Vincent Dauvissat(ヴァンサン・ドーヴィサ)

ドーヴィサはRaveneauとともに長い間シャブリ最高峰の造り手と評されてきた。若い世代が台頭してきている昨今ではあるが、いまだにこの2強が揺らぐ気配は一切ない。ドーヴィサのワインは世界の星付きレストランのワインリストに欠かせない存在となっており、このため小売市場でお目にかかれることはめったにない。

 

歴史

ドメーヌは1920年ヴァンサン・ドーヴィサの祖父ロベールが設立した。当初はLes Clos(0.3ha)と1er La Forest(0.7ha)というごく小さな規模からのスタートであった。その後ロベールは1931年に初めて自らワインを瓶詰めし、この地区のパイオニアの一人となった。ロベールの息子ルネの代になるとドーヴィサの評判はうなぎ上りに上がり、Les Clos、Les Preuses、La Forest、Sechetなどを手に入れて畑の規模を拡張した。なお、ルネはフランソワ・ラヴノーの義理の兄弟にあたる。ルネの息子ヴァンサンがドメーヌに参入したのが1976年。彼は当時19歳だったが、それ以前にも学校の長期休暇を使ってセラーで父とともに経験を積んでいた。その後、本格的にフルタイムとして加わったのが1979年で、その10年後に父ルネが引退した。2013年からはヴァンサンの息子ジスランと娘エティエネットがドメーヌに加わり、ヴァンサンは2020年に表向きに引退を発表。しかし、実際には畑とセラーで子どもたちを献身的にサポートしている。

 

12.7haの畑を所有しており、2つの特級と4つの1erが全体の2/3を占める。特級はLes Clos(1.7ha)とLes Preuses(1ha)を持ち、1erはフラッグシップのLa Forest(3.7ha)を筆頭にSechet(0.4ha)、Vaillons(1.4ha)とスラン川左岸の畑が続き、右岸のMontee de Tonnerre(0.3ha)は2013年から新たに加わった。ドーヴィサのChablis Villagesは2区画からなり、大部分が1er La Forestに隣接する区画(2.5ha)で、残りは北西の村Beine付近にある(0.6ha)。またPetit Chablis(1.1ha)はLes Closの真上に位置する区画から作られている。

 

栽培

ドーヴィサの厳しい収量制限は剪定とエブルジョナージュ(摘芽)によって行われる。ヴァンサンはVinousのインタビューで実際には「収量制限をしようとしているわけでなく、ブドウ樹のバランスを保つ手助けをしている」と語る。バランスが取れることで植物として備わる本来の機能がうまく作用し、ブドウをしっかりと成熟させてくれると信じている。畑では余計な介入をできるだけ控え、2002年から全面的にビオディナミに移行した。しかし、ヴァンサンはそれについて口うるさく語ることはなく、認証取得を考えたこともない。収穫は全て手摘みで行い、「それぞれの区画を見て収穫のタイミングを決める。決められたルールはなく、Les Closから収穫を始める年もあれば、Les Closで収穫を終えることもある」と語る。収穫時にヴァンサンが求めているのは酸ではなくブドウの完熟度であり、そのためにはブドウ房をしっかり空気にさらすことが重要と考えている。

 

醸造

全房のままブドウをプレスし、約12時間のデブルバージュを行う。アルコール発酵は基本的にステンレスタンクで行い、ブドウが健全な年は自然酵母がスムーズに発酵を始めるが、果皮にカビがついている年はニュートラルな培養酵母を用いて発酵を促進することをいとわない。その後細かい澱とともにワインを樽に移していく。熟成期間はキュヴェ毎に異なり8-18ヶ月となる。Les Closでは新樽20%、その他のキュヴェはそれよりもやや控えめな比率となる。しかし、ここでも決まったルールはなく、新樽率が例年より少ない年もあれば霜で収量減となった年は新樽を購入しないこともある。ドーヴィサのセラーはアンティーク・ギャラリーとでもいうべき古樽の宝庫だが、最も古いものはなんと40-50年も使用されている。樽のサイズは通常の228Lに加え、伝統的なfeuillettes(132L)も使われている。この小型の樽は熟成サイクルが短いPetit Chablisやより石灰の多い土壌(1er Sechet)に向いており、より多くの酸素供給ができる。ドーヴィサにとって樽は熟成中のワインが呼吸するために欠かせないツールであり、「樽がもたらす柔らかさがなければ、シャブリの味わいは厳格すぎてしまう」という。マロラクティック発酵は通常収穫翌1-3月の間に起こるが、これより早まることもあれば遅れることもある。バトナージュに関してはヴァンサンがそうであったように息子ジスランも重視しておらず、行っていない。またドーヴィサでは酒石酸除去のための冷却処理やフィルターを使用しないが、これは冬場のセラーの低い気温が自然とこの処理を行ってくれるためである。無濾過、無清澄そして最小限のSO2で瓶詰めをする。

 

味わい

地球温暖化の影響による近年の気温上昇は、冷涼地域であるシャブリにとってデメリットよりもメリットのほうが大きいと言う声もある。一方で、近年の暑い年のシャブリ(とりわけグラン・クリュ)はテロワールの個性である「鋭さ」にかけると指摘する飲み手もいる。どちらの言い分にも納得できるが、ドーヴィサのワインは両者の良い点を同時に感じさせてくれる。つまり、酸ではなく熟度を優先するドーヴィサの収穫モットーが、地球温暖化の太陽パワーと相まって見事な熟度を示す一方で、糖度とアルコールが高い年であってもドーヴィサのワインには力強いミネラルと活力あふれる酸が作る強固なストラクチャーが感じられる。例えばLes Closはどんな年でも力強い硬質なミネラルが下支えしており、Vinousのステファン・タンザーはMeursault PerriereやChavalier Montrachetを類似例として挙げている。両者とも偉大なワインだが、シャブリの方が北に位置しているため、同じ暑い年でもドーヴィサのワインの方がより高い酸が楽しめるとしている。この高い酸と強固なミネラルが作るストラクチャーがワインのボディを彫刻のように削り上げ、果実は脂肪としてではなく、筋肉としてバランス良く寄り添う。このスタイルこそがWA誌に「過去十年の暑い年においてドーヴィサ以上にシャブリのクラシカルな性格を表現するのに長けた造り手はいないだろう」と言わしめ、Vinousが「ドーヴィサはシャブリを体現する造り手である」とコメントする理由であろう。シャブリを体現するもう一人の偉人Raveneauと比べると、ドーヴィサのワインはややムラッ気がある点が挙げられる。特に瓶詰め後の数年はがっちり閉じていることが多く、若いうちは酸素との触れ合いがマストとなる。また、Raveneauはテクスチャーがより滑らかで、果実の力強さ(甘やかさ)がやや上回るのに対し、ドーヴィサはピンと張り詰めたワイヤーのような緊張感、よりリニアな酸がつくるエレガントなスタイルが特徴的だと言える。

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