オレゴン・オーク:木(き)になる存在?
- 2025.09.25
- ワインニュース
- quercus alba(ホワイトオーク), quercus garryana(オレゴンオーク), アメリカンオーク, フレンチオーク, ラクトン

開拓者たちは再びオレゴンへ向かっています。しかし今回は、毛皮ではなく木材を求めているのです。
ワイン愛好家の方はアメリカンオークのことを知っていると思っているでしょうが、どのアメリカンオークを意味するのでしょうか?
アメリカンオークは長らく、バニラ、ココナッツ、ディルといった甘い風味と同義語であり、それは樽の原材料であるquercus alba(アメリカン・ホワイトオーク)に由来するとされています。
しかし、より抑制的であまり知られていないタイプのアメリカンオークが、ワインとスピリッツ業界に浸透しつつあり、国内の生産者たちも注目し始めています。Wine-Searcher は、ワインメーカーや蒸留家の間で人気が高まっている太平洋岸の広葉樹、quercus garryana(オレゴン・ホワイトオーク)について詳しく知るため、3人のオレゴン在住者に話を聞きました
Martin Woods Winery のワインメーカーでありオーナーの Evan Martin は、2009年に Belle Pente で初めて収穫の仕事をした際に quercus garryana に興味を持ちました。同ワイナリーは毎年 Oregon Barrel Works から少数のオレゴンオーク樽を購入し、ピノ・ノワールやシャルドネで使用していました。Martin は「同じワインを新しいフレンチオーク樽と比べてどう進化するのかを見ることができた」と語り、特に シャルドネにおいて、オレゴンオークのワインが彼らの求めていた緊張感を保っていたと述べています。
「香りの面では、オレゴンオークのシャルドネはより静かで、フレンチオークほど華やかではありませんでしたが、良い透明感を示していました。時間が経つにつれ、フレンチオーク樽ではワインが呼吸し、より丸みを帯びていくのに対し、オレゴンオーク樽は張りを保ち、進化がそれほど早くないことが分かってきました。」
2014年に独立した際、Martin は自分のすべてのワインをオレゴンオークのみで造ると決意しました。
彼は州中を探し回り、最終的に Elk Cove や Domaine Serene など地元のいくつかの生産者から30~40樽の中古オレゴンオーク樽を購入しました。また、Oregon Barrel Works の創設者 Rick DeFerrari からも毎年いくつかの新樽を手に入れました。数か月のうちに、彼は国内で最大規模の quercus garryana 樽のコレクションを獲得し、さらに DeFerrari の協力を得て、オレゴンオーク専用の自らのスティーブヤード(樽材の乾燥場)まで設立しました。
Oregon Barrel Works の創設者、DeFerrari が quercus garryana に関心を持ったのはパンデミックの最中で、フレンチオークの輸入がほぼ不可能だった時期のことでした。彼はブルゴーニュの François Frères社のアメリカ支社で働いた後、2000年にそれを買収して Oregon Barrel Works に転換しました。当初は主にフレンチオークを使って樽を作り続けていましたが、希少で扱いづらい樹種である quercus alba よりもさらに難しい quercus garryana へと、好奇心と必要性から方向を転じたのです。
さらに供給量も限られています。DeFerrari は「オレゴンオークはすべて非工業的な民間の供給源 ― 小規模の林地所有者や農家、牧場主から来るため、入手が難しい。しかも樽材に使えるのは、質の良い木のうちわずか10〜20%に過ぎない」と指摘しています。
「quercus garryana は quercus alba よりも約20%密度が高く、フレンチオークよりもはるかに密度がある。そのため刃や道具がすぐに摩耗してしまい、加工が大変なんです。」
加えて quercus garryana にはチロシス(木の細胞内にある樹脂状の物質)がほとんどなく、そのため丸太を四分割して木目を乱さずに樽板にする加工が非常に難しいと指摘しています。このことが、樽材として扱う際の作業をさらに複雑にしているのです。ただし、市場でオレゴンオーク樽が希少である主な理由は供給量の不足です。
「十分な丸太の供給がないため、大手の樽工場と競争できないんです」と彼は言います。参考までに言えば、DeFerrari が年間に製造する樽は1000樽未満であるのに対し、アメリカ中西部で quercus alba を使う多くの樽工場は1日あたり2000〜4000樽を生産しています。
当然ながら、コストももうひとつの課題です。これは樽を使いたい生産者にとっても大きな負担となります。DeFerrari によると、新しいフレンチオーク樽は一般的に1200〜1500ドルで取引される一方、quercus alba を用いたアメリカンオーク樽は300〜400ドル程度です。彼の quercus garryana 樽はその中間で、通常1000ドル前後で販売されています。
