Nuits-Saint-Georges (ニュイ・サン・ジョルジュ)
コート・ド・ニュイ 最多のプルミエ・クリュを持つ村 優美な北側、パワフルな南、モノポールが多いプレモー・プリセ
目次
■特徴
ニュイ・サン・ジョルジュのワインはどういうものなのか、一言で表すことが出来ないから、この村は昔からアイデンティティを打ちだすのに苦労している。
ニュイ・サン・ジョルジュ村とプレモー・プリセ村の2つの村から成る広い面積のせいか、グラン・クリュが存在しないからか、やたら多いプルミエ・クリュのためか、その原因はいくつかあり明確に言い表せない。
しかし間違いなくブルゴーニュを代表する素晴らしいワインのいくつかはここで生産される。
骨格がしっかりしていてタンニンが豊富で長熟向きのワインが多いため決して外交的というわけではないが、香り高く気品あるスタイルはニュイ・サン・ジョルジュならでは。
それを知らないままでいるのはとてももったいないことだと思う。
3つに分かれるテロワール
町の真ん中を流れる川の北と南、プレモー・プリセ村、大きく分けて3区画に分けることができる。
<川の北側>
ヴォーヌ・ロマネと隣接する北側は、北東を向き石灰質で粘土が少なくやせている。
そのためがっしりとした骨格がありつつも肉厚で、ヴォーヌ・ロマネに通ずる優美さも兼ね備える。
ヴォーヌ・ロマネのプルミエ・クリュ、マルコンソールに隣接するオー・ブドがより顕著で、柔らかくしなやか。
標高300m~260m帯にプルミエ・クリュは密集しており、斜面上部ほど粘土が少なくエレガントなスタイルになり、下部に行くほど上部から滑り落ちた粘土が表土となり、濃密でしっかりとしたスタイルになる。
<川の南側>
南東を向き、北側と比べると斜度が緩く粘土を多く含む。
川を抜ける風の影響も受けやすいため、ゆっくりとブドウが熟し硬く引き締まった長熟向きのワインが出来る。
特にレ・サン・ジョルジュとヴォークランが代表的で、熟成してワイン本来の魅力が発揮されるとグラン・クリュにも引けを取らない素晴らしいワインとなる。
<プレモー・プリセ>
白ワインの生産も行われるプレモー・プリセ村は比較的ミネラル感が強く軽やかな赤ワインが作られる。
レ・サン・ジョルジュと地続きで、ドメーヌ・ラルロのモノポールであるクロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュまではプレモーの中でも力強いスタイル。
南に行くにしたがって石灰質になるため繊細さが出てくる。
モノポールの畑が8つもあるのは格付け制定前から大ネゴシアンが所有し、所有者が変わった後も相続等で分割がされなかったから。
グラン・クリュのない村
この村にはグラン・クリュがない。しかし1度グラン・クリュになりかけた畑はある。
現在特級への昇格運動が行われているレ・サン・ジョルジュだ。
なりかけた、とはどういうことかというと、AOC発足の際レ・サン・ジョルジュにはグラン・クリュの資格があった。しかし最大所有者であるドメーヌ アンリ・グージュが昇格を拒否し、現在の1級の地位に納まっている。
なぜ認定を蹴ったのか、理由は2つある。
1つは税金の問題。グラン・クリュに掛けられる税は他よりも重い。
当時はドメーヌで元詰する生産者が少なくネゴシアンへ樽ごと売っていたため、グラン・クリュを名乗れたからと言ってそれに見合う対価がもらえるかもあやしく、税金が払えないリスクがあったから。
もう1つは町名の由来まで話しが大きくなる。
1892年、鉄道が開通するとこの村にある駅はニュイ・スー・ボーヌと名付けられ、村もそう呼ばれた。
お隣のコート・ド・ボーヌとはなにかとライバル関係にあるニュイの住民たちはこの名を嫌い、他の村に倣って町を代表する畑の名前に改名しようという運動が起き、レ・サン・ジョルジュ派とヴォークラン派で真っ二つに分かれた。
投票の結果、わずか1票差でレ・サン・ジョルジュ派が勝利。晴れて村名がニュイ・サン・ジョルジュに決定した。
そんな因縁があるものだから、さらにレ・サン・ジョルジュだけがグラン・クリュに認められた場合、他の生産者との亀裂がさらに深まる恐れがあったからだ。
しかし、村の名前がヴォークランにならずに正解だったと思う。ヴォークランというのはフランスの古い言葉で『無価値』という意味だから。
時代は変わり、ドメーヌ元詰めが当たり前になった今、ドメーヌ アンリ・グージュの4代目当主グレゴリーが中心となって昇格への活動が行われている。
ピノ・グージュ
アンリ・グージュが単独所有畑のクロ・デ・ポレ・サン・ジョルジュで1936年に偶然見つけた白ぶどう品種がピノ・グージュ。
ピノ・ノワールの突然変異でピノ・ブランとも葉の形が全く違う。
1株のみ見つかったこの品種はペリエールにも植え、ロベール・シュヴィヨンやジャイエ・ジルなど近隣のドメーヌにも分け与えた。
力強い果実味を有しながらミネラリーなワインが出来る。
この村を本拠地にする有力ネゴシアンも多く、間違いなくワインビジネスの中心地でありながら見過ごされがちなニュイ・サン・ジョルジュ。
ならばそれぞれの畑のキャラクターを知り、生産者の想いを掬い上げることができれば、おのずとこの村の真価と魅力に気付くのだろう。