える。

 

味わい

同じニュイ・サン・ジョルジュには名手Robert Chevillonがいるが、ニール・マーティンは両者のスタイルの違いをヴォーヌ・ロマネとモレ・サン・ドニに例えて表現している。ヴォーヌ・ロマネに近いニュイ北部ではフローラルで香り高くシルキーなタンニンを持つワインとなり、このスタイルの頂点に君臨するのがChevillon。一方、アンリ・グージュのワインはトラディッショナルで、モレ・サン・ドニのような強固なストラクチャーに森の下草や茎っぽさ連想させる香りがある。たしかにグージュのワインは土っぽくて若いうちはがっちり閉じており、5-10年の瓶熟が必要である一方、Chevillonのワインは若いうちから官能的で果実の甘やかさや質感の滑らかさをより感じやすい。

しかし、現在のアンリ・グージュはグレゴリーの柔軟な醸造アプローチによって以前のクラシカルなスタイルからより果実味を感じやすいスタイルに変化している。特に近年は複雑さを失うことなくフレッシュさと飲みやすさが現れている。タンニン単体の存在感が口の中で強く感じられた以前に比べ、今はタンニンが果実により溶け込んでいるため質感がよりスムースになった。また粗さが取れたことで果実味のピュアさを感じやすくなり、フローラルな要素が出るようになってより香り高いアロマが楽しめるようにあった。

ニュイ南部のパワフルさを残しつつも、親しみやすさがでてきたことでアンリ・グージュの今後の進化にさらなる期待が高まる。

 

CTA-IMAGE Firadisは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社です。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。
Translate »