“ 古樹 ” の新たな概念

“ 古樹 ” の新たな概念

ワイン業界では新たな流行語が誕生しては消えていきますが、どうやら ” 古樹(ヴィエイユ・ヴィーニュ)” という言葉は定着しているようです。

 

古樹に実るブドウとそのブドウから造られるワインによって、古樹のイメージは消費者と業界の崇拝の的となっています。しかし実際のところ、樹齢の高いブドウ樹は若いものより優れているのでしょうか?そして醸造の面において、生産者に収益性をもたらすのでしょうか?

 

南アフリカのワイナリー  Piekenierskloof  の醸造家である  Cerina van Niekerk  は、1962 年植樹のブドウ樹を扱っています。彼女によると、古樹は必ずしも扱いにくいというわけではないですが、より多くの思考と技術を必要とするといいます。「剪定の技術に長けた人物を配置する必要があります。剪定の作業自体は(若樹と)同様なので、必要とする結果を得るためにはどのようなカットが最適か、より多くの思考が求められるからです」と彼女は述べています。また、ブドウ樹に傷がついてしまうとその傷口から病害のリスクが高まってしまうので、古樹は傷つけないように細心の注意が必要です。

 

アルゼンチンのワイナリー  Zuccardi  の醸造家である  Sebastian Zuccardi  によると、アルゼンチンのウコ・ヴァレーでは樹齢 100 年を超える古樹も珍しくないそうです。 Zuccardi  は 「古樹を扱うのは非常に面白いことですが、実際には樹齢の高さよりもブドウがどこでどのように栽培されているかのほうが重要です」 と説明します。樹齢以上に、健康で手入れの行き届いたブドウがより高品質なワインを生み出すと述べています。

 

古いほうが良い?

フランスのインポーターである  Paul Wasserman  は健全な農業が重要であることに同意しつつも、実際に古樹が質の良いワインを生み出すことに確信を持っています。「古樹は自ら収量を適度に落としてくれ、若い頃に見られた収量過多などの欠陥を克服することで、より質の高いワインを造ります」と、 Wassermanは  述べています。 Wasserman  によると、彼の母である  Becky Wasserman  が会社を設立した頃はオーガニック農業がまだ浸透していなかったので、古樹はワインの品質を判断するための大きな判断材料となっていたそうです。

 

Wasserman  によると、1980 年代には古樹の果実が持つ凝縮感が、ワインに適度な重さを与えるために重要だったと述べています。「当時の農業はあまりよくありませんでした。ブドウは熟しにくく、湿度の高い年には収量が過剰になっていました。全てを上手くまとめるためにブドウの凝縮感が必要だったのです」現代においては、生産者はオーガニックやビオディナミ農法などのより質の高い農業に従事できるので、その結果素晴らしいワインが生まれるといいます。

、サンダ・バーバラのワイナリー  Lafond Winery & Vineyards  で 40 年以上醸造を担当している  Bruce McGuire  は、1972 年植樹のシュナン・ブランの樹を扱っています。McGuire  は古樹を扱う利点の 1 つとして、若樹よりもバランスに富んだ生産ができることを挙げています。しかしながら、バランスの追求よりも全体の生産量のほうが彼にとってははるかに重要です。

 

損と得

McGuire  は、例えばある一つの区画で 50 %のブドウ樹しか実をつけなかったとしても、コストはその区画全体にかかると説明します。「ここで考慮すべきは、ブドウ樹が実をつけているかどうかということです。収益性は 1 ヘクタールあたりの収量とワインの販売額に基づいています」と述べ、古樹を扱う際には、農業にかかるコストとブドウ樹の健康状態の両方を考慮しなければならないと補足しています。

 

