時代、天候パターン、そして考え方の変化が、収集に値するワイン産地に関する従来の常識を覆しています。


ワインコレクターや愛好家は、今、そして10年後に、どのワイン産地に投資すべきでしょうか?長年にわたり、この普遍的な問いに対する答えは何度か変化してきました。そして、今再び変化しているようです。

 

コレクター、ソムリエ、業界の門番たちが「古典的なベンチマークワイン産地」と見なしていたものは、1960年代から70年代にかけてトスカーナやリオハにおけるワイン造りの抜本的な改革を受けて変化しました。1976年の「パリスの審判」の後、ナパはボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュの神聖な三位一体に加わり、それ以来、他のすべての地域と比較・評価される卓越性の模範として支持されてきました。

 

他の地域、例えば、ウィラメット・ヴァレー、マールボロ、メンドーサなども、少しばかり控えめでしたが、次なる注目すべき素晴らしい地域としてその名を冠しました。ワインにとっての良い時代は、ただひたすら良くなり続けるかに見えましたが、次に何が起こったかを私たちは目にしています。素晴らしい時代の良さは減り、今や関税とインフレの中で、私たちが現在いる“まあまあ(so-so)”の時代は、一時的であっても、悪化するかもしれないと予感させる要素がいくつもあります。

 

加えて、業界が無視できない厳しい裏の拍動があります。消費パターンの変化、若い世代が高級ワインの収集にあまり積極的でないこと、そして最上のブドウを生み出すと信じられている地域の未来を脅かす継続的な気候変動という課題です。

 

しかし、グローバリゼーションと産業化がもたらした急速な社会経済的変化と環境災害は、確かにワイン文化の多くの側面を脅かしていますが、同時に恩恵ももたらしています。技術の進歩によってワインは世界中で生産・消費されるようになり、高級ワインの認知度と評価はかつてないほど高まりました。こうした広範な知的・経済的変化の中で、業界の多くの人々は、ベンチマークが何を意味するのかを静かに見直し、その範囲を広げています。

 

次なる大本命

浮かぶ疑問は…このベンチマークがどれくらい過去と変わったのか、ということです。幾つかの地域が、昔ながらを愛する収集家にとってたまらない嗜好品でありながら、若い世代の心をも掴むという、驚くべき技を成し遂げています。

 

イタリア:

例えばシチリアでは、外部からの投資が集まりつつあります。もしトスカーナ、ナパ、ウィラメット・ヴァレーの例が当てはまるなら、これはシチリアワインのボトル価格が大幅に上がる前触れだと言えるでしょう。

 

「シチリアでは、北イタリアからの外部投資が見られます。幸いなことに、Gaja家のようなブドウ栽培家がシチリアの可能性を見出し、投資を行っており、Graci家とGaja家のIDDAプロジェクトは、シチリアのワインに正当性を与えています。」
ニューヨークの高級ワインマーケティング・販売会社であるWilson Danielsの社長、Rocco Lombardoはこう話します。

 

Lombardoによれば、良好なテロワールにおける気温の上昇も、エトナ山のワインに深みとニュアンスを加えるのに役立っていると言います。

 

「今日のエトナ山のワインは、より肉厚になっており、標高と火山性土壌のおかげで、真の表現力と純粋さを持っています。また、Feudo Montoniが居を構える内陸部のポテンシャルにも非常に期待しており、その孤立した環境も魅力的です。」

 

1469年に設立されたシチリア最古のワイナリーの1つであるFeudo Montoniのオーナー兼ワインメーカーであるFabio Sireciは、有機農業への献身、伝統的な栽培方法、そしてワインの長命さにより、彼らのワインが若い愛好家と確立された愛好家の両方からより注目を集めていると述べています。
「ブドウ畑は昼夜の大きな温度差を生み出す高地にあるため、高酸度で低pHのワインが生まれ、コレクターは私たちの赤と白の両方の現在のヴィンテージと過去のヴィンテージにますます興味を持っています。」

 

フランス: (Chinon、Anjou、Saumur、Savennières)

アメリカにある星付きレストラン、The ModernやSepiaなどで飲料統括をしてきたソムリエでワイン教育者のArthur Honは、フランス、ロワール地方の特定の地域、特にChinon、Anjou、Saumur、Savennièresが、経済的・気候的要因が組み合わさることで、すでにスターダムへの道を歩んでいた同地域をさらに後押ししていると話します。

