自根のブドウ樹が見据える現実
フィロキセラの脅威が絶えず存在しているにもかかわらず、著名生産者たちが属する生産者団体が“自根の樹から造られたワイン”のユネスコ認定に向けて動いているため、ブドウ畑の遺産がユネスコに認定される可能性があります。
19世紀にフィロキセラ(害虫の一種)がヨーロッパに上陸すると、地球上の偉大なワイン生産地が壊滅状態に陥ったので、現存する大半のブドウ樹はフィロキセラ耐性のある台木に接ぎ木されたものです。しかしながら、ドイツのEgon MullerやボルドーのLoic Pasquetといった勇敢な生産者は、フィロキセラ以前のワインの風味を取り戻すことを決意しています。
フラン・ド・ピエ団体の結成
Pasquetは自根回帰のムーブメントの原動力になっており、いわば「自根のアベンジャーズ」を結集することで、接ぎ木なしのブドウから造られたワインの優位性を広めることに一役買っています。MullerやPasquetの他に、ブルゴーニュのThibault Liger-BelairやPhilippe Charlopin、シャンパーニュのAlexandre Chartogne、ローヌのMaxime Graillotといった、ヨーロッパを代表する錚々たるメンバーがそのリストに名を連ねています。
これらの新たな「フラン・ド・ピエ団体(フラン・ド・ピエ=自根の意)」は、それぞれの地域で自根によるブドウ栽培を促進することを目的とし、すでに政府からの強力なサポートも得ています。2021年6月上旬にモナコのモンテカルロにおいて行われた立ち上げでは、モナコのプリンス・アルベール2世やジョージアの大統領、フランス大統領エマニュエル・マクロンの側近らを魅了しました。
今後数か月にわたって規則が整えられると、土着のテロワールで育つ自根のブドウ樹のユネスコ世界遺産認定に向けて、フラン・ド・ピエ団体は動き始めます。
団体のマニュフェスト曰く、「”フラン・ド・ピエ”のラベルは、そのワインが品種由来のテロワールで接ぎ木なしで育ったブドウから造られたことを証明するもの」だといいます。
接ぎ木がワインに与える影響
ボルドーでフィロキセラの被害が拡大し生産者がアメリカ産の台木で接ぎ木を行うようになってから、ボルドーワインの産業化が始まったとPasqueは確信しています。「最近のワインは全てありきたりな、どれも同じような味わいがします。しかし自根のブドウから造られた真のワインは、その場所を表現する本来の姿を教えてくれるのです」と述べています。
しかしながらこの新しいプロジェクトにはフィロキセラが絶滅していないという厳しい現実もあります。フィロキセラはブドウ樹の根を攻撃し、内側から破壊していきます。ブドウ樹が機能不全になってから初めてフィロキセラの害に気づくことになるのです。フィロキセラ耐性のある台木に接ぎ木をすることでフィロキセラの繁殖を防ぐことができますが、接ぎ木によってブドウ樹と台木の間にフィルターが置かれ、ブドウに影響を与えるというのが自根支持者の意見です。
1世紀以上もの間、生産者たちは健康な作物と引き換えにブドウ樹の個性を失ってきました。
また、ブドウ樹を保護するために多くの国が自根の樹に対して制限を設けています。例えばジョージアでは、ソヴィエト時代から商業的なブドウ畑における自根のブドウ樹の栽培を禁止していますが、ワイン起源の地として自根のブドウ樹を認める動きが始まりつつあります。
土壌とフィロキセラ
Pasquetによると土壌はフィロキセラ対策において重要で、ボルドーの他の地域がフィロキセラの被害で貴重な樹々を引き抜かなければならなかった時も、彼の故郷であるグラーヴではフィロキセラが発生しなかったことが研究で示唆されています。粘土がポイントです。
「粘土のない土壌ではフィロキセラは発生しません。粘土の割合が高くなればなるほどフィロキセラが発生する確率も高くなるので、花崗岩や砂質、そして火山性土壌では自根の樹を育てることが出来るのです」とPasquetは説明します。
他にもシンプルな方法はありますがオーガニックワインのファンには適さないものだといいます。「殺虫剤です。8月に一度殺虫剤を散布することで害虫の循環を絶つことができるので、自根の樹を育てることができるのです」
しかし、Pasquetは全ての畑が自根に回帰し、アメリカ産台木が悪い記憶になるような未来は予測していません。彼は適切な特定の地域で自根の樹が育つ世界になることを期待しています。
フラン・ド・ピエ団体はそんな未来の実現のために最善を尽くしています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/06/feet-on-the-ground-for-ungrafted-vines
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