ネゴシアン、ボルドーにノーと言う
- 2025.07.31
- ワインニュース
- 2024ヴィンテージ, プリムール, ボルドー

今年のボルドー・プリムールには誰も満足していませんが、一部の生産者は問題ないと言っています。
「ネゴシアンが 『ノー』という言葉の存在に気づいたヴィンテージだった」。
これはイギリスのワイン商Farr VintnersのStephen Browettの言葉です。この言葉は、2024年のプリムールのダイナミズムと、主だったシャトーが完売に至らなかった理由の両方を言い表しています。
「文字通り、完売したネゴシアンはいません」と Browettは言います。「ひどいプリムールだった。ほとんど売れていない。Lafiteはかなり好調だったが、完売には至っていない。Les Carmes Haut-Brionはまずまずだったし、他のファースト・ラベルもまずまずだったが、やはり売れ残っている」。
別の商人はもっとはっきりと言います。「クソだった、最悪だった」。さらに別の商人は、 「プリムールの目標を2023年の約50%減らした。それでもかなり低迷しているように見えた。我々はギリギリのラインにいる。でも、他よりはうまくやったよ」と詳細を述べます。
2024年の状況は周知の事実です。雨と腐敗に悩まされた年で、ブドウ畑に細心の注意を払ってやっと少量の収穫を得ることができました。そして、その少量の収量で、できる限り最高のワインを造ろうと決意したシャトーは選別台で厳しい選別を行い、さらなる収量減となりました。
誰もグレイト・ヴィンテージとは言わないだろうし、とても良い年だとも言わないでしょう。しかし、早飲みに適したフレッシュでジューシーなワインがたくさんあります。オフ・ヴィンテージと呼ぶのは(もちろんそうではあるが)、ワインの質が悪いと言わんばかりですが、むしろワインは優雅で、輪郭がはっきりしており、時に顕著な複雑さを持ち合わせるものもあります。最高級ワインでさえ、わずか5年から10年後には美味しくなるでしょう。しかも、評論家からは高評価を得ています。非常に高い評価もあり、であればグレイト・ヴィンテージに対しては、100点満点ではなく110点満点とする必要があるほどです。しかし、ボルドー叩きのような批評をされる生産者にとっては、苦難の年になるでしょう。
ご存知のように、価格は下落、しばしばかなり大きく下落しました。格付け1級シャトーは平均して、2022年の価格から50%ほど下落しました。Browettが言及しているように、Lafiteはこのプリムールで商業的に成功した部類に入ります。
しかし、キャンペーン全体としては大失敗でした。なぜか?答えを探すのに難しく考える必要はありません。
「プリムールで早く買う理由があるはずだ」とワイン商は言います。「何かメリットがあるはずだ」(匿名であることをお詫びするが、ほとんどの人はオフレコでしか話してくれなかった)。
「このヴィンテージは投資対象とは見なされていなかった」と言い、彼らは続けます。「それで、買う理由は何だったのか?」。
また、価格が下がったという事実そのものが、この年があまり良くない年であることを示しており、したがって避けるべき年であることを示唆しているという意見があります。簡単に言えば、もはや誰もボルドーを必要としていないのです。プリムールで買う理由がなければならないのですが、もう買う理由が全くなくなってしまったのです。
Browettは付け加えます。「消費者はこれまでに2つのヴィンテージをプリムールで購入し、後で安くなったのを見たのだ。2021年は2019年よりも高く発売されたが、明らかに劣る年だった。1ケース£5000($6790)で買ったワインが、後で1ケース£3000($4000)になった。彼らは前の年に大損をしたので、プリムールで買う意味がないと考えたのだ。ワインが瓶詰されて現物になれば、手に入らなくなるか、より高価になるはずだが、ここのところそういう状況になっていない。ワインが値上がりしなければ買う意味がない。もし良い年だったら、買った方がいいと言うことになったかもしれない。しかし、彼らはもううんざりしているし、オフ・ヴィンテージだから買い控えたのだ」。
「彼らはプリムールに戻ってくるのだろうか?それはあまりに単純な質問だ。2025年が良くて、市場に出回っている現物ワインよりも安ければ、彼らは戻ってくるだろう。しかし、シャトーが勝つのではなく、消費者が勝つ年が必要なのだ」。
もちろん、ワイン商は以前からこの様なことを言及していましたが、ネゴシアンが新しいワインの割り当てを従順に受け取っている限り、シャトーはすべてを売り切ったと言えるので、一体何が問題なのでしょうか?そして、ネゴシアンは、在庫と新規購入の資金調達のために安く借り入れができる間は、割り当てを引き受けるつもりでした。彼らにとって割り当てを失うという脅威は絶大で、その決断をさせるには十分でした。
しかしその後、金利が上昇しました。突然、在庫の資金管理が問題となり、在庫を急遽処分しなければならなくなりました。急に、銀行から当座貸越を減らすように言われたのです。
