多様なブドウ品種に注目するカリフォルニアのワイナリー

多様なブドウ品種に注目するカリフォルニアのワイナリー

カリフォルニアのワイン生産者達は、旧世界のパラダイムから離れ、より小規模で気候に優しいブドウ畑へと移行しています。


カリフォルニアで古木のブドウ畑が称賛されている昨今ですが、病気の兆候が現れ、生産量が減少すると、これらの古木はプレミアムな土地から追い出されるのが常です。

 

多くの場合、これはビジネス上の判断です。1エーカー(約0.4ha)あたり1トンしか収穫できない状況では、1本200ドル以上のワインを生産するのですら採算が合いません。若いブドウの活力は数十年で衰えます。さらに、気候変動や市場の変化を背景に、ブドウ品種、台木、農法の選択を再考する機会ともなっています。

 

他にも要因があります。古いブドウ樹には、繫殖に使用された苗木屋の植物材料にウイルスが気づかれぬまま潜んでおり、これが畑の収量を徐々に下げ、ブドウ畑の寿命に壊滅的な影響を与えてきました。そしてもちろん、単純な知識の蓄積もあります。1970年代に賢明と思われたブドウ品種が、今日では異なる選択肢に見えることもあるでしょう。

 

アマチュアから権威へ

フランスやイタリアでは、ワイン生産者が何世紀、あるいは何千年にもわたる経験、物語、データを振り返ることができるため、ブドウ園の管理を完璧にすることは、全面的な書き直しというよりも、穏やかな修正に近いといえるでしょう。しかし、カリフォルニアのような比較的新しい地域では、ワイン用ブドウの栽培が本格化したのは1960年代からであり、ブドウ園の微調整が全面的な変革に発展することがよくあります。

 

セントヘレナの Ehlers Estate では、1880年代からブドウを栽培しているにもかかわらず、チームは依然としてブドウ園の強みを活かす方法を理解し始めたばかりだと感じています。ワインメーカーの Adam Casto にとって、それは42エーカー(約17ha)のブドウ畑を調整するだけでなく、ナパにおけるワイン製造のパラダイムを変革することを意味します。

 

「ナパではカベルネ・ソーヴィニヨンに焦点を当てるという考え方は、非常に純粋でアメリカ的なものです。しかし、気候が変化する中で、それは理にかなっていませんし、カベルネ・フランのような他のブドウ品種がカベルネ・ソーヴィニヨンの優位性に挑戦しているのを見ると、なおさらです。」

 

実際、カベルネ・フランは2023年にナパで最も高い価格を記録し、1トンあたり10,633ドルを稼いでいます。Casto が2023年に Ehlers Estate チームに加わる直前、16エーカー(6.5ha)がマルベック、プティ・ヴェルド、ソーヴィニヨン・ブランに再植され、畝の向きが約20度変更され、畝間のスペースが広げられ、果実が実るワイヤーの位置が引き上げられました。

 

「広いキャノピーを作り、空気の流れを良くし、過度の日光からブドウを保護することが主な目的でした。昔のスタイルが再び新しくなっています。この仕立てのスタイルはかつて ‘・スプロール (California Sprawl)’ と呼ばれていましたが、すべての人が小さくまとまったボルドー風の垣根仕立て(VSP)を求めるようになると流行から外れました。しかし、私たちの天候はボルドーの天候とは異なります。気候変動により、ますます非生産的になっています。」

 

Casto は来年、追加の6.5エーカー(2.6ha)の区画に、水分ストレスを最小限に抑える台木にプティ・ヴェルドを接ぎ木する予定ですが、現在進行中の実験からさらにデータを収集するまではブドウ樹を植えることは控えるつもりだと話します。さらに、まだブドウの選択を検討していますが、ソーヴィニヨン・ブランの生産量を倍増させる予定です。

 

