シャンパーニュの過剰な除草剤使用の習慣

シャンパーニュ地方では、除草剤の使用を減らすと繰り返し公言したにもかかわらず、これは実際には浸透していないようです。
シャンパーニュのブドウ畑で除草剤の使用を減らすという宣言をするのは簡単ですが、実際に実行するのはかなり難しいのです。
今年のシャンパーニュの春は待ちに待ったものでした。2024年の生育期は非常に雨が多く困難で、冬の間もそれを引きずっていましたが、3月の晴天でこの地域に希望が戻ってきました。芽吹きは早く、1週間は霜や大雨の予報もなく、2025年シーズンは穏やかで好調なスタートとなりました。
しかし、このところの好天にもかかわらず、この地域では再び過剰な除草剤使用に手を染める生産者が多いのです。
シャンパーニュで主に使用されている除草剤はグリホサートで、シャンパーニュの使用者の大半が、課せられた制限を守っていないのですが、その使用はフランスの法律で厳しく制限されています。2020年10月以降、フランスの食品環境労働安全衛生庁(ANSES)は、フランスのブドウ畑におけるグリホサートの使用量を(環境と健康上の理由から)厳しく制限しており、1haあたりの使用量は通常推奨量のおよそ1/5に制限されています。
除草剤を散布できるのはブドウ畑の表面の1/5に限られ、事実上、空中散布は禁止されているのです。シャンパーニュ委員会(CIVC)の技術チームによると、このルールの唯一の例外は、機械作業できないブドウ畑の場合で、つまりシャンパーニュ地方のブドウ畑の6%にしか適用されません。さらに、水路や住宅から5m以内では除草剤を使用できないものとなっています。
2023年、欧州連合(EU)はグリホサートの認可をさらに10年間更新しましたが、ANSESはその制限を改正しませんでした。
無視を決めて
シャンパーニュの人たちはANSESが定めた法的制限を無視することにしたようです。もしこの制限を尊重すれば、この地域では除草剤はほぼ根絶されることになるでしょう。CIVCの品質・持続可能性ディレクターSébastien Debuissonは、密植されたシャンパーニュのブドウ畑で、法的拘束力でグリホサート制限をしても、それを遵守することは不可能に近いと述べました。
「うまく調整された散布装置を使っても、ブドウ木の幹の両側10~12cmだけに除草剤を散布するのは、実現不可能とまでは言わないまでも、非常に難しい」と彼は言います。 Debuissonは、グリホサートの法的規制はCIVCのヴィンヤード・ガイドに明確に記載されているが、この枯れた畑の風景は、それを読んだ生産者がほとんどいないことを証明していると指摘しました。
事実、Debuissonは、シャンパーニュの除草剤使用量が2022年以降、年々増加していることを認めています。これは、この地域のエコロジーを推進させるというコミットに著しく反するものです。
さらに、SGV(Syndicat General des Vignerons/シャンパーニュ・ブドウ栽培者組合)のMaxime Toubart会長とUMC(Unions des Maisons de Champagne/シャンパーニュ・メゾン連合)のJean-Marie Barillère会長(当時)が2018年12月に決定した事項では、少なくとも2025年までに除草剤は根絶されるはずでした。除草剤の完全使用禁止を見送る決断をしたのは、販売量の低迷と、グリホサートがEUとフランス政府によって禁止されるであろうという予想からでした。
コロナ危機の末期に多くのメゾンやブドウ栽培農家がぼやいていたワイン不足を理由にして、ANSESのグリホサート規制がすでに拘束力をもっていたにもかかわらず、この公言は2022年に一部無視されることになりました。SGVは、生産者は違法なグリホサート中毒からは、やがて脱出すると思っていたようです。この件に関する規制はほとんどなく、基本的には誰かが地域食品農業森林監督局(DRAAF)に苦情を申し立てた場合にのみ問題になることも十分承知していました。
しかし、シャンパーニュではANSESの規制は適用されないというSGVの主張により、一部のブドウ栽培農家はますます大胆なアプローチを取るようになり、生態系に対するパフォーマンスはここ数年で低下しています。例えば、有機栽培農家はグリホサート散布をする隣人のせいで隣接する畝が汚染され、水路や民家と接するブドウ畑までもが過剰なグリホサート汚染を受けたという苦情が何件も寄せられています。
禁止措置の試み
しかし、SGVは規制強化を急いでいるようには見えません。SGVは昨年仕様書の中で、除草剤の使用禁止(ブドウ木の幹から40cmの範囲に限定)を半ば強引に課そうとしました。しかしこれは、利害関係者の反対によって撤回されたと言われています。結局、畝の中央20cm、(表面の20%に相当)に除草剤禁止を課すことになりましたが、畑の20%にのみ除草剤の使用を認めている法的拘束力のあるグリホサート規制とは大きく異なります。
