ドイツ産リースリングと気候変動

ドイツ産リースリングと気候変動

近年の気候変動はドイツの森林と多くの農業従事者に壊滅的な影響を及ぼしています。

 

ドイツの農林大臣によると森林はかつてないほどのスピードで枯渇しており、暑く乾燥した気候と害虫の影響で、トウヒの79%、松の木の80%、オークの80%、そしてブナの89%が甚大な被害を受けていると警告しています。

 

中央ヨーロッパの植物は近年の気候に耐え忍ぶことが出来るようには発展していません。植物への被害が拡大するということは、森林や植物に依存している野生動物や昆虫にも影響を及ぼし、すべての食物連鎖に大きな変化が訪れます。

 

しかしながら一部の植物には好影響があるようで、多くのブドウ栽培者は温暖化の恩恵を受けています。収穫量が増加しただけではなく、ブドウの品質も大きく向上しているケースがほとんどです。

 

「一昔前は、リースリングのブドウが十分な熟度に達さないことが醸造家にとっての懸念点でしたが、その時代は終わりました。」と、ワイナリーGut Hermannsbergでコンサルタントを前任していたStuart Piggottは語っています。

 

繊細な酸度を失ってしまうような暑さに達するまで、ドイツワインの黄金時代はいつまで続くのでしょうか?そしてドイツの生産者やVDP(ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会)は近年の変化にどのように対応し、将来に向けて準備を進めていくのでしょうか?生産者やインポーター、専門家など、ドイツワインの文化を形成する人々の意見を聞いてみましょう。

 

実際のデータ

まず初めに近年のドイツの気候データを参照してみましょう。過去5年間はドイツでも最も熱く乾燥した気候となり、2018年4月から10月においては平均気温が3℃も上昇しています。

 

Huglinによる気候区分によると、ドイツの平均気温は1970年から1980年にかけてゆっくりと、そして着実に上昇し始めました。1980年から1990年にかけては平均気温13.7度から15.8度を記録しています。そして2013年から2020年の期間における最低平均気温は15.5度で、最高平均気温は17.8度でした。

 

このような気候変化の影響で、ミュラー・トゥルガウやリースリング、ピノ・ブラン等のドイツの古典的な品種は生存の危機に脅かされており、一方でグルナッシュやカベルネ・ソーヴィニョン、、ピノ・ノワール等の品種が繫栄する時代に突入していることがHuglinによる気候区分の計測結果から分かります。

 

「しかしこの結果は想像以上に複雑なものです。ブドウ栽培における気温の下限は長年の研究によって明確になっているので、この地域は寒すぎるのでこのブドウ品種の栽培には向かない、ということが分かります。しかしながら気温の上限が問題視されているのはここ最近になってからです。私は今60歳ですが、私が生きている間にドイツがリースリングの栽培をやめることは考えられません」とPiggottは述べています。

 

Piggottは気候変動に反対論を唱えているわけではありません。彼は農業や醸造方法が地上のコンディションに適応し、我々に馴染みのあるワインのスタイルが進化していくことを予測しているのです。

 

「ドイツワインのアルコール度数はこの10年間の間に急速に増加しています。2003年から2007年にかけてはブドウが非常によく熟したヴィンテージとなりましたが、2018年以降は2050年に対する不安を感じざるを得ないヴィンテージになりました。楽観的な人々もいよいよ危機感を覚えています。森林を復活させるためには、生態系を丸ごと立て直さなければいけないのです」とPiggottは語ります。

 

暑さだけが問題ではありません。蕾を破壊しうる霜害も大きな問題です。ヨーロッパ全域で発生した冷たい春の影響はドイツの畑にも大きな打撃を与え、予測できないこれらの現象は人々を混乱させ、対策を講じることを困難にさせています。

 

栽培品種の変化

早まる収穫時期、乾燥した地下水面、そして前例のない様々な気候条件に対応するために、醸造家はどこでどの品種を栽培するか、過去の慣例を変えようとしています。

 

「ファルツのある醸造家によると、リースリングの糖度は上昇する一方だといいます。偉大なリースリングとそうでないリースリングの違いは、数グラムの糖度によって決まります。現状、伝統的な生産者達はリースリングを引き抜いてスペイン系品種に植え替えようとは考えていません。その代わりに、キャノピーマネージメントで葉の調整をしたり、より深く根を伸ばすことのできる台木を採用したり、より小粒で実の少ないクローンを選んだり、日照量を調整するために樹の向きを変えたり、土壌の管理を通して畑の生物多様性を高めることで、畑の温度を下げて保水性を上げる取組をしています。」と、ニューヨークを拠点とするインポーターDavid Bowler Wine 社でドイツワインのマネージャーを務めるEvan Spingarnは説明しています。

 

一方で、Dランクの畑をトップレベルまで引き上げようとしている生産者もいます。ラインガウのワイナリーLeitz Weinで畑の管理を担当するAlexander Schregelによると、より多くの太陽を享受できるので彼の父親は斜面に位置する畑を好んでいましたが、現在彼らは森林付近に位置する畑を好んでいるそうです。

 

ヴュルテンベルクのシュテッテン村では村の全域でブドウの栽培が可能だと、ヴュルテンベルクを本拠地とするワイナリーKarle Haidleで醸造を担当するMoritz Haidleは述べています。「私の父が20年前にカベルネ・ソーヴィニョンとカベルネ・フランを栽培した時、それらの品種が熟すのは不可能だと周囲の人々は感じていましたが、実際には毎年熟すことが出来ました。私は現在もリースリングとブラウフレンキッシュを栽培していますが、30年前にはこの地で栽培が不可能だと考えられていたシュナン・ブランやソーヴィニヨン・ブラン、メルロを栽培している生産者もいます。」

 

国際品種はまだメジャーではないものの、その数は徐々に増えつつあります。そしてドイツは白品種が主流ですが、ピノ・ノワールを筆頭に赤品種の割合は34%を占めています。

 

次の主流は?

栽培者はより標高が高く岩の豊富な土地を探し、新たな農業慣行を取り入れ、そして新たな取り組みを試みる人々はより北側へと向かっています。

 

白ブドウでさえ完熟が懸念されていた時代はすっかり過去のものです。ファルツとラインヘッセンで力強く果実味に富んだカベルネ・ソーヴィニョンが熟すような時代に突入しており、20年前には想像も出来なかったような畑で世界最高峰のリースリングを生産することが出来ています。

 

「気候変動は過酷なものですが、同時に数々の創造性を解き放ちます。10年前には不可能とされてきたことが可能になっています。ドイツのピノ・ノワールは世界でもトップレベルになっていますし、我々が愛するリースリングの栽培を守るために数々の対策もされています。」と、Piggottは前向きに語っています。

 

品質と米国での評価という点において、Spingarnはピノ・ノワールに自信を持っており、気候変動が大柄なだけでなく質の高いワインを生みだすきっかけを与えてくれていると述べています。

 

「気候変動はブドウの収穫量には悪影響を与えておらず、むしろ収穫量の増加が確認されています。”Tシャツの収穫”と呼ばれるほど温暖だった2018年には非常に大量のワインが生産されましたが、その出来は水っぽいもので、個人的にはあまり納得のいくものではありませんでした。2009年と2011年も同様です。販売量が増えるので生産者にとっては好都合かもしれませんが、”収穫高が多く容易”ということが”より高品質”という意味ではありません。」と、David Bowler Wine 社のSpingarnはまとめています。

引用元:https://wine-searcher.com/m/2021/06/climate-challenge-for-german-riesling

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