古木の力を利用する
- 2025.04.26
- ワインニュース
- V.V., Vieilles Vignes, 古木, 古樹

ブドウ畑の大御所の秘密は、将来のブドウ栽培に役立つかもしれません。
私たちは、生き物もそれ以外でも、古いものと愛憎関係にあります。
歴史や知恵を尊重し、文化遺産が意図的にあるいは偶然に破壊されることを嘆くものです。人類の歴史の象徴があまりに強力なものである場合、全世界が一丸となって破壊後の再建に乗り出すようなこともあります。
しかし現実には、私たちはまだ使用可能なものや(ファスト・ファッションから出るゴミは年間9200万t)や、保存する価値のある生き物さえもゴミにしています。仕事を追われる定年退職者のような古木は40%もあり、より若く生産性の高いブドウ木に植え替えるために樹齢25年のブドウ木も引き抜かれています。このように私たちは信じられないほどの量の廃棄物を生み出しています。そして、これらは将来、気候変動と闘うための鍵になるかもしれない文化遺産かもしれないのです。
「樹齢35年を超えたブドウ木は、非常に稀有なものです」と、ワインライターで古木愛好家のAlder Yarrowは言います。これは、ブドウ木が引き抜かれ、植え替えられる世界的な平均樹齢と、古木登録簿に登録する価値のあるブドウ畑に指定する際の樹齢です。「生産量は落ちますが、それらは文化的、歴史的、環境的に宝である、保存する価値は十分にある」。
古木もまた有限であり、いったん無くなってしまえば、その味わい、歴史的記録から気候変動と闘う可能性のあるDNAに至るまで、古木が将来貢献しうる価値が消えてしまいます。だからこそYarrowは、たった一人で(しかも無報酬で)、現存する歴史的ブドウ畑の世界初のクラウドソーシング・データベースであるOld Vine Registry(OVR)を運営しているのです。
カリフォルニアには1775haの古木のブドウ畑がOVRに登録されていますが、Yarrow によれば、おそらくそれよりもはるかに多くのブドウ畑があるようです。
「ほとんどの人は、私たちの登録システムの存在すら知らない」と彼は言います。「2025年の今、1990年にたくさん植樹されたブドウ畑が、古木として登録されることになるのです。登録することはとても重要です。いったん何かが無くなると、人々は何を失っているのかさえわからなくなるからです」。
古木保存の意味合いについての考察が必要です。
古木、より良いワイン
結局のところ、古木からはより美味しいワインを造れるのだろうか?常に議論の余地はありますが、研究結果や逸話的証拠は「イエス」を示しています。
American Journal of Enology and Viticulture誌に掲載された研究によると、ジンファンデルの若木(樹齢5~12年)、混合(若木と古木の混合)、ドライファーミングの古木(樹齢40~60年)を2つのヴィンテージにわたって比較したところ、「古いジンファンデルの畑では、収量、根の深さ、ワインの品質が向上する」可能性があることが示されました。
調査結果でも指摘されているように、樹齢の高いブドウ木は根が深くまで伸びて、土壌の栄養分と地表深くにある水を 「養分」としています。これにより、樹齢の高いブドウの木は、困難で乾燥したヴィンテージでも生育できるだけでなく、彼らが根を張るテロワールをより正確に表現することができるのです。
「樹齢の高いブドウ木は、その広く張った根を通じて、地中の微量元素にアクセスすることができる」。と、ナパ・ヴァレーに212haのブドウ畑(10%は少なくとも樹齢75年)を所有するGrgich Hills Estateのワインメーカー兼ブドウ畑・生産担当副社長の Ivo Jeramazは言います。「古木は自らを維持するために必要とするものは少量でよく、味や香りといった品質に劇的な影響を与える」。
生産者の中には、古木に惚れ込み、その木にまつわるブランドを立ち上げる者もいます。
Rebekah Wineburgは、ナパを拠点とするPost & Vine Winesを共同設立し、北カリフォルニアにあるカリニャンの古木のブドウ畑への愛をアピールし、あまり知られていない古木の所有者のテロワールとストーリーを愛好家のグラスに届ける手助けをしています。Wineburgは、メンドシーノのTesta Vineyard とローダイのMule Plane Vineyard と仕事をしています。両方の畑ともブドウ木を植えた家族により所有、耕作されています。
「ワイン造りの観点から言えば、古木が最高のワインを生み出すことは間違いありません」とWineburg は言います。「糖度が低くても複雑な風味を持つ果実が収穫でき、特定の土地によく適応しているため、テロワールを真に反映したワインを造ることができ、ワイン造りで手を加える要素はほとんどない」。
ドライ・クリークのPedroncelli Wineryでは、Julie Pedroncelli St. John 社長が、樹齢10年のものから100年以上のものまで、様々な樹齢のブドウ木を栽培していると言います。彼女は、すべての品種が同じように優雅に樹齢を重ねるわけではないと指摘します。
ジンファンデルは、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンのようには“樹齢を重ねない”と彼女は言います。「ンファンデルだと、古木でも果実を間引かなければ均一に熟すことができない」。
