ハイブリッド・ワインの可能性

ハイブリッド・ワインの可能性

従来とは異なるブドウから造られたスパークリング・ワインが、消費者の関心を集めています。


ヴィティス・ヴィニフェラ種の地位を脅かすとはいかないまでも、代替品種(主にハイブリッド-交配種-)が世界有数のワイン産地でさえも一種の影響力を持ち始めている事実について議論の余地はないでしょう。

 

これには幾つかの要因がありますが、気候変動が最も大きな要因です。カリフォルニア、オレゴン、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ・・世界中が美味しいワインを求めるこれらの地域の収穫は、記録的な猛暑や、芽吹きの後の霜害により、ここ数年毎年破滅的な打撃を受け続けています。ほとんどのブドウ栽培家は、栽培方法を変える事で対応していますが、不確実性が増す将来へのバックアップとして、ハイブリッド品種に注目している栽培家も増えているのです。

 

ハイブリッドはもともと、ブドウ栽培を根底から覆したフィロキセラの対策として栽培され、ヴィニフェラとヴィティス・ラブルスカやヴィティス・リペリアの交配子孫は、ワインを救うために貢献したと感謝されていました。しかし、1世紀以上に渡り、ほとんどの主要なワイン生産地ではハイブリッドが顧みられることはありませんでした。その大きな要因はフレーバーです。ブドウ栽培家たちは、ハイブリッド種のブドウから、世界が慣れ親しむアロマ、味わい、質感を引き出す方法を知らなかったのです。

 

グラスの中の味わいで称賛を浴びることはほとんどないこれらのブドウは、母なる自然がもたらす最悪の事態に耐えることの出来る強さがあります。そしてこれが新たな取り組みを促したのです。ナパで農業を営む  Tom Gamble  は、カベルネと一緒にアンブロ・ブランと甲州という2つの白ブドウを植えています。ドイツ、スイス、イタリアでは、ハイブリッド種が徐々に受け入れられています。フランスでは、4代目のワイン生産者である  Jonathan Ducourt  が、ボルドー郊外の自身の土地でハイブリッド種の小規模な植え付けを実践しています。

 

飲み慣れない味

ハイブリッド種が注目を集めているのには嗜好の変化も関係しています。若い飲み手は、使用するブドウ品種からワインのタイプに至るまで、従来とは異なるワインに対してよりオープンになっているのです。ミレニアル世代 (1980~1990年代産まれ) やZ世代 (1990年代半ば~2000年代前半産まれ) が缶入りワイン市場の拡大を牽引しており、2021年から2028年にかけて年間13.2%の市場成長率が続くと予想されています。確かな数字を得るのは難しいですが、レストランでナパ・カベルネとステーキを注文する父親世代とは違い、若い消費者は注文したタコスにカユーガやセイベル・ブランといった白ワインを進んで試す傾向が強いといいます。

 

ある時は単独で、またある時は、特に伝統的な産地ではヴィニフェラ種とのブレンドで、グラスの中のハイブリッド種の存在感は時間とともに増すばかりでしょう。

 

この傾向は、ブドウ栽培家と消費者に頭痛の種と新しい機会の両方をもたらしています。ハイブリッド種にはまだまだ多くの興味深いバリエーションがありますが、それを生産し消費する最良の方法の1つはスパークリング・ワインです。

 

ハイブリッド種スパークリング生産者への投資

アメリカの東海岸、中西部、南西部の一部では、主にミネソタ大学とコーネル大学で造られた品種を中心に、何十年間もハイブリッド種の栽培が続けられてきました。そのゴールは、地獄のように暑い夏、突然の春に秋の霜といった、この地の過酷な気候の中でも問題なく成長するブドウを見つけるためです。そして、悲しいことに、この異常気象は現在では世界中で見られるものとなっています。

 

ソムリエ兼レストラン経営者である  Dierdre Heekin  は、爆発的に広がりつつある自然派ワインのムーブメントに触発されて、マサチューセッツ州でブドウを買い、夫の  Caleb Barber  と共有している農場の母屋に持ち帰り、バスタブでワイン造りを始めました。そして2007年、彼女は自分たちの農場に100本の冷涼気候エリアのブドウを植え、バーモントの他の生産者達と協力しながら、「バーモントのテロワールをありのままに」探求するようになりました。こうして立ち上げられたワイナリーLa Garagistaは当初からスパークリングワインに力を入れ、生産の約半分は、主にペット・ナットが占めています。

 

「私たちは、栽培している品種すべてからスパークリングワインを造っています。なぜなら、これらの品種は酸が主体で、さらにスパークリングに向いたフレッシュさとアロマを維持しているからです。ハイブリッド種の場合、ブドウをテストする時に目にする数字に捉われないようにしています。糖度、pH、酒石酸値など、ヴィニフェラ種とは全く違うのでつい神経質になりがちですが、自分の味覚に従わなければワインは上手くいかないからです」

 

