2020年のブルゴーニュ:“ホット”な内に手に入れるべきヴィンテージ

2020年のブルゴーニュ:“ホット”な内に手に入れるべきヴィンテージ

2023年にリリースできるヴィンテージは少なくなる見込みなので、ブルゴーニュの生産者達は2020ヴィンテージで利益を得ようとしています。そのため、価格の急上昇には注意が必要です。


2020年は、2003年、2015年より暑い年だと言えるでしょう。しかし、全体的に赤にはそうした暑い年の風味はなく、白には2019年に欠けていたフレッシュさと酸があります。そしてそのどちらも補酸などの人工的な処理が行われたわけではありません。一体どうやったというのでしょう?

 

このヴィンテージは均質ではありませんでした。熟しすぎた赤もあれば、ほんの少し酸が低い赤も見られます。ある赤については「スペインならフレッシュで通じる」と私は記しました。このようにバラツキのあるヴィンテージには、赤ワインを買う前には味見した方がいいでしょう。

 

しかし、我々にその選択肢はあるのでしょうか?ロンドンでワイン売買に携わる  Charles Taylor  によれば、ブルゴーニュの需要は価格とともに急上昇しているといいます。「この6ヶ月で主要な市場がすべて戻ってきました。以前は、ヨーロッパの輸出品にかけられた高い税金の関係でアメリカ市場は買い控え、ヨーロッパのオフ・トレード(小売市場)については、イギリスは持ちこたえたものの、横ばいでした。しかし、夏になると突然ブルゴーニュが復活したのです。12ヶ月前には満杯だったセラーが、今は空っぽになっています。すべて売れてしまい、価格も高騰しています」

 

そのため、2020年の価格は2019年のオープン価格に対して10~20%程度上昇。トップエンドであるグラン・クリュになると30~40%以上も上昇、55パーセントも上がっているものもあります。しかしTaylorはこう言います。「これについて生産者を責めることはできません。2023年は赤字になることが分かっているから、彼らは2020ヴィンテージで利益を得ようとしているのです」

 

ロンドンに拠点を置くファインワインのサプライヤー  Justerini & Brooks  の  Giles Burke-Gaffney  氏も同意見です。「生産者達は2023年には出来ないからこそ、今年やるのです」

 

2023年にリリース予定の2021ヴィンテージはそれほど期待の出来る年ではないようです。2020年が暑かったとすれば、2021年は雨の多い湿った年でした。赤はやや水っぽく、腐敗の脅威のために一部の生産者は早摘みを余儀なくされました。そして、より良い年の価格を押し上げる要因として、より劣る年の脅威に勝るものはありません。

 

Taylorは「グラン・クリュ・ブルゴーニュはボルドーの一級シャトーと同じ運命を辿っている」と言います。とはいえ、2020年のグラン・クリュ・ブルゴーニュは現在の市場に出回るもっと古いヴィンテージのワインよりは安いことが多いとも付け加えます。人々は2020ヴィンテージを買うのでしょうか?「イギリスでは少し抵抗がありますが、アジアとアメリカは買ってくれるでしょう」

 

ここで少し落ち着いて一歩後ろに下がって、2020年に何が起こったかを見てみましょう。なぜ夏暑かったのに、そのような年の味わいではないのでしょうか? Jasper Morris MW   の詳しい解説は以下の通りです。

 

「開花は早かったですが、遅霜がなかったのは嬉しい変化でした。記録に残るほどの早い開花で、収穫も早くなりましたが、開花から収穫まで100日近くあり、ブドウのハングタイムは適切でした。早いタイミングで開花から収穫までの日数が100日ほどあると、遅いタイミングでの100日よりも日照時間が長くなり、暑さも和らぎます。とはいえ最後の数週間が違いを生むのは事実ではありますが」
さらに Morris はこう付け加えます。「2020年は2003年のような感じではありませんでした。暑くはありましたが、急激な気温上昇がなかったのです。例年に比べるとやや暖かい8月まで均一に高い気温が続きました」

 