「現在、200本のブドウ樹で、水と熱のストレスを最小限に抑えるための新しい技術を試しています。これは、カリフォルニア大学Davis校とボルドーの組織や大学によって行われた研究に基づいています。果実が実るワイヤー線を50インチ(1.27m)まで引き上げ、果実の位置にランダム性を持たせ、太陽光がまだらに差し込むことで、日射が均等に分散されるようにするためです。」

 

今のところ、この実験は良好な結果をもたらしていますが、Casto はこの1年のプロジェクトをもう少し観察してから、より大規模に実施する予定です。

 

サンタマリアのブドウ栽培家であり自社ワイナリーも所有するBien Nacido Vineyards では、営業・マーケティング統括責任者の Nicholas Miller が、1973年にこの地に初めてブドウを植えたときから蓄積しているすべての知識を今活用していると話します。

 

「当時は、サンタバーバラ郡での植栽の初期段階であり、台木、品種、クローンの選択はほとんど未知でした。植栽は自根で行われ、品種はカベルネ・ソーヴィニヨンからリースリングまで、今日私たちが知られているピノ・ノワールやシャルドネに加えて多岐にわたっていました。」

 

現在、Bien Nacido Vineyardsのブドウ畑の作付け面積は300エーカー(約121ha)で、最盛期の500エーカー(約202ha)から減少しています。1990年代から2000年代初頭にかけての最後の開発段階では、Culture Clubと呼ばれるワインメーカーとのパートナーシップが成長しました。(Bien Nacido の創設者である)Stephenと Bob Miller 兄弟によって共同設立されたこのクラブは、Bien Nacido とワインメーカーのパートナー間でリスクを分散させることを目的としており、彼らが使用する品種、クローン、台木を指導できるようにするものでした。

 

現在、収量の減少に伴い、Miller は、ブドウの木が植えられている300エーカーのかなりの部分を徐々に再植する計画を立てていますが、元の500エーカーに戻すことはないと話します。ですが、ワインメーカーのパートナーにこのニュースを伝えるのは慎重さが求められると認めています。

 

「収量の減少は、私たちの1トンあたりのコストを押し上げ、したがって顧客の1トンあたりの価格も上昇させ、最終的にはどちらの当事者も利益を上げられなくなります。しかし、私たちは主に他のワイナリーのために農業を行っており、これらの顧客は彼らが調達してきたブドウ樹に強い愛着を持っているため、これらのブドウを取り除くことを伝えるのは難しいのです。」

 

現在のところ、彼らはブロックごとに徐々に再植を進めており、Culture Club の精神を引き継ぎながら、関係するすべての当事者の市場動向を考慮しています。

 

「再植樹では、シャルドネとピノ・ノワールを主導したいと考えています。ですが、我々が今まで扱ってきたことのない品種であるアリゴテを追加することにも興奮しています。ブルゴーニュを精神的な故郷とするこの品種が、他のブルゴーニュ品種が素晴らしいワインを生み出すサンタマリア・バレーでどのように表現されるかを見るのが楽しみです。」

 

これは、セントラル・コースト全体でよりブルゴーニュ風のワインを作りたいと望む一部のワインメーカーにとっては朗報だと言えるでしょう。

 

「私は常に、栽培者と一緒に植えたいものについて意見を述べあうのが好きです」と、サンタバーバラ郡、ソルバングにあるKings Carey Wine のオーナー兼ワインメーカーである James Sparks は話します。「私は小規模な生産者なので、私の見解は、自身が販売できると信じているものと、その地域で農業と成長の両観点から機能するであろう品種に基づいています。アリゴテとグルナッシュは、もっと植えられてほしいと思う2つの品種です。」

 

異なる消費者を見据えた植栽

OIV(国際ブドウ・ワイン機構)によると、昨年の世界のワイン消費量は35億本減少しています。カリフォルニア州のブドウ栽培家による団体、Allied Grape GrowersのJeff Bitterは、需給のバランスを再調整するために、カリフォルニア州のワイン生産者に対し、少なくとも50,000エーカー(約20,234ha)のブドウ畑を撤去すべきだと提言しています。

 

