亜硫酸塩を緑茶に置き換えるワイナリーの取り組み
多くの人にとって亜硫酸塩はアレルギーや他の問題の原因となりえますが、クリーンでグリーンな代替品があるとしたらどうでしょうか?
亜硫酸塩(=SO2)はワインにとって重要な保存料ですが、多くの人にとっては敬遠すべきものでもあります。恐らく名前を聞いたことがある人も多いであろうニュージーランドのKim Crawfordと結婚する前は科学者であったErica Crawfordは、緑茶エキスという全く異なるもので実験を開始しました。
2018年以来、Crawford夫妻のニュージーランドのワイナリー、Loveblockは2種類のソーヴィニヨン・ブランを造っています。1つは保存料として亜硫酸塩を使った伝統的なもの。もう1つはワインが酸素に触れる可能性がある時に緑茶エキスを数ミリグラム加えたものです。
「醸造プロセス内の酸素との接触の可能性がある場面で、緑茶エキスは酸素からワインを守るという事が分かったのです」
マールボロのワイナリーから繋いだZOOMインタビューの中でCrawfordはこのように語りました。
「最初は何をどうすればよいのか分からなかったので、私たちは濃縮したエキスを選び、添加してみる、という事をやってみました。ゴンドラ、タンクからタンクへの移動、瓶詰ラインなど、ワインが酸素に晒される時はいつでも移動の度に1Lあたり5mgを投与してみたのです」
Erica CrawfordはKimと初めて会った時、生まれ故郷の南アフリカで心臓医学の研究をしていたので、そのような抽出物を作る技術的な才能を持っていたのかもしれません。
ですが、実際はその必要はありませんでした。彼女によると、このエキスは元々、灰色カビ病と呼ばれる貴腐菌が大量に発生したブドウに対処する有機農家を助けるために開発されたものだと言います。
「元々、ルイボスティーからタンニンを抽出してワインに使う研究をしている人が南アフリカにいる事は知っていました」
そう言うと、亜硫酸塩を嫌ったり、アレルギーを持つ人向けのワインというのは重要な市場だとCrawfordは続けます。
「実際、たくさんの小売業者と話をしましたが、亜硫酸塩フリーというのは消費者が求めているものだと皆言っていました。また、自然派ワインはまだその居場所を見つけられていないという人もいます。ファンキーになろうと意図した時点でファンキーにはなれません。私たちはまだ何かを加えているので“ナチュラル”だと主張することは出来ません。自然派ワインとオーガニックワインの中間に位置するワインです」
論より証拠 -The proof is in the pudding / 味わいの確認は試してこそ-
大きな疑問は、ワインの味はどうなのか?という点です。
果たしてワインに緑茶の香りを感じる事ができるのでしょうか?そうだとしたら、きっとカベルネ・ソーヴィニヨンに求めるものではなさそうですが、ハーブの香りで既に有名なマールボロのソーヴィニヨン・ブランには相性ピッタリかもしれません。
そして、我々Wine-Searcherは、LoveblockのMarlborough Sauvignon Blanc 2022の通常バージョンと緑茶バージョンのブラインド・テイスティング対決を行いました。ブラインドとはいえ、ワインは2種類しかなかったので、そのうち1つから緑茶の香りがすると予想していました。そして試飲を通し徐々に感じる事ができました。ですが、もし私が緑茶の香りを探していなかったらそれを感じ取れていたかどうかは分かりません。
そしてブラインドの結果ですが、2つのワインが全くもって異なるものであることは確かでした。同じ畑のワインではないので、テロワールの違いか、保存方法の違いか、あるいはその両方かもしれません。
大きな違いの一つは、以外かもしれませんが感じられる酸度のレベルで、緑茶で保存したワインの方がずっと低く感じました。私の妻は、酸味の少ない緑茶ワインの方が「ずっと飲みやすい」と言っていましたが、夕食に合わせたときは、フレッシュさが感じられる従来のワインの方が私の好みでした。
「確かに亜硫酸塩はワインのキレの良さに違いをもたらしています」
Erica Crawfordは私の感想に同意してくれました。「緑茶がすることは、ソーヴィニヨンの今まで味わった事のない風味を開く事です」
Ericaのこのコメントは事実です。アロマ的には、緑茶バージョンの方がトロピカルフルーツの香りが強く、生き生きとしています。亜硫酸塩はアロマを抑える傾向があるので、これは理にかなっています。香りに比べると味わいの方が両者は近いですが、従来バージョンの方が柑橘系の果実味が強いです。どちらもマールボロで時折感じる荒々しい草の香りや隠れた甘さはありません。Crawford夫妻は栽培を重要視していますが、バランスの取れたブドウがあれば自ずとバランスの取れたワインとなり、ボトルの中でそれほどバランスを取る必要はないのです。
異なる2本を共に試飲した私の妻は日本人ですが、ブラインドで試しても彼女が緑茶添加のワインを選んだのは興味深い結果でした。事実、日本はLoveblockにとって緑茶添加バージョンの最大のマーケットです。
そして、そうなったのには2つの理由が考えられます。
1つは、日本人は添加物を好まないので、亜硫酸塩不使用で美味しいワインの市場が存在していること。もう1つは、日本人は緑茶が好き、ということです。Crawfordによれば、このワインはカナダとイギリスでも良く売れており、今年アメリカ市場に導入されたばかりだと言います。
Crawfordは、彼女が1987年に消費者として参加したケープタウンのワインフェスティバルでKimと出会って以来、興味深い冒険をしてきました。
当時、Kimはまだ無名のワインメーカーで、Coopers Creek Vineyardでワインメーカーとして働いていました。Erica Crawfordは医療マーケティングの仕事に就きましたが、その後13ヶ月違いで2人の子供を出産。家に閉じこもった彼女を抱え、夫妻は1996年、2万ドルの自己資本と自宅を担保に借りた7万ドルを元手に、リビングルームでKim Crawford Winesを設立しました。ブドウ畑は持たず、購入したブドウのみを用い、他社のワイナリーにてワインを造っていました。
Erica Crawfordは、ミッドナイト・テイスティングという真夜中に行う試飲会などのイベントでブランドの注目を集めるのに貢献しました。2人の門出は、ニュージーランドワインがアメリカ市場で人気を博し始めた素晴らしいタイミングというのもあり、彼らの手ごろなソーヴィニヨン・ブランは、アメリカ市場での最初のヒット商品の1つとなったのです。
彼らが2003年にこのブランドをカナダのVincor社に約5,000万ドルで売却した時には、年間生産量10万ケースにまで成長していました。ワイン業界きっての巨大企業コンステレーションが現在もKim Crawford Winesを所有しており、彼らにとって最も成功しているブランドの1つです。
Crawford夫妻は、ワイナリーの売却資金でマールボロに羊の放牧地を購入しました。彼らは110haにブドウ木を植え、そのほとんどを有機農法で栽培しています。2014年にLoveblockというブランドを立ち上げましたが、以前のブランドとは正反対のエステート・ワイナリーです。彼らはセントラル・オタゴとスパイ・ヴァレーにもブドウ畑を購入しました。2人の息子はワインの小売業に従事し、娘は環境科学者として働いています。
「人々はもう私たちをKim Crawfordと関連付けていないと思います」
そうErica Crawfordは語ります。
「地元のKim Crawfordのオペレーションですが、担当者は良い人たちで、新しいものがあると時々私たちにボトルを送ってくれます。店に入ってKim Crawfordのワインを見ると、私たちは今でもそれを誇りに感じています」
引用元: Winery Replaces Sulfites with Green Tea
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