「私たちは非常にユニークな木材に焦点を当て、プレミアムな樽を作っています。作業の多くはいまだに手作業です」と彼は語り、同社の製品はクラシックなフレンチオークと quercus alba に基づくアメリカンオークのちょうど中間に位置していると説明しています。
DeFerrari と同様に、時間と供給量が Martin にとって最大の制約であり、それが彼に quercus garryana への情熱にもかかわらず、他のオーク樽を再びワイン生産に組み込むことを余儀なくさせました。
Martin は「(オレゴンオークは)ごく一部の樹しか使えず、それも最高品質のものに限られます。」と説明します。さらに、彼が使用するオレゴンオークのほとんどは、樽に加工する前に5~6年間自然乾燥されていることも明かしています。その結果、Martin は現在、フレンチオークとオレゴンオークを約2:1の比率で混合したハイブリッド樽を作っており、その多くはワイナリーのシャルドネに使用されています。
供給量が少ないにもかかわらず、DeFerrari も Martin もオレゴンオークの使用を熱心に支持しており、DeFerrari の長年のクライアントである Clear Creek Distillery のマスターディスティラー Caitlin Bartlemay も同様です。
Bartlemay は語ります。「Clear Creek Distillery は、1994年に Oregon Barrel Works と提携してオレゴンオークを使用し、アメリカン・シングルモルト McCarthy’s の生産を始めました。このスピリッツの熟成に適した樽を見つけたかっただけでなく、その風味と原産地を私たちの地域に結びつけたかったのです。結果として、まさに理想的な組み合わせでした。」
それ以来、Clear Creek はオレゴンオークの使用を同蒸留所の他のスピリッツにも拡大しており、Trail’s End Bourbon ラインや長期熟成の McCarthy’s も含まれています。Bartlemay はオレゴンオークを「豊かで風味があり、熟成または仕上げに用いることでスピリッツに深みを加えることができる」と評しています。
「オレゴンオークはスピリッツの風味を支えつつ、それを圧倒することはありません」と彼女は言い、焼きスパイス、ローストヘーゼルナッツ、焦がしたオレンジピールの特徴的な香味を挙げています。DeFerrari は、quercus garryana の独特な風味はラクトンを欠くことに起因しており、そのため quercus alba が持つバニラやココナッツ、ディルのような甘い香味とは異なる特性を生むと説明しています。
さらに、顕著な塩味が quercus garryana の大きな魅力であり、特に Martin のシャルドネにおいて重要です。
「西オレゴンの環境の空気中の塩分を、オレゴンオークの樹木が数百年にわたり吸収しており、それがワインに塩味をもたらしています。オレゴンオーク樽のワインには海のような感覚、質感、香りが感じられます。フレンチオークでは、ワインは口中で広がり、甘みへと戻る動きをしますが、オレゴンオークでは前方に動きが進み、舌先を刺激し、はっきりとした塩味を描き出します。」
何よりも Martin は、quercus garryana を、オレゴンワインをより美味しく、かつその土地らしさを反映させるための資源と位置づけています。
「地域がフレンチオークだけを使うことから脱却できるのはいつでもワクワクします。フレンチオークは世界中にあり、結果としてワインが似通ってしまい、土地やテロワールとは関係なくなってしまいます」と彼は言います。
Martin は、フレンチオークを使う十分な理由はまだあるものの、在来樹種のオークを活用できることで、そのワインが産地固有の個性を持つことになると指摘します。「オレゴンオークで造られたシャルドネを初めて味わう人は驚かされ、本当に納得します。世界の他の地域で、これほど積極的に在来樹種を使ってワインの美味しさと個性を高めようとしている場所は知りません。」
十分に活用されていない樹種と見なされている quercus garryana ですが、DeFerrari はその可能性を強く評価しています。
「人々がオレゴンオークの栽培に関心を持ち、丸太や樹木に高値の市場があると認識すれば、より多くの木が育てられるでしょう」と彼は言います。
Martin も同意しており、樽生産を目的に森林を管理する長期的ビジョンを持つ大規模な組織を巻き込むことが、出発点として最適だと述べています。
「それは実際にオークの森林を保護し、新たな成長を促進することになります。価値を高めることができれば、それは目的と保護の両方に役立ちます。」
引用元:Oregon Oak: Wooden It Be Nice?
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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