「2021年、彼らはワインを購入した」とBrowettは語り始めました。「2021年には、間違った価格だったにもかかわらず購入し、在庫を抱えて身動きできなくなった。今年の価格はもっと現実的だったにもかかわらず、ネゴシアンは『ノー』と言った。2024年の問題を引き起こしたのは2021年だった」。
シャトーだけでなく、ボルドーではネゴシアンも多くの在庫を持つものです。当然ですが、シャトーはすぐに自社の在庫を貸借対照表に反映させて、プリムールが成功したかどうかを計測します。最近は、小売商は熟成させるための大量の在庫保管をすることはありません。欲しいものがあれば、ネゴシアンとして必要な分だけ買う方がはるかに安上がりだからです。
一流のワイン商は一流のシャトーとの関係を築くものなので、ワイン商AはシャトーBの需要があると知れば、シャトーBと連絡を取り、シャトーBが選んだネゴシアンを通してワインを購入します。これは、人間関係のネットワークであり、プリムールの顧客を含む全員が利益を上げるシステムなのです。そして今日では、顧客は熟成したボトルワインの価格を見て、そちらを購入する方が有利だと気づくでしょう。
「ラフィット2024は、過去のどのヴィンテージよりも安い価格で提供された」と、あるワイン商は、売れた理由を説明します。
「多くのシャトーは、10年以上もの間、甘い汁を吸ってきた」と、あるワイン商は言います。「強気相場に乗っているときはそれでいい。シャトーの中には、高級品として見られたいという願望がある。今は現実的な再調整の時期にあり、一部のワインはより入手しやすくなるだろう。もしかしたら、10数種は高級品ブランドになれるかもしれない。しかし、それ以外で今まで上を目指してきた人たちは、もっと現実的にならなければならないかもしれない」。
「新しい設備に投資するために多額の借金をしたところも多いので、一定のリターンが必要だ。頂点に留まることができる者もあれば、考え直さなければならない人もいるだろう。時間もかかるだろう」。
というのも、苦しんでいるのはネゴシアンだけではないし、回転率の大幅な低下から傷をなめ合っている小売商だけでもないからです。すべてのシャトーが現金で潤っているわけではありません。「ファーストやスーパーセカンドは何とかなる」と、あるワイン商は言います。「しかし、それ以下は苦境に立たされている」。表に出てくるよりもはるかに多くのシャトーが、ひそかに売りに出されているのです。その多くは、採算が合わないのです。
シャトーはこう言います。「在庫を抱えることに問題はない。Canonのプリムール用ワインの40%をリリースしたが、まだ終わっていない。我々は誰にも購入を強制したりはしない!」。(サンテミリオン、Château CanonのJean-Basile Roland )。
「11,000本リリースして、全部売れた。私にとっては良いプリムールだった」。(サンテミリオン、Château Beauséjour のDuffau-Lagarrosse)
「お客さんに興味を持ってもらうのは難しかった。逆境の世界情勢だから。2024年は飲み手にとってのチャンスの年なのだ。なのにプリムールのお買い得品のいくつかは気づかれずに終わってしまった」。(Château Lynch-BagesのJean-Charles Cazes)
「難しかった。通常は月曜日にリリースし、火曜日の終わりには結果がわかる。今年は最終結果が出るまで4週間も待たなければならなかった」。(Château Léoville PoyferréのSara Lecomte Cuvelier)
「もっと悪くなる可能性もあった。もし人々が買いたくないのなら、私たちには売るべき他のワインがあるからいいのだ。他のヴィンテージ、他のワインがある。2024年は素晴らしい年だ。人々は後からそれに気づくだろう。(Châteaux Léoville-Barton と Langoa BartonのDamien Barton Sartorious)
今後はどうなるのか?とPontet-CanetのJustine Tesseronは、疑問を提起します。このプリムールでは、予想よりも値下げ幅が小さかったため、今回のキャンペーンでは一部の関係者を動揺させました。「悪いプリムールではなかったが、ベストではなかった。販売数は減ったが、後で売るつもりだ。今回、2023年の価格を23%下げたが、これは2022年より30%の下落だ。我々には長期的なビジョンがある。価格を大幅に下げても今は問題ないが、将来はそうではない。我々のポジションを維持しなければならない」。
「安かろう悪かろうでは意味がない」と、Rolandはつけ加えます。「飲むために買ってもらう必要がある」。
