カリフォルニアの残酷な冷夏

カリフォルニアの残酷な冷夏

異例の涼しいカリフォルニアの夏が、ブドウ農家を悩ませています。


今年、ナパとソノマ郡は非常に涼しい夏になっています。生産者はブドウの成熟に懸念を抱き始めています。

 

まだ早い段階なので、一回の熱波で状況は変わる可能性があります。しかし現在、ほとんどのブドウ園で平均的な成熟の進行が大幅に遅れています。

 

アメリカ漫画のジャーナリストJimmy Olsenが秘密を明かす時のようにリスクを覚悟でお伝えします。7月下旬、ワイン産地で開催された協議会に参加し、昼食時にブドウ農家のグループと席を共にしました。今年は話題に事欠かない年です。移民の強制送還、関税、サンフランシスコ・ジャイアンツの打撃成績など。しかし、彼らは涼しく霧の多い夏についてしか話していませんでした。

 

「谷の方では確かに噂が広まっている」と、Summit Lake VineyardsのパートナーHeather Griffinは言いました。「毎年、この季節になると収穫について、誰もが少し不安になる。農業はメンタルが弱い者には向いていない」。

 

問題は、北カリフォルニアの典型的な天候パターンです。州の内陸部の暑さが、海から霧を引き寄せ、海岸線に滞留させます。

 

「モントレー郡からノース・コーストまでの沿岸部のワイン用ブドウは、天候の大混乱に直面している」と、Allied Grape Growersの会長Jeff Bitterは語りました。「朝の海洋からの霧が持続し、午後の日差しや乾燥が不十分であるため、カビのリスクが高まっている。沿岸部全体でカビの発生が見られ、ローダイに至る内陸部にも及んでいる」。

 

この記事を書いている7月下旬は、スティルワイン用のブドウ収穫開始までまだ1ヶ月以上あるため、パニックは起きていません。しかし、一部の生産者は対策を講じています。

 

すべての賭けは白紙

「何人かのヴィンヤード・マネージャーは、成熟状態を適切に保つため、房を切り取ったり、場合によっては房の一部を切り取ったりするなど、より厳しい調整を行っている」と、Napa Valley Grapegrowersのエグゼクティヴ・ディレクターCaleb Mosley は語りました。

 

ブドウを成熟させ、カビの発生を減らす方法の一つは、葉を剪定して日光がブドウの房に直接当たるようにすることです。しかし、7月にこれを行うのはリスクが高いのです。

 

「管理手法を大きく変える最大のリスクは、果実の過度の露出だ」とMosley は述べました。「夏が深まり、ヴェレゾンが進むにつれ、いずれ熱波に見舞われるだろう。もし、あるヴィンヤード・マネージャーが成熟中の房を直射日光にさらすために過剰に除葉した場合、熱波は果実の色、風味、タンニンの質、香りに重大な影響を与える可能性がある」。

 

良い農家は長年にわたる過去の経験を覚えています。2010年と2011年、ナパ・バレーは一時的に涼しい夏でした。 Mosleyは、2010年はこの時期の記録上最も涼しいヴィンテージの一つであり、農家たちはかなりの除葉をしたと述べています。

 

「8月下旬、過酷な3日間の熱波が数多くの気温記録を破り、ヴェレゾン期終盤の露出した房に深刻なダメージを与えた」と Mosleyは説明しました。「その年、誰もが教訓を得たのだ」。

 

2011年も涼しいスタートを切ったため、農家たちは昨年とは異なる対応を取りました。そして2011年は涼しく雨の多い年になりました。今日、これらのヴィンテージについて語るのは、深い皮肉を含むことになります。批評家たちは、天候がどのように影響するかをよくわかっていたので、2011年のカリフォルニアワインがリリースされた際、酷評しました。現在、それらのワインの多くは良い状態になっています。セラー・ライブラリーの中の最高のワインになっているものもあります。しかし、二次市場では他のヴィンテージほど高値で取引されていません。これは回りくどい説明です。つまり、涼しい天候ならば素晴らしいワインが生まれる“可能性はある”が、市場はそれらに素晴らしいワインとしての価格をつけないかもしれない、ということです。これが、高級品を扱う農業を営む難しさなのです。

 

