Huet(ユエ)
世界最高峰のシュナン・ブランの一つであるユエのヴーヴレイは100年の熟成ポテンシャルを持つと言われる。であるにも関わらず、他産地の同クラスの生産者と比べるとユエのワインは驚くほどリーズナブルに楽しめる。
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歴史
ドメーヌは1928年にヴィクトル・ユエによって設立され、その後1947年に息子ガストンが継いだ。ガストンはヴーヴレイの市長を務めた(1947-1989)人物でもあり、ドメーヌの評判を高めてこの地のアイコンとして活躍した。ガストンの息子は写真家でワインに興味を示さなかったため、1976年から娘婿のノエル・パンゲが徐々にワイン造りを継ぐようになっていった。彼は熱心にビオディナミに取り組み、1990年までにユエの畑を全面転換させた。
ドメーヌの立役者とも言えるガストンは2002年にこの世を去るが、その翌年に米国投資家のアンソニー・ファンがドメーヌを買収した。オーナーは変わったものの栽培・醸造チームはそのまま変わらずに引き継がれたため、ワイン造りには影響がないように見えた・・・ノエルが突然の引退発表をする2012年までは。Decanter誌によるとこの背景にはノエルとファン家との間で意見に食い違いがあった。ノエルはユエが世界的な評判を得ている半甘口(demi-sec)や甘口(sweet)スタイルを作り続けるつもりであったが、ファン家は逆に辛口(sec)の生産にフォーカスするよう指示をしたのである。辛口用のブドウは収穫が早く、ハングタイムが短いため収量が減るリスクが少ないからである。もともとノエルは70才を迎える2015年に引退を予定していたが、オーナーからの強い圧に嫌気が差して3年前倒しでドメーヌを去ってしまった。
ノエルは去ったものの栽培・醸造は以前と変わらないチームメンバーで作業が行われており、醸造責任者はノエルの右腕として1979年からユエに務めるジャン・ベルナール・ベルトメが選ばれた。その後2020年にジャン・ベルナールに変わって2003年からユエで働くバンジャマン・ジョリヴォーが醸造責任者となった。一方、ドメーヌの運営もアンソニーから子どもたちへと受け継がれ、現在はユーゴとサラの兄弟が全体の指揮を取っている。
畑
35haの畑には全てシュナン・ブランが植えられている。中心となるのは3つの畑(Le Haut-Lieu、Le Mont、Clos du Bourg)だが、周辺にも細かい畑が複数点在している。Le Haut-Lieu(15ha)はドメーヌ設立当初から所有する畑で、プラトーの高地にあり表土が厚く、重め粘土と石灰岩が混ざる土壌を持つ。Le Mont (8ha)はガストンが1957年に購入した畑で、石が多く、緑っぽい粘土にシレックスが混ざる土壌を持つ。Clos du Bourg (6ha)はガストンが1953年に購入した畑。ガストンをしてヴーヴレのグランクリュと言わしめたこの畑は、起源を8世紀にまで遡るヴーヴレイ最古の畑である。表土の浅い石灰岩土壌を持つ。
栽培
収穫は手摘みで何度も畑を往復して選果を行う。ブドウの糖度によってワインのスタイルが異なり、遅摘みとなる甘口は収穫が11月にまで及ぶこともある。理想的に萎れたレーズンのようなブドウには凝縮された甘美なフレーバーが宿る。
醸造
ユエのワインメイキングは、いわゆるシャルドネのそれとは正反対である。ブドウは優しく全房でプレスし、自然酵母のみを使って古樽でゆっくりと発酵させる。新樽はいっさい使わず、マロラクティック発酵も避け、収穫翌春にはボトリングというスピーディーなスケジュールとなる。その結果、若いうちはとにかく鋭くて強烈だが緊張感と張りを与えてくれる見事な酸が保たれる。この酸を支える糖分は生育期の天候によって年ごとに大きく異なるが、どのスタイルであってもそのバランスは素晴らしく美しい。
味わい
3つの畑はそれぞれに個性が際立っており、重い粘土のLe Haut Lieuは若いうちから最もアプローチしやすいワインとなり、シレックスのLe Montはなんといってもミネラルがつくる張力が特徴的で、タイトで力強く凝縮した味わいとなる。 Clos du Bourgは完熟感と活力にあふれるワインで、フィニッシュのフィネスとエレガンスは他と一線を画している。この3つのキュヴェからブドウの糖度によって4つのスタイルが生まれる。残糖の低い順にSec – Demi-Sec – Moëlleux – Moëlleux Première Trieとなっており、最後のカテゴリは貴腐ブドウが使われる。全てのスタイルに共通するのが突き抜けるような鋭い酸とチョーキーな塩味である。フレーバーはりんごや花梨に果物の皮を感じさせる若干の苦味と土っぽいセイボリーなノートが調和しており、熟度の高いブドウには蜂蜜をかけた焼きリンコ゚のような甘露な味がある。ドライのスタイルであっても残糖を含むケースがほとんどだが、上質なモーゼルのリースリングと同じ様に分析的数値はユエの前では意味をなさない。なぜなら単純な数値からは想像もできないような甘さと酸の絶妙なバランスがあり、その味わいは優美さを超えて不思議と軽やかさすら感じさせてくれる。
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