全体的に収量が少なく、果実の量も少ないが、古木は必ず 「より凝縮した風味」をもたらすとPedroncelliは言います。
気候変動への耐性
私たちは皆、より複雑でニュアンスのあるワインを好むものです。しかし、古木は、確実に美味しいブドウを収穫できる“だけ”ではありません。古木は、様々なヴィンテージで数十年かけて進化してきたため、気候変動の中で状態化しつつある生育条件の気まぐれに対してより強いのです。
ブドウ・ワイン研究所によると、樹齢35年以上のブドウ木は、遺伝的に多様な淘汰が行われる中で生き残る特定の突然変異のため、気候変動によりよく対応できるということです。
また古木は、根を深く張っているので、水の量もかなり少なくて済むのです。
「カリフォルニアの最も貴重な資源は水だ」とJeramazは言います。「古木は、根が発達しているため、若いブドウ木の根よりもはるかに深い部分の水を利用できる。つまり、夏の乾燥した時期でも、人為的な散水をあまり必要とせず、ブドウ木を維持することができるのだ」。
レイク・カウンティにあるShannon Family of Winesで生産担当副社長を務めるJoy Merrileesは、樹齢100年以上のサンソーを数ha所有しているが、この古木がほとんど水を必要としないことに同意しています。
「彼らはサバイバル(生存者)です」とMerrileesは言います。「古木は土地の一部であり、干ばつにとても強い」。
Wineburgは、古木は干ばつに強く、暑さにも強いことを指摘します。
「古木は、何シーズンもかけて知恵を身につけ、熱波が襲ってきたときに身を守る方法を知っているようだ」と彼女は言います。
低収量で長い成熟期間
古木は、文化的、歴史的、環境的に貴重な存在かもしれないが、同時に重大な課題も抱えています。
「古木は若木よりも収量が少ないのが典型的」とリヴァモアの Concannon Vineyardでワインメーカーを務めるBrett Fikseは言います。
「Concannonの古木は、1haあたり2.5~7.4tの収量になることが多いが、若木は1haあたり9.8~14.8tになることもある」。
Fikse によれば、古木は、非常に高品質で凝縮し、複雑さをもたらす果実を実らせるが、熟すのに時間がかかるため、遅霜や早霜のある難しいヴィンテージでは問題になることがあります。そして、栽培には、質の高い手作業を必要とします。
Crimson Wine Groupのチーフ・ワインメイキング&オペレーション・オフィサーであるNicolas Quillé MWは、カリフォルニア、ワシントン、オレゴンに221haのブドウ畑を所有しています。そのうちおよそ10haは1895年から1926年の間に植えられたものだそうです。「凝縮していて傑出した」ワインを造るため、古木を大切にしていて、彼らは大体、樹齢25年を超えたブドウ畑を植え替えています。
「私たちは、ほとんどの植え付けは25年で古くなると考えており、植え替えのガイドラインとして、保有する畑の1/25を毎年植え替えることにしている」とQuilléは言います。
「1990年代に植えられたブドウ畑の多くが、疲弊し、収量が少なく、ウイルスに冒されていたり、もしくはクローンや台木、品種が間違っていて、私たちが必要としないブドウを生産していることがわかった」。
過去と未来のバランス
いくつかのブドウ畑は、アメリカのブドウ栽培の歴史において、重要な役割を持つことで知られています。
Concannonの母木は、James Concannon が1883年にボルドーのChâteau Margaux から輸入した、カベルネ・ソーヴィニヨンの希少なクローンのもので、良い例です。1965年、Jim Concannonと UC Davisは、母木からConcannon Clones 7、8、11を生み出し、これらのクローンは現在、カリフォルニアのカベルネ栽培のおよそ80%に使われていると推定される。
Concannonのチームは、彼らが維持している古木、特にFikseが 「歴史的な宝物」と呼ぶ母木のブロックを大切にしています。
しかし、古いブドウ畑は有名でなくても、保存し、深く尊重する価値があります。
「樹齢50年以上のブドウ畑の多くは、どの苗木園にも存在しないような栽培品種やバリエーションを持つブドウ木が植えられている」とYarrowは指摘します。「そこに存在する遺伝情報や突然変異は、計り知れないほど豊かで、私たちにとって有益なものだ。なにしろ150年〜200年も生き残っているのだから。未来への鍵を握っているかもしれない」。
古木に法的な定義はないが、見れば、あるいは味わえば、わかります。
Grgichの創設者である故Miljenko“Mike” Grgichがよく言っていました。「年老いたブドウ木は、年老いた人間と同じように、若い人にはまだ成し得ない品質、つまり年齢だけがもたらすことのできる知恵を備えている」。
私たちは、理論的には古木(そして年老いた人々)を大切にしていますが、実際は必ずしもそうではありません。もし私たちが彼らの多様性と知恵を未来に残すつもりなら、この点は改めなければならないでしょう。
引用元:Harnessing the Power of Old Vines
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。

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