 

「ロワールの一部の地域は、世代交代により、バイオダイナミック、オーガニック、ナチュラルワイン・ムーブメントの最前線にいます。価格高騰によりブルゴーニュのような地域が選択肢から外れているため、ロワール産の食事に合い、非常にエキサイティングなカベルネ・フランとシュナン・ブランが台頭しています。」

 

ブルゴーニュといえば、ワイン教育者 兼 コンサルタントであり、自身のキャリアの多くをカベルネ・フランの研究に捧げてきたAllison Sluteはこのように話します。
「50年後には、今ブルゴーニュについて語るのと同じように、ロワールのカベルネ・フランとその土壌と地質学のパッチワークについて語られるようになるでしょう。気候と多様性の観点から、フランスの未来はロワールにあります。そして、この地域の最高のワインの中には驚くほど手頃な価格のものが残っているため、私は常にOlga Raffault、Bernard Baudry、Antoine Sanzay、Domaine des Roches Neuvesのような生産者に投資するよう人々に助言しています。」

 

かつては、ロワールでは10年に2回だった素晴らしいヴィンテージも、今では温暖な気温と技術の向上のおかげで、毎年期待されるようになっています。

 

オーストラリア:

一方、世界の反対側にあるタスマニアは、気候変動に適したテロワールと、昔ながらのワイン愛好家から新規のワイン愛好家まで惹きつける傾向があることを除けば、ロワール地方やシチリアとはほとんど共通点がありません。

 

「タスマニアは南に位置する冷涼な島の気候なので、“気候変動の最大の影響”から守られます。そして、タスマニアには、遠隔地ならではのユニークさや、違い・発見を感じさせる面白みがあるので人々の探求心をあおるのです。」と、Master of Wineであり、Tolpuddle Vineyardなどの販売・マーケティング責任者 兼 共同CEOを務めるDavid LeMireは言います。

 

Wine TasmaniaのCEOであるSheralee Daviesは、世界中のワイン産地でブドウ畑の伐根が進む中で、タスマニアはブドウの木を植え続けていると言います。

 

「タスマニアワインへの関心が高まり続けている理由はいくつかあります。私たちの気候、品種、スタイルの特性は、特に人々が“量を減らして、より良いワインを飲む”という変化する消費者の好みに合致しています。希少性を重んじ、手に入りにくいものを探し出す価値を評価する人々にとって、まさにそれが私たちなのです。」

 

次の、その次にくる大本命

これから業界のベンチマークになるであろう多くの地域に共通するのは、地理的な遠隔性です。そして、これが一般的なワイン産地とは逆の、型にはまらない気楽なもてなしと結びつくことで、更なる魅力となっています。また、これらの地域は、より多様なブドウ品種やスタイル、そしてより手頃な価格帯のワインを消費者に提供しています。

 

アルゼンチン:

アルゼンチン北西部に位置するサルタは、標高1600メートルから3000メートル以上の間にブドウ畑が植えられている、地球上で最も極端なブドウ栽培地域の1つです。生産者はわずか60軒ですが、多くのプロジェクトは大規模で、約3000haものブドウが栽培されています。

 

「標高が高く、強烈な日照と著しい日中の寒暖差があるため、気温が上昇してもブドウは鮮やかな酸味とフレッシュさを保ちながら、フェノール類がしっかり熟すことができます。」
こう語るのは、サルタにあるBodega ColoméのワインメーカーであるThibaut Delmotteです。

 

乾燥した風の強い気候は、化学物質を使わないブドウ栽培を容易にし、気候変動や味覚の変化が起こる時代において、特に将来性があると言えます。そしてもちろん、この高標高地域の評価は、ブドウの品質によっても高まっています。

 

「サルタがワイン愛好家の注目を集めるのは、偉大なテロワールが常にそうであるのと同じ理由です。ワインは個性的で、表現豊かで、その土地に深く根ざしています。長年、代表的な白ブドウであるトロンテスと、非常に凝縮されたマルベックで知られてきましたが、現在は、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、タナが台頭し、太陽をたっぷり浴びた凝縮感と山のフレッシュさを備えた素晴らしいワインを生み出しており、この地域の目覚ましい多様性を示しています。」とDelmotteは話します。

 

南アフリカ:

スワートランドの愛好家にとっても、遥か遠くの遠隔地に行くことは不可欠です。

 