ブドウ栽培を行う“保守的で習慣的な”協会からのアドバイスを無視し、自分の味覚に従ったことが、彼女を大きく前進させました。最初は地元のバーモントのレストランでさえLa Garagistaのワインを見かけることはありませんでしたが、今では全米のレストランやワインショップ、そしてヨーロッパでも見つけることができるようになっています。

 

「ハイブリッド種が嫌いな人は、皆そのフォクシー・フレーバーを指摘します。でも私はそうは思いません。ブドウの性質にきちんと従えば、驚くほど多層的で表情豊かなワインに仕上がります。明るく綺麗で正確、ミネラル感や香ばしい要素もありながら調和が取れています」

 

コロラド州  Grand Valley  にある  Sauvage Spectrum  のワインメーカー、Patric Matysieski  がハイブリッド種によるスパークリングワインの実験生産に着手したのは、香り豊かで酸の高い特徴を持つハイブリッド種の存在によるものでした。

 

「白ブドウのコールド・ハーディは香りが良く、酸味も強いので、瞬く間に心惹かれました。さらに果実味の強さも強調したかったので、特注の高圧タンクに投資し、醸造を行う事にしました」

 

そうしてこの地域で初めてのシャルマ方式のスパークリングワインを造った彼らは、現在ピケット(ブドウの搾りかすに水を加えて造る低アルコールワイン)とペット・ナットも生産しており、発泡性ワインに使うハイブリッド種は、成熟感とボディがありながら、彼らが完璧だと信じる酸も持ち合わせていることが分かったと言います。

 

Sauvage  では恐らくハイブリッド種への気難しい評判に配慮して、ラベル内で使用品種を強調したり記載したりしていませんが、ヴェローナやプチ・パールといった黒ブドウが含まれており、ワインの評判は上々だと言います。「今後もハイブリッド種を用いたスパークリングワインのプログラムは成長を続けるでしょう」

 

ペンシルバニア州にある  Mazza Vineyard  では、ハイブリッドとヴィニフェラの両方を供給する栽培農家と契約を結んでいますが、ハイブリッド種のスパークリングへの関心は過去5年間で飛躍的に高まったと言います。

 

「スパークリングがハイブリッド種の良さをよく表していることに人々が気づき始めたからです。しかし、市場や契約先からの需要もありました。現在では約15社のクライアントのためにハイブリッド種を使ったスパークリングワインを造っています」醸造家兼ジェネラルマネージャーの  Mario Mazza  はこう語ります。

ヴィダル・ブランや黒ブドウのシャンブルサンは、ペット・ナットや辛口の缶入りスパークリングワインとして重宝され、「明るく、新鮮で香り高い味わい」だと  Mazza  は評しています。

 

「我々が栽培する黒ブドウに関して言うと、酸の保持力が高く、花や果実のフレーバーが豊かなのでスパークリング・ロゼワインには向いていますが、深い赤色にはならないため、赤のスティルワインには向いていません」

 

翻弄するハイブリッド種

新興産地では、ハイブリッド種の可能性に熱中し、ヴィニフェラ種と同等に扱っている生産者が他にも見られますが、市場が寛容的であるかどうかについては慎重です。

 

ニュージャージー州にある  Beneduce Vineyards  の栽培マネージャー兼ワインメーカーの  Mike Beneduce  はこう話します。

 

「我々は10haの畑の約90%でヴィニフェラ種を栽培していますが、その理由は率直に言って、どの主要ワイン産地でもハイブリッド種のワインで世界で高く評価されたものがないからです。でも誤解しないでほしいのは、ハイブリッド種のブドウは、収量過多にしないよう注意し、慎重に栽培すれば美しく育ちます」

 

「問題は、醸造家がシャンブルサンでカベルネ・ソーヴィニヨンのようなワインを造ろうとして、抽出と樽香を多用した場合です。このようなスタイルで造られた魅力的なシャンブルサンを見つけたことはほぼありません」

 

彼はシャンブルサンが輝くのは、”自分たちの仕事をする“ことが許された時だと言います。「シャンブルサンの場合、チェリーのような素晴らしい香りを持つので、それを強調するためにステンレスタンクを使い、軽いタッチで仕上げるのです」

 

Beneduce Vineyards  のシャンブルサンを用いて造られたスパークリングワイン “シャンブルスコ” は今では数か月で完売する人気ワインとなりましたが、それでもMikeは冷静です。

 

「ハイブリッド種には多くの魅力があります。信頼性が高く、経済的に栽培でき、畑への介入が少なくて済みます。ヴィニフェラ種よりも収量が多いという点もとても気に入っています。しかし、私たちの評価はまだヴィニフェラ種のワインで造られたものだと考えています」

 

ハイブリッド種の評価が世にでるようになるのはまだまだこれからです。今回紹介したワイナリーが単一品種のハイブリッドワインを生産する近未来を想像するのは難しいですが、気候変動と進化する嗜好がワインの世界を変えるにつれ、ラベルに記載されているかどうかに関わらず、グラスの中にハイブリッド種をより多く見つけるようになるでしょう。

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/05/hybrid-wine-finds-its-format

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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