これが問題の核心です。人々はボルドーを飲んでいないのだから、どんどん安くすることだけが解決策ではありません。ボルドーのセラーにワインを蓄えていた人々は売却しており、ワイン商は市場に過剰に出回り、ワインの価値が下がらないように、できるだけうまく管理する必要があります。おそらく、自ら買い付けて、熟成したワインが求められている米国などの市場で販売することになるでしょう。Millésimaはニューヨークに店を構えており、Berry Bros は間もなくワシントンに店をオープンします。
ワインを飲んでもらわなければならないのです。投資用ワインの供給者として自らを位置づけているシャトーは、自ら問題を引き起こすことになっているのです。
「投資に携わっている人はみんな、ワインを飲まない」と、ある商人は言います。「BartonsやDomaine de Chevalierのように、顧客を維持するために本当に一生懸命働く人たちは、良い結果を出せるだろう。しかし、実際にワインを飲む顧客層を失ったシャトーは、ゼロから再出発しなければならない」。
MillésimaのFabrice Bernard によれば、すべてのシャトーがこのことに気づいているわけではないようです。「問題があると気づいたり、理解しているシャトーもある。しかし、途方に暮れるだけで現状を理解していないシャトーもある。価格は、需要と供給によって決まる。問題は、いかにして需要を高めるかです。それが唯一の道筋だ」。
Bernardのアドバイスは2つあります。まずは、ブランドを定義することです。
「自分が何者で、何をしたいのかを明確にする必要がある。誰かがこのワインを買って、あのワインを買わないのはなぜか?」シャトーはレストランと協力すべきだと彼は言います。「グラスワインを適正な価格で提供するべきだ。これにはコストがかかるが、シャトーはそれをマーケティングコストと捉えるべきである。小売のボトル価格の6倍から8倍というのはあり得ない。シャンパーニュのように、同じ値付率でなければならない」。
そして、シャトーは小売業者であるワイン商と協力すべきだと言う。MillésimaやBerry Bros、Zachysなど、顧客との接点が多い、有名大手と組むべきです。小売業者のウェブサイトやメールリストを通じてオファーを行い、小売業者と直接連携してブランドのプロモーションを行うべきです。もちろん、それにはコストがかかります。シャトーは、マーケティングと顧客へのアプローチに真剣に取り組む必要があると彼は言います。それは、少数の人しか訪れることのない建物を設計するために、国際的に有名な建築家を雇うよりも、おそらく良いお金の使い方でしょう。
「1970年代」と、彼は言います。「ボルドーが苦境に立たされていた時代、Jean-Michel Cazesや Henri Duboscqは、自分たちのワインをパリのシャン・ド・マルスに持って行き、人々に試飲してもらった。私たちはもう一度、これとまったく同じことをしなければならない。レストランで、バイ・ザ・グラスで」。
それが鍵だと彼は言いますが、それだけではないのです。「今年の値下げは十分ではなかった。良い値下げではあったが、十分とは言えなかった。Bernardは12月から各シャトーに、2008年の価格にインフレ率を上乗せした価格でなければならないと説明し始めた。そうなると2023年の50%値下げになる。実際彼らは2022年には50%値下げした。私の考えが間違っているのかもしれないが、実際には彼らは2024年をそこまで値下げしなかったので、正確なところはわからない。この価格ならノーとは言えないような、価格に対する衝撃的な変化が必要だ」。
次に生産です。
「生産量が多ければ価格を下げることができる。生産量が少なければ、価格を下げることはできない。生産量は1haあたり50hlで、ファーストワインが80%である必要があり、ファーストワイン20%、セカンドワイン以降4、5、6、7ワイン…で80%という具合にはいかない。様々な手法を考える必要がある。ファーストワインはいけると思うが、セカンドワインはわからない、サードはおそらく無理だろう。顧客は今までとは違う変化を求めているのだから、価格は下げなければならない。小売価格を下げられないのであれば、マーケティングに力を入れ、レストランでの需要を増やさなければならない」。
消費者に飲んでもらわなければならないのに飲まれていないのです。ボルドーは長年、人々が実際に飲むという理念を口先だけで唱えるだけで、実際には投資用の高級品としてワインを価格設定してきました。私はBernardに、最も伝統的なロンドンのレストランを除けば、ボルドーワインをリストに載せているところはほとんどないと言いました。彼は笑いながら、他の産地の名前を次々と挙げました。他の産地の素晴らしいワインがリストを占めているのは事実です。
ボルドーよ、他ではなくあなたのワインを選ぶ理由を教えてください。お願いします。
引用元:Négociants Say No to Bordeaux
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。

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