一方で、チリのワイナリー  San Pedro  の  Mathias Cruzat  は、古樹を扱うことが必ずしも収益性の低下に繋がるわけではないと感じています。「一般的に古樹は少ない作業量で済みます。古樹は根が奥深くまで伸びているため、自らの力でバランスを取り、そして灌漑の必要がない畑も多々あります。そして栽培の手間もほとんど必要ありません」と語り、Van Niekerk  と同様に、丁寧な剪定と、持続可能な農業と土壌の管理によって病害を避けることが重要であると述べています。

 

大きな疑問

それでは、古樹の概念はどのように消費者に伝えられるのでしょうか?ソムリエからインポーターへ転身した  Jane Lopes  によると、彼女が現場でソムリエをしていた頃、消費者の関心は常に古樹に向けられていたといいます。「ワインの品質を示すものとして、古樹は消費者が共感できる具体的なものだと思います。あるワインの価格が別のワインよりも高額な理由を消費者に説明するのは難しいことですが、古樹は伝えやすく、また消費者も理解しやすいです」と、Jane  は語ります。

 

さて、大きな疑問の一つ目は、樹齢何年のブドウ樹が古樹に該当するのか?ということです。その事情はどうやら複雑なようです。 Wasserman  によると、フランスでは一般的に樹齢 40 年以上のブドウ樹が該当しますが、さらに本格的なものは 60 年を超えるそうです。Maguire  は古樹の定義が一般的に定められていないとしたうえで、樹齢 25 – 30 年のものを成熟したブドウ樹とみなします。Lopes  によると、オーストラリアのバロッサ古樹憲章(バロッサで独自に認められている古樹の格付け)では、樹齢 35 年以上のブドウ樹を”古樹”と定義し、さらに 70 年、100 年、125 年と格付けを設けています。

 

そして最後の疑問は、古樹が本当に質の高いワインを生み出すことができるのか?ということです。これに関しては全員の意見が一致しています。Lopes  は、古樹は収量が少ないので良い結果をもたらすと述べています。「全ての古樹に当てはまるわけではありませんが、古樹は大きな利益をもたらし、いくつかの傑出したワインを生み出します。しかし若樹から造られる偉大なワインも数多く存在するのも事実なので、実際に重要なのはブドウ品種や土地、スタイルなどベストな選択をするのかが重要です。」また  Lopes  は、シャルドネやピノ・ノワールよりも、グルナッシュやシラー、、リースリング、ミュスカのような品種のほうが古樹の恩恵を受けやすいとしています。

 

Wasserman  は、古樹のブドウから造られたワインはより果実の凝縮感があり、間違いなく深みがあると感じています。しかしながら、現代の農業の進化のおかげで、古樹が生み出す品質に若樹が到達するまで、今までほど時間がかからなくなるといいます。「現在ではより早い段階で十分な凝縮感に達することができるので、30 年以上もの年月は必要としません。適切な農業を施せば 15 年程度で十分ですが、ブルゴーニュの生産者たちはいまだに若樹を格下げしています。」さらに、表土の薄い北ローヌのような地域では古樹の概念はさほど重要ではないといいます。「ブドウの樹が十分に根付くまでそこまで時間がかからないからだ」と、 Wasserman  は説明します。

 

Lopes  は、古樹のワインが時に”別世界”のような経験をもたらしてくれるとし、「古樹は凝縮感と軽やかさの実に素晴らしいバランスを生み出します。それは若樹では表現できないものです」と、述べています。Wasserman  は、栽培やブドウ樹の遺伝的要素も同様に重要ですが、古樹のワインがもたらす密度と深みには目に見張るものがあると述べています。ニューヨークのワインショップ  Le Du Wines  の  JT Robertson  も彼らの意見に同意したうえで、”古樹”の定義の曖昧さに言及しています。「ワインに関するあらゆる事柄を細かく定義しているようなフランスで、あらゆるボトルに”ヴィエイユ・ヴィーニュ”の文言を掲示できるのはおかしいと思っています!」と、疑問を呈しています。

 

引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/09/taking-a-new-look-at-old-vines

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