カリフォルニアが夢見るグレート・ヴィンテージ
カリフォルニアでは長い間、ヴィンテージの概念は重要視されてきませんでした。しかし今ではフランス同様に重要視されていますが、それは偉大なヴィンテージを称えるものではなく、不作のヴィンテージを避ける目的で用いられます。
ナパ・ヴァレーでは 10 月初旬、2021 年のカリフォルニアを定義づけていくであろう、カベルネ・ソーヴィニョンの収穫を行っています。米国のワイン評価誌『 Wine Spectator 』と『 Wine Advocate 』は、300 本のカリフォルニア・ワインを試飲するまでは 2021 年のカリフォルニア・ワインを批評するのは控えるそうですが、彼らは読み違えています。2021年は少なくとも悪いヴィンテージではないことは明白なので、既に良いヴィンテージだと評価できます。カリフォルニアにおいてヴィンテージとは、非常にシンプルなことなのです。
ボルドーにおけるグレート・ヴィンテージ
ボルドーにおけるヴィンテージの捉え方は異なります。2009 年にボルドーを訪れた時、複数のシャトーで複数のヴィンテージのワインを試飲しましたが、全てのシャトーで例外なく、グレート・ヴィンテージである 2005 年のワインは 2004 年や 2006 年のワインより優れていました。
なぜこのボルドーでの経験が強く記憶に残っているかというと、私は今までに数多くのワイン生産地を訪れてきましたが、同じような経験をしたことがなかったからです。もしナパ・ヴァレーでヴィンテージの垂直試飲をする機会があったとしても、ボルドーのように傑出した“グレート・ヴィンテージ”のワインに遭遇することはないでしょう。あるシャトーは 2014 年が、そしてあるシャトーは 2013 年と、優れたヴィンテージはワイナリーによって異なるはずです。
『 Wine Spectator 』や『 Wine Advocate 』が、カリフォルニアの特定のヴィンテージが優れていると評価するのは馬鹿げています。それは真実ではありません。各評価誌が 2007 年のナパ・ヴァレーを「10 年に一度のグレート・ヴィンテージだ」と絶賛して間もない頃に、ナパ・ヴァレーの 2007 年カベルネ・ソーヴィニョンを垂直試飲した時のことをよく覚えています。2007 年の試飲に先だって 2004 年から 2006 年の試飲をしましたが、古いワインほどより飲み頃を迎えているというような違いはあったものの、他に際だった違いは感じられませんでした。しかししばらくの間、人々は 2007 年を特別なヴィンテージとして持て囃していましたが、それは非常にくだらないことでした。
『 Wine Spectator 』のヴィンテージ・チャートを用いてカリフォルニアのヴィンテージを考察しましょう。2006 年から 2010 年にかけて、同誌は全てのヴィンテージに 95~97 点のポイントを与えています。彼らはポイントの基準値を発表していませんが、おそらく基準値の範囲内でしょう。つまり、2006~2010 年は全て同様に偉大なヴィンテージで、実際にそれがカリフォルニアの現実だったというわけです。
ヴィンテージが重要視されるのはオフ・ヴィンテージにおいてですが、2017 年までのカリフォルニアには不作の年はあまり存在しませんでした。『 Wine Spectator 』のチャートに戻りますが、1993~2016 年の間に 93 点を下回ったヴィンテージはわずか 5 ヴィンテージのみです。この 24 年間に、15 ヴィンテージが 94~97 点で評価されており、基本的に同じような評価だと言えます。
さらに、この時期の評価誌がナパ・ヴァレーのオフ・ヴィンテージの評価を誤っていたという議論もあります。リリース時に評論家が好んだ暑い年のワインよりも、雨が多く冷涼な年のワインのほうが今は美味しく成熟しているからです。しかし、ヴィンテージの評価は偉大なワインを造る要素としての哲学に基づいているので、その点で『 Wine Spectator 』と『 Wine Advocate 』の評価が一貫していた点は評価すべきでしょう。
火と水
2017 年にカリフォルニアが初めて山火事の影響を受けた年から、全てが変わりました。2017 年、完全にワインの生産を取りやめたワイナリーもあれば、煙害の影響を不安視しながらワインを造ったワイナリーもありました。2018 年には 3 カ月にわたって巨大な山火事がメンドシーノを襲い、ナパやソノマのワイナリーの人々は、空を見上げて灰が大気中に留まることを祈るばかりでした。ソノマは 2019 年にも山火事に見舞われ、そして 2020 年にナパを襲った山火事は過去最悪だったかもしれません。
しかしながら、様々な理由から ”不作” とされるようなヴィンテージでも良いワインが必ず生まれるように、2017 年からの 4 年間でも、特に 2018 年からは良いワインを見つけることができるでしょう。ナパやソノマは煙害に対する知識を高めているので、山火事と戦いながらもブドウを収穫する準備が整っています。
“グレート・ヴィンテージ” という言葉の意味合いは変わってきています。それは、今では山火事と戦う必要のないヴィンテージを意味します。実際にそれも正しいのですが、その意味はボトルの中で長期的に証明されていくことでしょう。ブドウ畑の近くで山火事が起きていなければ、生産者たちは自由にブドウを選択できます。ワイナリーが閉鎖され、発酵作業が放置されてしまうこともありません。何も気にすることなく、自分たちの技術や偉大なテロワールを用いて素晴らしいワインを造ることだけに集中できるのです。
カリフォルニアとフランスでは異なります。例えば、フランスで大打撃となるような霜や雹の被害、また収穫時期の降雨などは、カリフォルニアでは滅多に起こりません。カリフォルニアのワイン産地に山火事が起きなければ、その年はグレート・ヴィンテージと呼べるでしょう。2021年がそのような年であることを期待しています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/08/california-faces-another-dustbowl-vintage
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