「品質面では、果実の成熟期間が長くなることは良いことで、風味の凝縮を促進し、最終的に素晴らしいワインを生み出す可能性がある」と、ブドウ園管理会社Stornetta Made Farmingの社長Mark Stornettaは述べました。「果実の収量は平均付近で推移しており、天候が変化しない限り、成熟が加速する可能性は低いでしょう。今のペースでは、多くの生産者が遅い収穫を予想し備えている」。

 

批評家が長く涼しいヴィンテージのワインを理解しないリスクに加え、収穫シーズンが遅れることには他のリスクも伴います。

 

収穫時の雨はヨーロッパの伝統的な懸念事項です。カリフォルニアでは通常問題にならないのは、緩い房のカベルネ・ソーヴィニヨンが雨に比較的強い品種だからです。

 

しかし、ワイナリーが一気に収穫したいと思い、集中して収穫を終えることがよくあります。
これは、9月下旬から10月上旬に例外的に暖かい週がある場合にあることです。豊作の年では、ワイナリーのタンクのスペースが不足する可能性があります。

 

今秋のより現実的な問題は労働力の確保です。農業労働者は現時点ではICE( Immigration and Customs Enforcement)から身を隠しているので、実際10月にどの程度の収穫作業員が確保できるか不明です。ワイナリーは、リンゴ、ニンジン、レタス、大麻など、他の種類の農家と労働者を奪い合うことになるかもしれません。ワイナリーは通常より高い賃金を支払いますが、労働力不足に悩む他の農業分野が上回る賃金を提示することもあるかもしれません。

 

「1年以上一緒に働いてくれた男性が、今日別の州に移住するために辞めてしまった」と、Barra of MendocinoのオーナーMartha Barraは言いました。「彼は書類を持っているのだ。彼はトランプが『罰していない』と感じる州に移り、そこでより安全だと感じるかどうかは不明だ」。

 

2011年以降、もう一つ変わった点は、火災と煙の災害が『一代に一度起きる問題』(2008年)から、ほぼ毎年起こる問題に変わったことです。これは涼しい夏におけるもう一つの複雑な問題です。農家が収穫を遅らせるほど、野火が発生した際にブドウが枝に残っているリスクが高まります。

 

Smith Madrone Vineyards & Wineryの共同オーナーStu Smithは、7月下旬は、消火ホースや屋上スプリンクラーの損傷を点検し、敷地の境界付近を耕して防火帯を作る時期だと言います。果房を間引きする作業はしていませんが、ナパ・バレーの至る所では果実の間引きが行われているそうです。

 

「ブドウ園で奇妙なことをしている人が多いのは、必要以上に収量を増やしたくないからだ」と、Smithは語りました。「これは、私のブドウ栽培者としての人生の中で最悪の経済不況だ。これよりひどかったのは禁酒法時代だが、あの頃、私はここにいなかった」 。多くの人が果房の間引きをしている。また、多くの人がブドウ園から撤退している。不況の時にブドウ園撤退するほど良いタイミングはないだろう?一部の栽培者は、収量が少なくなるように、結実不良を実は期待していたのだ」。

 

Smithは2025年のカベルネの収穫は問題ないと考えています。しかし、カビに弱いシャルドネについては、そろそろ心配し始める時期かもしれません。

 

「今週(7月最終週)は本当に涼しいですね」とSmithはスプリング・マウンテンのワイナリーで語りました。「現在、気温は15℃台後半。明日か土曜日には21℃~22℃を超えるかもしれない。私たちがやっていることの一つとして、ブドウの枝間を広げる作業がある。除葉して、果実に日光が当たるようにしている。涼しい天候なので、霧や小雨が降ってもブドウの枝が早く乾くように、作業を早めに開始している。カベルネは緩い房なので問題ない。しかし、シーズン後半に雨が続いたら、シャルドネはほぼ諦めなければならない。シャルドネは房が非常に密接しているからだ。自然は、シャルドネが最初に芽吹き、最初に花を咲かせ、最初に実をつけるようにしている。この自然の機能は興味深いものがある」。

 

「これが農業だ」と、Smithは言いました。「これが今年のヴィンテージを他のヴィンテージとは異なるものにするのだ。母なる自然が我々に何を与えるのかは、実際にその状況になるまでは分からない」。

 

引用元:California’s Cruel Cool Summer

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