樽と気候に関する主張が注目される

樽と気候に関する主張が注目される

熟成容器の形状では気候変動とは戦えないでしょうが、出来上がったワインには影響を与えます。


ブルゴーニュのトップ・ワインメーカーは、ワイン生産者が気候危機に対処するために、醸造の容器が役立っているという主張を嘲笑しています。

 

フランスをはじめとするヨーロッパのワイン生産者たちの間では、小樽のバリックや丸みを帯びたコンクリート・エッグ、アンフォラなどの代わりに、丸みを帯びた、あるいは楕円形の大きな木製のフードルを使うことが増えています。

 

シャンパーニュの生産者であるLouis Roedererは、気候変動がワイン生産に与える影響をうけて試行錯誤した結果、ワイン醸造にステンレスタンクとフードルを混合して使用しています。「フレッシュさを保つ」という言葉は、大きなフードルやコンクリート・エッグを使用するメリットを語る際に生産者がよく使う言葉です。

 

サンテミリオンのChâteau Bellefont-Belcierを含むボルドーの生産者は、フードルの使用はワインの酸度維持に役立つとさえ言っています。Bellefont-BelcierのワインメーカーEmmanuelle Fulchiは、40hlの大型フードルを使用することで、ワインの熟成中にpHレベルが適切に保たれると語ります。「私たちのワインの3分の1を熟成させるために使っているフードルでは、酒石酸の減少が少ないのです」とFulchiは言います。

 

しかし、ブルゴーニュのワインメーカーであり、VergetのディレクターであるJulien Desplansは、ボルドーの生産者に対し、この主張を否定しました。

 

「ナンセンスだ!ボルドーでは、ワインボトルの価格を正当化するために、『私は新しいワイナリーを持っている、新しいタンクを持っている、隣人よりも大きな選果台を持っている』と言う必要が常にあります。選果台の大きさが2倍になったので、私のワインは2倍美味しくなったと言っているようなものです。容器の形や種類でpHレベルが変わるとは思いません」と彼は語り、タンクや木など使用する熟成容器の種類よりも、ブドウの品質や圧搾・発酵方法などの方が関連する要素であると付け加えました。

 

一方、シャンパーニュの生産者Lansonは、フードルに投資した動機は、気候変動がワインのフレッシュさや酸度レベルに与える影響とは無関係であると述べました。

 

「2014年にフードルに投資したとき、それは地球温暖化とは無関係でした。ワインにアロマの変化と複雑さをもたらすフードルは、リザーブワインを何年も熟成させるために使用しています。ワインの熟成中、酸度レベルの変化は見られません。私たちにとって、リザーブワインをフードルで熟成させることは、ドライフルーツ、バニラ、砂糖漬け柑橘のようなテクスチャーとアロマを与えることなのです」とLansonの醸造長Hervé Dantanは語っています。

 

しかし、樽職人の協同組合Tonnellerie de Champagneの共同経営者であるJérôme Viardは、気候の変化がワイン生産に与える影響もあり、2020年以降、楕円形または丸い水平型フードルの需要が倍増していると述べました。

 

シャンパーニュ地方では、フードルは主にリザーブワインに使用されます。フードルの容量と形状により、ワインへのオークの影響が少なくなります。Viardは気温上昇の影響をより強く受ける南ヨーロッパの地域では、さらにフードルへの需要が高まっていると言います。

 

「ボルドー、ローヌ、ラングドック・ルーションの生産者は、ワインのフレッシュさを保つため、より容量の大きい樽やフードルに投資しています」とViardは言います。

 

まとめると、Viardは、スペインやギリシャを含む南ヨーロッパにはフードルを、イギリスのような冷涼な気候の地域には小樽を輸出していると語ったのです。

 

シャンパーニュ市場を主に扱うTonnellerie de Champagneは、過去2年間で、ステンレスあるいはガラスが組み込まれた新しいフードルを開発しました。トーストされた木の部分のみがワインと接触するというものです。

 

「これらの新しいフードルによって、ワインは樽の風味やアロマの影響を受けにくくなり、ワインのフレッシュさと緊張感が保たれます」とViardは言います。

 

シャンパーニュの生産者である Louis Roedererのワインメーカー、Jean-Baptiste Lécaillonは、一連の生産テストを行った後、オークをより多く使用するようになったが、ワインの発酵には主にステンレスを使用していると述べました。