CIVCの技術委員会を率いるChampagne Roedererのシェフ・ド・カーヴJean-Baptiste Lécaillonは、今年後半にINAOに提出される新提案が「やはり熱心さに欠けている」のを感じました。これは、SGVがANSESのグリホサート規制を課す気がないことを意味しているのです。
法律は尊重されるべきと議論もされるでしょうが、仕様書による適切な管理システムがなければ、シャンパーニュがすぐにANSES規制を遵守することはないでしょう。
シャンパーニュでは長い間、規則の解釈が平行線をたどっており、これが2023年の収穫労働条件のスキャンダルの大きな原因となりました。この規則回避をする傾向が、ここ数年で除草剤の使用量が爆発的に増加した主な理由でもあります。多くのメゾンや協同組合が望んでいましたが、2024年の収穫量が少なかったため、腐敗に侵された2023年のワインとの入れ換えをすることはできませんでした。従って今後は、アペラシオンの上限よりも多くのブドウを生産する必要があり、特に個々のリザーブ(RI)も補充する必要があるのです。それはつまり、タンクレベルではじく必要のある低品質なワインと入れ替える際に、(上限を超えたために)アペラシオンを名乗れないはずのブドウがシャンパーニュになることを意味します。
威信の維持
シャンパーニュの人たちの多くは、このような疑わしいブドウ畑のブドウを使ったり、ワイン交換をする慣行は、不良ワインの廃棄へとつながり、最終的には消費者の利益になると主張しますが、シャンパーニュのような一流のアペラシオンになぜ品質の劣るワインがあるのかという疑問も出てきます。
このアペラシオンが、グリホサートの違法使用によりエコロジー・スキャンダルに発展するリスクを冒している理由も同じようなものです。ほとんどの利害関係者はキロ単位で売買をしているので、たとえそれが品質の低下を意味し、2023年に見られたように、アペラシオンに重大な損害を与えることになるとしても、目先の利益を最大化しようとします。シャンパーニュは市場投入までの期間が長い製品なのに対して、これは非常に短期的なビジョンであり、シャンパーニュの需要減少につながっていくのです。過去2年間で、販売量は3億2600万本から2億7100万本へと17%も激減しました。
成長するスパークリングワイン市場において、シャンパーニュの需要がこのように急減したことで、シャンパーニュの位置づけについての議論が始まりました。
Champagne Telmont のCEOであるLudovic du Plessisは、「より小さく、より良い」アプローチを推進しています。Telmontはシャンパーニュのパイオニアであり、有機農法に積極的に転換させて、結果的に収量が減少しています。Du Plessis は、「新しい世代は、より少量生産の高品質でエコロジカルな製品に関心を持っている」と考えています。
このアプローチは、シャンパーニュの規則遵守の姿勢を促進するでしょうが、同時にこの地域の社会的バランスを不安定にする可能性もあります。UMCの会長であり、CIVCの共同会長でもあるDavid Chatillonが、「小規模」という部分に納得していない理由はここにあるのかもしれません。彼は、大手メゾンが歴史的に市場を開拓し、シャンパーニュ関係者が価値創造に果たしてきた重要な役割について強調します。
Lécaillonはまた、必ずしも収量を少なくすることには賛成していません。Roedererが有機農法で栽培するCristalの畑で、品質のために収量を犠牲にしてはいるにもかかわらずです。Lécaillonは、ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ市場の勢いを維持するために、10,000 kg/haの収量を維持することを提唱しました。これは、年間2億8300万本の生産量にほぼ相当し、長い間、生産量と販売量を一致させてきたシャンパーニュにとって、依然として低い数字です。 今回、Chatillonは質問に対して正確な数字を示さなかったが、彼の過去のコメントからは3億本を超える販売目標が想定され、これはおよそ10,500kg/haに相当します。
今日のシャンパーニュの売上は、おそらくdu Plessisの予想より少ないでしょう。2025年3月の売上高は、主に輸出売上高11%増(トランプ関税による米国製品ボイコット消費に後押しされたかどうかは不明)によってわずかに増加したものの、今年第1四半期の売上高は依然として1.1%の減少を示しています。
不透明な経済情勢と気候問題、さらに米国関税問題が重なり、短期的な大幅売上増は望めません。したがって、2025年の収量が9500kg/haを超える可能性は極めて低いのです。グリホサートの空白散布による広範な法律違反が、さらに不可解になります。今年は、除草剤使用ゼロの年になるはずでした。
引用元:Champagne’s Heavy-handed Herbicide Habit
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