今日、人々の飲酒の仕方は変化しています。彼らは素晴らしいボトルのワインには大金を支払う意思があるかもしれませんが、その頻度は減ってきており、若い世代は異なる品種やスタイルを探求することに意欲的です。どの年代の人々も“本物”を求めています。

 

Ehlers EstateのCastoはこう話します。
「Ehlersでは、明確な意図を持ってブドウを植え、ワインを造りたいと思っています。その一部は、この土地を尊重するという目的のためですが、市場が今ある場所に応えることも目的です。」

 

カリフォルニアに複数の畑を所有し、ワイナリーも運営するDierbergファミリー。彼らのもとでワインメーカーを務めるTyler Thomasは、ファミリーが所有するブランドが、市場の変化に合わせてブドウの植え替えや撤退を適切に行っていると話します。

 

「2019年、ある畑を完全に撤去することを決めました。そこは約160エーカー(約65ha)あり、そのうち約140エーカー(約57ha)分の果実を販売していました。ですが、ここのブドウ樹は病気にかかっており、収量も非常に低く、果実を売ることで損失を出していました。自家用に耕作していた20エーカー(約8ha)では利益が出ていましたが、全体の畑を維持して果実を作ることには正当性を見出せませんでした。」

 

さらにThomasは、両方の畑の初期植樹が25〜30年という寿命の最終段階に入っていると加えます。

 

サンタ・リタ・ヒルズにある66エーカー(約27ha)の畑では、最近、16エーカー(約6.5ha)の ピノ・ノワールをシャルドネに植え替えました。これは白ワインに対する市場の需要増に応えるためです。また、台木も変更し、より日陰を生むためのクロスアーム付き改良型垣根仕立てを導入しています。150エーカー(約60ha)ある畑では、傾斜地で育てている15エーカー(約6ha)の区画で、列間のスペースを広げるとともに、台木の活力も向上させています。

 

「台木の活力が高まれば、ブドウ栽培に必要な水の量が減るため、持続可能性が向上します」と Thomas は説明します。

 

サン・ルイ・オビスポにある Rancho Arroyo Grande では、全体で2470エーカー(約1000ha)の敷地に230エーカー(約93ha)のブドウ畑が植えられており、世代交代に向けた植え替えも進められています。

 

2022年には、42エーカー(約17ha)のシラーをソーヴィニヨン・ブランに植え替えました。この白ブドウは注目度が非常に高く、地域での気候変動に耐えうる品種であると、マネージャーの Sandy Matthews は説明します。

 

「セントラル・コーストにおいて、ソーヴィニヨン・ブランの市場規模は他のどの品種よりも大きいのです。カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールは植えすぎの状態です。ソーヴィニヨン・ブランは不足していて、競合であるシャルドネの需要が減ってきている中、非常に高い需要があります。ソーヴィニヨン・ブランはボルドー品種で、葉の繁りが良く、耐乾性が高く、特にシャルドネと比べても全体的に活力が高いのです。」

 

新たに植えた区画では、高位置のワイヤー誘引方式を採用し、労働力不足に対応して農作業を全面的に機械化できるようにしています。そして残りの区画も今後数年のうちに再植樹される予定で、品種の多様性をさらに広げ、グルナッシュ・ブラン、サヴァニャン、トゥルソー、ガメイ、ヴェルメンティーノ、ピクプール・ブランを含む20品種以上を育てることを目指していると、Matthews は語ります。

 

・収量・気候

カリフォルニア州による気候適応戦略ガイドによると、すでに州内では気温が摂氏0.6度以上上昇しており、一部の地域では摂氏1.1度を超えています。日中の最高気温は、今世紀半ばまでに、摂氏2.4~3.2度上昇すると予測されています。

 

カーネロスに2つの畑を所有し、合計330エーカー(約133ha)を持つGloria Ferrerでは、現在ピノ・ノワール74%、シャルドネ25%、ピノ・ブラン1%を育てています。

 

