Alentejo(アレンテージョ)
地場品種からの高品質な赤ワインは無論のこと ターリャと呼ばれる新たなトレンドも見逃せない」
広大なアレンテージョはポルトガルの南東部に広がり、東はスペイン国境、南はアルガルヴェの山に面し、約23,000haの畑を持つ。この暑く乾燥した大地はポルトガルの約1/3をもカバーし、とりわけ赤ワインでその名が知られている。アレンテージョは過去数十年、ポルトガルワイン・ルネッサンスの中心地として君臨してきた。かつてワイン産業は政府がバックにつく少数の協同組合によって支配されていたが、現在は独立した小規模なワイナリーによってプレミアムなワインが作られており、その品質は目をみはるものがある。
またこの地は、ワイン産業に欠かせないコルクの重要な生産地でもあり、広大な敷地には多くのコルクの木が植えられている。
テロワール
アレンテージョは広大なため一言でくくるのが難しいが、全体的には地中海性の気候を持ち、暑く乾燥した夏と暖かい冬を持つ。年間降雨量は南部で500mm、北部では800mmで、主に秋冬に降る。乾燥している期間が長くなるため灌漑が広く行われている。地形は平野と緩やかな丘陵で構成されており、北部、南部、東部には山も見られる。幅広いタイプの土壌が見られ、花崗岩、シスト、石灰岩に砂質〜粘土までの様々な土が混ざる。
アレンテージョは8つのサブリージョンからなり、一般的に北部エリアは気温が低く、乾燥も穏やか。中でも近年成長目覚ましいのは北部のサブリージョン・ポルタレグレ(Portalegre)である。花崗岩とシストからなるこの地は標高が高く、中には標高800mを超える畑もあり、また降雨量も南部より多く、夜はかなり冷える。収穫は南部より最大2週間遅くなることもあり、ワインはよりフレッシュで酸が高く、はっきりとしたセイボリーのニュアンスがある。南部のワインにある豊富な太陽がつくる果実の甘さは見られない。
ポルタレグラを一躍有名にした立役者として忘れてはならないのが、ポルトガルを代表するワインメーカー、ルイ・レグインガ(Rui Reguinga)である。ポルトガルの大御所たちもこの地に注目しており、2017年にはポートの重鎮シミントン(Symington)がキンタ・ダ・フォンテ・ソウト(Quinta da Fonte Souto)を購入し、その翌年、ポルトガル最大手のソグラペ社(Sogrape)がキンタ・ド・セントロ(Quinta do Centro)を購入。今日では域外の多くの生産者がポルタレグラのブドウを購入し、フレッシュ感を加えるためのブレンドパーツとして使用している。
味わいの特徴
アレンテージョは赤ワインの産地であり、黒ブドウが全体の約75%超を占めている。中心となるのはアラゴネス(テンプラニーリョ)、アリカンテ・ブーシュ、トリンカデイラで、しばしばブレンドされる。
アラゴネスは早熟品種のため収穫のタイミングが重要で、木に残しすぎると過熟になるため、冷涼なエリアで育てるのが最良とされている。
アリカンテ・ブーシュはブドウの実まで赤みを帯びている品種で、ブレンドでは深みのある色や酸、タンニンとともに赤系・黒系ベリーの要素を与えてくれる。
トリンカデイラは非常に腐りやすい品種だが、アレンテージョの乾燥した気候でうまく育つ。高収量になりがちなため、収量制限が必須となる。中程度のタンニンと酸を持ち、ブラックベリーとスパイシーなフレーバーが特徴。
トウリガ・ナシオナルも時々これらのブドウのブレンドに使われ、タンニンと酸を与える。
国際品種もいくつか認められており、最も広く使われているのはシラーである。
カベルネ・ソーヴィニヨンの勢力が弱まってきている一方で、プティ・ヴェルドが増えており、色、スパイス、タンニンなどに寄与することからブレンドで重宝されている。
アレンテージョの赤ワインはフルーティーな早飲みのカジュアルなものから、凝縮した果実味、樽熟成によるスパイス、長熟のポテンシャルを持つ傑出した品質のもまである。中には小売価格で2~3万円クラスのプレミアムなものまである。
重要な生産者はカルトゥーシャ(Cartuxa)、モウシャン(Mouchao)やドナ・マリア(Dona Maria)など。
一方、白ブドウではロウペイロが最も植樹されている。腐りやすい一方で酸がしっかりと残りやすい品種であるため、暑く乾燥したアレンテージョの気候にうってつけとなる。若いうちはシトラスやストーンフルーツのフレーバーを持つが、熟成とともに果実香はすぐに消えていく。
アリントもブレンドで使われ、高い酸が重宝される。
また乾燥に強い品種であるアンタン・ヴァスも使われる。
シャルドネやヴィオニエといった国際品種も認められており、アルヴァリーニョは近年人気が出てきている。
白ワインでは、ステンレスタンクを用いて早飲みタイプのフレッシュ・フルーティーワインを作るか、あるいは樽発酵で複雑さやテクスチャーを向上させたフルボディ系の長熟スタイルが見られる。品質はおおむね高く、ほとんどのワインが手頃な価格で楽しめる。
近年アレンテージョのトレンドの一つとなっているのがターリャ(Talha)と呼ばれるスタイルで、これはターリャと呼ばれる粘土製の容器で発酵と熟成を行うもの。
このスタイルは協同組合の支配下にあった20世紀中頃に、生産効率が悪いとされて表舞台からは外されたが、実は影を潜めながらも細々と続けられてきた手法である。いわゆる白ワインのスキンコンタクト的な手法であるため、長い時間を容器内で過ごせばワインはより酸化のニュアンスを帯びる。一昔前は品質が安定しないものもあったが、現在は素晴らしいワインメーカーたちから高品質なターリャが生み出されている。
重要な生産者はエスポラン(Esporao)、サン・ミゲル(Sao Miguel)、エルダーデ・ド・ロシン(Herdade do Rocim)、ホアン・ポルトガル・ラモス(Joao Porutugal Ramos)など。
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