また彼は、昼夜の気温差がそれなりにあったことや、干ばつでブドウ樹にストレスがかかり、生育が止まったことも指摘しています。また、寒くて乾燥した北からの風や、暑くて乾燥している南からの風も影響しており、乾燥した風は糖分、酸味、風味を凝縮させました。糖度は高くなりすぎず、アルコール度数はほとんどのワインで13〜14%程度となり、酸は果実の成熟が進んでも消えない酒石酸が多くを占めていました。

 

勝敗を決める収穫者

最終的なワインの味わいは収穫時期によって大きく左右されます。糖度が上がりすぎて酸味が落ちるのを恐れた人々は早い時期に収穫を行ったとMorrisは言います。彼らのワインは、アルコール度数が13.5%前後で、フレッシュさを保っています。遅めの収穫を選択した人は、雨が降ることを待っていたようですが、残念ながらそれは起こりませんでした。

 

「ワインがバランスよくできていれば14〜14.5%のアルコールを受け入れることができますが、味の特徴を考えなければなりません」とMorrisは言います。「ピノは黒系果実主体がいいのか、それとも赤系果実主体がいいのか?遅めの収穫を行う人々はその点を十分に考慮していないと私は考えます。個人的には、黒い果実よりも、フレッシュでエネルギッシュな赤い果実主体のピノが私の好みです。過熟な味わいはいつまでもそのまま残りますが、ブドウが僅かに未成熟の場合であれば、瓶熟成の時間を経ると自ずと解れていきます。ブルゴーニュでは1959年から1990年にかけて、ブドウに若干の成熟不足があったことは認めなければなりませんが、それがダメだというのなら、1959年から1990年の間に良いヴィンテージはなかったということになってしまいます」

 

2020年はほとんどの生産者が抽出を控えたようです。この年のブドウは果汁が例年に比べ少なく、非常に凝縮感がありました。通常、315〜320kgのブドウで1つの樽がいっぱいになりますが、今年は抽出を抑えたため1樽を埋めるのに360kgのブドウが必要となりました。色も濃かったので、抽出では余計な介入をせず、誰もがルモンタージュか非常に軽いピジャージュにとどめています。繊細な扱いが必要な年となりました。

 

茎までしっかり熟していたため、全房発酵の割合が増えるケースもあったようです。発酵中に茎を入れることで、よりはっきりした味わいになりますが、たくさん使うと酸が減ってしまうので生産者は細心の注意が必要でした。このような暑い年には減酸は誰も望まないためです。ChansonのVincent Avenel  は、以前は毎年100%全房発酵でしたが、今はより細かい調整を行い、50〜75%に留めていると言います。

 

2020年の赤は凝縮感があり、最高のワインは素晴らしい偉大さを備えています。Bertrand Ambroise, Bruno Clair, Drouhin-Laroze, Follin-Arbelet, Genot-Boulanger, Ghislaine Barthod, Michel Magnien, de Montille, Robert Chevillon, Rossignol-Trapet… まだまだ挙げきれないほどです。

 

これらの赤は、筋肉質で力強く、エネルギッシュでありながら、無理なくバランスが取れています。この要素が今年の最高の赤ワインになるための鍵であり、どのワインが最もよく熟成するかを計る鍵でもあります。もし熟しすぎていて、少し柔らかすぎるようなら、かなり早めに飲む方が賢明かもしれません。しかし、2020年の赤はじっくりと時間をかけて、その実力を発揮している面もあります。1月のテイスティングでは、11月に試飲したワインよりも全体的に印象的なワインが多かったのです。確かに生産者は違うので、そのことに大きく起因すると考えるのは簡単です。しかし、Morris は、やはりこの年のワインは個性を発揮するのに少し時間がかかったと考えています。

 