 

2023年12月、Lécaillonはフランスの『ル・モンド紙』にこう語っています。 「気候変動により、ステンレスタンクで醸造・熟成されたワインはますます球形(丸みをおびた)ワインになっています。その一方で、樽はワインに張りを持たせるのに役立っています。ですから、私は樽使用への回帰を支持していますが、一方でニュートラルなステンレスタンクも維持しています」と語り、危険な気候変動に直面した場合、ワイナリーは「各ヴィンテージに適応できるよう、最大限のツールを開発する」ことが望ましいと付け加えました。

 

Lécaillonによれば、Roederer ではワインの30%がフードルで発酵されているということです。

 

水平型という選択肢

しかし、ブルゴーニュのVergetは、気候の変化により、ワイン生産に使用する容器の種類を変更する必要はないと述べています。

 

1990年以来、Vergetは全ての白ワインの発酵に特注の丸みを帯びた水平型タンクを使用しています。「白ワインの発酵と熟成に水平型タンクを使用することが成功したため、縦型ステンレスタンクを廃止しました」とDesplansは言います。

 

VergetのオーナーであるJean-Marie Guffensと、ボルドーの白ワインの知名度を高めた著名なワインメーカー故Denis Dubordieuは、丸みを帯びた水平型ステンレスタンクを作るというアイデアを思いついたが、結局はそれぞれが特注タンクを設計することになりました。Vergetでは、中性ガスをタンク内に注入し、発酵後の最も細かい滓を再浮遊させ、還元的にします。縦型タンクでは滓が上から下へと一度移動するだけなのに対し、水平型タンクではワインと滓の移動は連続的です。

 

「滓との接触具合が異なることで、よりフルーティーなアロマと上質な還元がもたらされ、フレッシュさをより際立せることができます。ただし、タンクの形状が pH を変えるとは思えません」とDesplansは言います 。

 

大西洋中部のピコ島では、ポルトガルの生産者であるAzores Wine Companyが、白ワインの発酵と熟成に丸みを帯びた水平型のステンレスタンクを何十機も使用しています。

 

ポルトガルで最も革新的なワインメーカーの一人であるAntonio Maçanitaは、アゾレス諸島の配送トラックに積まれたミルクタンクを見て、独自のタンクを設計する気になったと言います。

 

デリケートな地元の白ブドウ品種を使い、溶岩の畑で育ったブドウから、世界で最も光り輝く、スモーキーで塩味の強い、テロワールにフォーカスしたワインを造る。ピコ島のユニークなテロワールをワインに反映させるために、それぞれに合わせた生産方法が必要でした。オークの使用は、ワインの酸化や不要なアロマの添加につながるとMaçanitaは指摘します。

 

Maçanitaのタンクを使うことで、ワインの滓がタンク内に広がり、ワインに深み、コク、テクスチャーをもたらします。縦型ステンレスタンクに比べ、丸みを帯びた水平型のタンクは、液体と固体の接触や動きがより多くなり、滓が固まらないのです。

 

「ワインの長期熟成期間中のバトナージュ(滓の攪拌)がもたらす金属的な風味や不要な風味はありません。この方法はまた、抗酸化化合物であるグルタチオンを自然に放出します。グルタチオンはワインを保護する抗酸化物質として働くので、全ての工程においてより低いSO2添加で行うことができます」と彼は語りました。

 

Maçanitaによれば、アンフォラで白ワインを熟成させるのに比べ、丸みを帯びた水平型タンクでは滓の流れがはるかに多いのです。Maçanitaは、ドウロ渓谷のMaçanita Vinhosでも、同じ水平型タンクを使って白ワインを造っています。

 

一方、Desplansは、特注の丸みを帯びた水平型タンクは、コンクリート・エッグ(生産者が滓との接触による熟成にも使用する)よりもかなり高価であることを認めました。

 

丸みを帯びた水平型ステンレスタンクは、ヨーロッパではまだ珍しいですが、その生産上の利点から、Dermot Sugrue やEverflyhtなど、スティルワインの生産が増加しているイギリスの冷涼気候のワイン生産者たちの関心を呼んでいます。

 

 

引用元:Wine Barrel Climate Claims in the Spotlight
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