南アフリカのスワートランドでは、地域の172のブドウ栽培者の多くが、古木のブドウ畑が広がる山間部の土地で有機栽培やバイオダイナミック農法を実践しています(ただし、コストのために認証は取得していません)。

 

南アフリカワイン協会のマーケティングマネージャー、Jim Clarkeはこう説明します。
「ここで造られるワイン、例えばミネラル感あふれるシュナン・ブランやスパイシーなシラー。さらにはサンソー、クロデット・ブラン、ティンタ・バロッカといった、あまり知られていない地中海やフランス系の品種も少量ながら生産されています。これらのワインは、スワートランドの素朴で力強い美しさや、生産者たちの本物志向な姿勢に共感するコレクターたちを強く惹きつけているのです。Eben SadieのColumellaやPalladiusのようなワインは、常にコレクターに求められてきました。今日では、Mullineuxsの単一土壌シュナン・ブランやシラー、Adi Badenhorstの単一畑ワイン、Porseleinberg Syrahのようなワインも挙げることができます。」

 

Chris Mullineuxは、乾燥した日当たりの良い気候、古代の土壌、そして古いブドウの木が
“自然な凝縮感と複雑さを持つ健全な果実”を生み出すと指摘します。

 

「ここのワインメーカーたちは本物で、飾らない人柄なので、消費者が私たちの目指すものと繋がりやすいのです。人々はスワートランドで、より自然で、リラックスでき、本物志向の体験を求めているようです。同時に、私たちのワインは、より多くの高級ワイン取扱店や高級レストラン、そしてコレクターのセラーで見られるようになっています。」

 

アメリカ:

フィンガー・レイクスは、200年もの間「新進気鋭」と言われ続けてきた地域で、アメリカ最古の保税ワイナリーを擁するという誇りを持っています。しかし、1957年にDr. Frank Konstantinがキーウカ湖の斜面で初めてのヴィティス・ヴィニフェラ種の栽培に挑戦するまで、ヨーロッパ系品種は植えられていませんでした。そんなフィンガー・レイクスが、おそらくついに正当な評価を得る時が来たようです。そして、そのきっかけは世界的なパンデミックだったのかもしれません。

 

「私たちは何十年もフィンガー・レイクスで素晴らしいワインを造ってきましたが、正直なところ、新型コロナウイルスが流行するまではニューヨーク市で注目を集めるのに苦労しました。」
こう話すのはDr. Konstantin Frankの常駐ソムリエであるJason Ferrisです。フィンガー・レイクスで育った彼は、長年高級レストランのソムリエとして働いていましたが、その頃は地域のワインを試してもらおうとすると、他のソムリエに“笑われた”と語ります。

 

「しかし、それは新型コロナウイルスの間に変わりました。普段ならヨーロッパへ飛行機で行くような人々が、突然ここに来るようになったからです。人々は自分たちの州内でより安心感を持ち、ニューヨーク市が私たちを発見したのはまさにその時でした。」

 

Ravines Wine Cellarsの共同設立者であるLisa Hallgrenは、ここ数年で訪問者や熱心なコレクターが流入している一方で、2010年頃から静かな称賛がゆっくりと高まっていたことに気づいたと言います。

 

「2007年に初めて見本市で私たちのワインを共有しようとしたとき、ソムリエたちに追いかけて試してもらう必要がありました。彼らはラベルに『フィンガー・レイクス』と見るや否や、去っていったんです。しかし、2010年のワインスペクテーター誌の『トップ100ワイン』に選ばれた途端、全米のソムリエから電話がかかってくるようになりました。」

 

現在Ravinesのワインは、有名シェフが経営するレストランのワインリストにも名を連ね、他の多くのワイン産地がテイスティングルームの席を埋めるのに苦労している中、彼女とフィンガー・レイクスの仲間たちは常に忙しくしています。その一因はこの地域の新たな名声にありますが、比較的低い価格設定も魅力です。テイスティングルームの雰囲気は非常にリラックスしており、多くのイベントも開催され、伝染するような楽しさがあります。

 

引用元:Navigating Wine’s New Benchmark Regions

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。

 

 

 

CTA-IMAGE ワイン通販Firadis WINE CLUBは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社株式会社フィラディスによるワイン直販ショップです。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。 是非、プロ品質のワインをご自宅でお手軽にお楽しみください!
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