ホワイトナイト -救済者-

赤はこれくらいにしましょう。白は、フレッシュで、タイト、凝縮感があり、しばしば塩味も感じられ、美しいバランスを保っています。赤ワインと違ってブドウの果汁もたっぷりあります。アルコール度数は14%を超えることはめったになく、ほとんどのワインでかなり低めでした。酸味はほぼすべて酒石酸で、過熟はほとんどありません。教科書通りの白ブルゴーニュであり、2019年よりも優れています。あえて厳しく言うなら、樽を少し効かせすぎたワインが幾つかあった、という点くらいです。そして、マッチを擦ったような香りは減少していますが、まだいくつかのワインには、もう少し抑えても良いと思えるほどにしっかりと感じられました。

 

実際、今年のシャブリはまさにシャブリの味をしています。–必ずしも全てが鋼鉄のようではないですが、確かに張りがあり、直線的で塩気があります。飲めばチョークの味が感じられるはずです。シャブリでは8月に少し雨が降ったのが幸いし、やはり2019年のものよりも美味しくなっています。

 

2020年の白で特に顕著なのは、・ブラン、サントーバン、マコネ、コート・シャロネーズなど、それほど高くない白ワインの中に、バーゲンプライスではない堂々とした価格で、実際よりも立派に見えるようにドレスアップしたワインがあることです。これらのワインを飲むと、クリーム、スモーク、オークに、柑橘類とナッツの要素が感じられますが、よくよく味わうと、これらの要素がただ一つに詰められた、それ以上のものがないワインだと気づくでしょう。よく見るまでは、完全に納得してしまうほどです。

 

Private Cellar  の  Nicola Arcedeckne-Butler  にこの話をしたところ、彼女はこう言いました。「こういった白ワインはしまっておかずに早く飲んでしまうことです。それに私たちが以前飲んでいたような貧弱な白ワインより、ずっと良いと思いませんか?」もちろん、その通り。彼女は正しいです。

 

それ以上のレベルになると、2020年はアペラシオンごとにかなりはっきりと味わいの違いが感じられます。
しかし、どのワインにも過去の「クラシック」なヴィンテージよりもやや熟したニュアンスを感じます。Pernand-Vergelesses  の場合、あの独特の石っぽさが少し減っていますが、それでも張りがあってエレガントです。Le Montrachet  は、はっきりと直線的で、Corton-Charlemagne  は、素晴らしい上品さを保ちながらも肉付きの良さを見せています。

 

余談ですが、アリゴテは素晴らしい仕上がりです。まだ飲んだことがない人は、2020年こそ試してみてください。

 

さて、気候変動とブルゴーニュの未来はどうなるのでしょうか。ここで再びMorrisに話を聞いてみましょう。

 

「ピノ・ノワールは対応できる限界にきています。シャルドネはカリフォルニアでも育つことができますが、ピノ・ノワールは12.5%から、いっても13%の範疇のワインであるべきだと私は思っています。15.5%ではだめなんです。シャルドネに比べ、ピノ・ノワールは確実により高いリスクに面しているでしょう」

 

しかしMorrisは「生産者は、この問題に対して非常に素晴らしい取り組みをしています」と、前述のやや破滅的ともいえる宣言を和らげました。「生産者たちはピノ・ノワールを守るために、懸命な選択を続けています。台木を選択し、マッサルの選択やクローンの変更を行い、ブドウ栽培にも変化をもたらしています。新梢を刈り込むかどうか、耕す時期をいつにするか、また、日陰を作るなどの明らかな変化もすべてが役に立っています。2020年のビオディナミは、通常言われているような低収量にはならなかったようで、最もバランスの良いワインを造ったドメーヌは、しばしばビオディナミを採用している先でした。ビオディナミを実践しているドメーヌにとって、ビオディナミの魅力の一つは、常に、より良い酸を与えることでしょう。今年はそれが功を奏したのかもしれません」

 

Morrisはまた、ピノ・ノワールは”新しいルール(=温暖化)に慣れてきており、おそらく2019年よりも2020年の方が干ばつの影響を受けなかったのではないか”という示唆を与えています。

 

つまり、パーティーはまだ終わっていないという事です。しかし、ブルゴーニュのどこを探せば掘り出し物が見つかるか私たちが分かった時代はもう終わったのかもしれません。

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/02/2020-burgundy-get-it-while-its-hot

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