Pommery(ポメリー)
19世紀以前シャンパンは最初の1杯ではなく、最後の1杯であった。
ハチミツのように甘く造られたシャンパンはデザートと共に楽しむのが一般的であった。
しかし1874年、ブリュット・ナチュール(ドサージュ6~9g。現在の規定だとブリュットに分類される)の登場によってシャンパンは食前酒であり食中酒となる。
シャンパンの楽しみ方を根本から変えたブリュット・ナチュールは、ポメリーによって発明された。
この革命的な1本がなければ、もしかしたら現在もシャンパン=デザートワインであったかもしれない。
目次
■歴史
1836年 設立
ポメリー社はシャンパーニュの首都ランスで毛織物商を営む御曹司、ムッシュ・ポメリーによって設立された。
設立当時は羊毛取引が主な事業であったが、1858年にムッシュが急死。
2年後に未亡人のマダム・ポメリーが経営を引き継ぎ、シャンパーニュの生産に専念することでシャンパーニュメゾンとしてスタートした。
1868年 地下セラーの購入
今まで働いたことすらなかったマダム・ポメリーだが、事業を順調に発展させ広大な土地を購入した。
この土地の地下にはローマ時代にチョークを掘削したあとの巨大な空間が広がっており、その規模は全長18km、地下30mにもおよぶ。
瓶内二次発酵を安定して行い、炭酸ガスの内圧による瓶の破裂を防ぐには低い温度を一定に保つ必要がある。
116段の階段を下ると現れるこの空間は、約10度に保たれた理想的な地下セラーとなった。
これにより長期熟成が可能となり、ワインの品質は格段に向上した。
1874年 ブリュット・ナチュールの誕生
(ブリュット・ナチュール=ドサージュ6~9g。現在の規定だとブリュットに分類)
イギリス市場に大きな可能性を感じたマダム・ポメリーは理想とするシャンパンのイメージを明確に描いていた。
それは繊細できめ細やかで、可能な限り辛口。
当時甘口が主流だったシャンパン業界にとってこの発想は大変奇抜なものであった。
1850年代頃の一般的なドサージュ量はフランス国内向けで165g/L、より甘口を好むロシア向けで250g/L。
デザートワインで知られるソーテルヌの残糖が100g程ということを考えるとどれだけ甘かったのかが想像できる。
そして世紀のヴィンテージ1874年。
シャンパーニュのブドウは例外的なまでに熟し、マダム・ポメリーによって長期熟成されたワインはドサージュの力を借りずとも完全なバランスを実現する。
ドサージュ量を6~9g/Lに抑えたこのシャンパンを、マダムはナチュールと名付けた。
世界初の辛口シャンパーニュは周囲の期待を大きく上回り、喝采とともにロンドンで迎えられた。
デザートワインのような食後酒とされていたシャンパンが、食前や食中にも飲まれるようになった革命的な瞬間だった。
1990年 生産量至上主義へ
マダムの働きによってモンターニュ・ド・ランスを中心に308haものグランクリュを所有し、モットーの「品質第一」を堅実に守り続けてきたポメリー社であったが、彼女の死後その運命は大きく変わることになる。
20世紀後半、この魅惑的な遺産とは対照的にポメリー社は低空飛行を続け、ついに1990年LVMHに買収された。
そして「1996年までに年間生産量800万本を達成する」という目標を掲げ、生産至上主義にシフトしたのだ。
急激な生産量増加によって当然のようにワインのクオリティは落ち、特にノンヴィンテージキュベの劣化は激しく、ブランドイメージに大きく傷がついてしまった。
1996年 フランソワ・ヴランケン社による買収
LVMHはポメリー社を売却する際、偉大な畑だけは手放さなかった。
メゾンの心臓とも呼べる上質な自社畑を失ったポメリーを、誰もが負の螺旋階段を下り続けるのだと確信していたが、買い取ったヴランケン氏は非常に優秀だった。
デ・ヴノージュの醸造長であったティエリー・ガスコを招集することで2000年代以降品質は向上する。
現在フランソワ・ヴランケン社はヴランケン・ポメリー・モノポール社に名前を変え、エドシック・モノポールやドゥモアゼルも所有するグループ企業となっている。
グループのブランドポートフォリオは世界87ヶ国で流通しており、グループ全体の売上高は2014年に3億2290万ユーロに達している。
現在のシャンパンのスタンダードを創り出した偉大なるシャンパーニュメゾン、ポメリー。
さらに現在は、四季それぞれに限定のキュベを発表するSeasonalシリーズや、現代人のライフスタイルに合わせストロー、あるいは直接ボトルから飲む小さなクオーターボトルのPOPなど、他にはない様々な試みを行っている。
150年にわたってシャンパンの可能性を広げ続けるポメリーはまさにシャンパーニュのパイオニアといえる。
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