ヴィンヤードディレクターのBrad Kurtzは、最初に植えた区画のブドウ樹が樹齢40年に近づいており、収量が減少しているだけでなく、品質も期待に届いていないと語ります。チームは品質と収量の向上だけでなく、有機農業への対応という新たな栽培ニーズに応えるために、植え替えを開始しており、まもなく認証を取得する予定です。

 

「新しい栽培戦略に対応するために、仕立て方を改良しています。(点滴灌漑用の)ドリップホースは現在地面から持ち上げて、羊による草の放牧や除草剤を使わない下草の管理を可能にしています。」

 

また、ピノ・ノワールよりも耐性があると見込まれるシャルドネの割合を増やしており、さらに高温や極端な気象に耐え得る新たな品種としてマルヴァジア・ビアンカの植栽も始める予定です。

 

「私たちはまた、ブドウ畑周辺における生物多様性と花粉媒介者にやさしい環境を整備することの重要性を学びました。畑の再構築の中で、在来種の草木、木、低木、花などで構成された生け垣を畑の縁に設け、有益な昆虫や捕食動物の生息地を確保しています。これにより、ブドウ畑を健全かつ害虫から守ることができます。」

 

同社のワインメーカーを務めるKyle Altomareは、有機に転換された新たなブドウ畑により、理想的な熟度の果実が得られ、収量も上がっていると述べています。

 

「現在は、発酵や熟成においてステンレスタンク以外の容器を試し始めています。ニュートラルオーク、砂岩製容器を使用しており、他の選択肢も検討中です。ワインに構造が増すことで、これらの容器を使って複雑さの層を生み出し、ハウススタイルの進化につなげています。」

 

Stag’s Leap Wine Cellars は、現在のナパ・ヴァレーの Stags Leap District において1961年に最初のカベルネ・ソーヴィニヨンが植えられた56エーカー(約23ha)の畑、FAYを所有しています。また、53エーカー(約21ha)の畑、S.L.V.は1970年に植樹されました。

 

2022年には、ウイルス感染、収量の減少、そして気候の変化に対応するため、すでに1990年代に再植樹された畑の約10%の再植樹を開始しました。ヴィンヤードマネージャーのGuillermo Perezは、栽培方法と品種の選定を調整していると話します。

 

「気候変動による高温の増加に対応するため、列の向きを北東−南西に変更しています。また、通気性を高めるために栽培支柱システムにクロスアームを追加しました。また、気候変動への対応として再植樹を行い、市場のニーズや嗜好に応えるためにカベルネ・フランの比率も増やしました。」

 

ラザフォードにあるGrgich Hills Estateのワインメーカー、Ivo Jeramazによれば、彼らの再生型有機認証農法は、365エーカー(約148ha)の畑の再植樹完了後の将来を支えてくれるといいます。

 

「私たちのブドウ畑は、再生型有機農法のおかげで比較的良好な状態にあります。昨年から再植樹を開始しており、毎回数エーカーずつ植え替えながら10年以内に完了させる計画です。」

 

彼らにとって現在、最大の問題はレッドブロッチウイルス※だといいます。
(注釈:レッドブロッチウイルス・・ブドウ葉が赤変し、糖度低下・成熟遅延を引き起こすウイルス病。特にカリフォルニアで猛威を振るっている)

 

「このウイルスはコナカイガラムシによって媒介されます。病気の樹液を吸った虫が、次の植物を感染させるのです。かつては苗木業者もこの病気の存在を知らず、感染した苗を植えてしまったのです。」

 

しかし今では、「白紙の状態から」再スタートできるとJeramazは語ります。現在、2つの4エーカー(約1.6ha)の区画を再植樹中で、その2つの間にはコナカイガラムシの天敵を引き寄せるため、幅約7.3m、長さ約152mの在来植物や花を植えた緑の通り道を設けています。

 

「これにより、コナカイガラムシは自然に抑制されるはずです」とJeramazは話します。

 

この再植樹の波は、カリフォルニアのブドウ畑をより強靭で回復力のあるものへと導き、市場のニーズと欲求に応えられる状態へと押し上げてくれることでしょう。

 

引用元:California Wineries Look to Grape Diversity

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