Arnaud Ente(アルノー・アント)

ブルゴーニュラバーであれば避けては通れないムルソー。この巨大な村には大小様々な生産者がひしめくが、中でも品質と知名度で他を圧倒するドメーヌが存在する。Coche Dury、Roulot、Lafon、そしてArnaud Ente。彼らはしばしばムルソー四天王と呼ばれる。スタイルがそれぞれ違うため、誰が一番ということは言えないが、一つだけ確実なことがある。最も希少価値が高いのはアルノー・アントである。実際、ムルソーだけにとどまらず、コート・ドール内の白ワインで最も入手が困難といっても差し支えないだろう。わずか4ha程度の畑から毎年約15,000本しか生産されないのである。採算度外視という言葉を超越した、狂気とも言える数字である。ブルゴーニュのスター生産者たちはしばしば「畑とセラー以外で姿を見かけない」と言われるが、アルノーにこそこの言葉を送りたい。出張?プロモーション?彼にとっては無用の産物である。ただひたすらブドウに向き合う献身的な姿勢と職人気質、その極みにいるのがアルノーである。

 

歴史

アント一家はもともとフランス北部(ベルギーとの国境付近)出身。アルノーの父がピュリニーのヴィニュロンの娘と結婚し、その後1966年にアルノーが生まれた。なお、母方のピュリニーの畑はアルノーの兄弟ブノワが別名義で手掛けている。アルノーはかの伝説Coche Duryで修行していたことが知られ、そこでワイン造りを学んでいた1991年にマリーという名の女性と結婚した。その翌年、妻マリーの父フィリップからムルソーにある畑を借り、夫婦でドメーヌ・アルノー・アントを設立した。現在は息子のピエールがドメーヌに参画し、特に赤ワインをメインに手掛けている。

 

ムルソーを中心に、ピュリニーとヴォルネイに約4haの畑を持つ。所有畑の中で最大面積を誇るのはMeursault En L’Ormeau(1.9ha)で、表土の深い粘土の豊富な土壌を持つ。この畑は樹齢と区画によって3つに分けられている。若木はノーマルのMeursaultとなり、1950年頃に植樹されたブドウはClos des Ambres、そして樹齢100年を超す古樹からはLa Sève du Closが作られる。他にはコシュ・デュリでおなじみRougeotsの下の区画Les Petits Charrons(0.34ha)とごく少量の1erも手掛けており、MeursaultではLes Gouttes d’Or(0.22ha)、PulignyではLes Referts(0.47ha)とChamp Gain(0.24ha)を持つ。広域のBourgogne Chardonnayはムルソーとピュリニーのブレンドとなっている。一方、赤ワインはVolnay 1er Les Santenots(0.49ha)、1938年植樹のガメイから作られるBourgogne Grand Ordinaire、そしてピュリニーとムルソーをブレンドして作られるBourgogne Rougeがある。

 

栽培

ピュリニーと並び最も知名度の高い白ワイン産地であるムルソーは、そのブランドにあぐらをかいてビジネスライクなワインを作る生産者が少なくない。シャトーヌフやサンテミリオン同様に、アペラシオンの規模が比較的大きく知名度のある産地は特に注意が必要である。品質向上の努力をしなくても知名度でワインが売れるためにハズレが多い。

 

アルノー・アントはその対極にいる。彼は約4haの畑を持つが、そのわずかな規模を自分、妻、息子、さらにフルタイムの従業員2名の5人体制で世話をしている。ヘクタールあたり1人以上のマンパワーを割くドメーヌというのは、ムルソーはおろかコート・ドール全体で見ても片手で数える程しかいないだろう。これほど贅沢な人的資本は通常であれば生産本数を増やすことでその分を回収するというのがセオリーである。しかしアルノーに常識は通用しない。年生本数はわずか15,000本である。約10haの畑を持つCoche Duryで年産48,000本前後なので、いかにアルノーの数値が常軌を逸しているかがわかる。当然、隣人たちはアルノーの異常に少ない収量を見て、どうやって食って行けているのか不思議に思っている。

 

アルノーはしばしばムルソーで一番早く収穫を始めるうちの一人だが、「早く摘むこと」が目的になっている人が少なくない中で、彼は常に「最適なタイミング」を意識する。一本のブドウ木に対して割く時間が他とは比べ物にならないくらい多いがゆえに、しっかりとブドウの声に耳を澄ますことができる。

 

醸造

全て手摘みされたブドウをバスケットプレスでゆっくりと潰し、果汁を静置したあと樽に移す。アリゴテ、ブルゴーニュ・ブラン、ノーマルムルソーの一部が大きな600L樽、その他のキュヴェはバリックを使用し発酵と一年間の熟成を行う。新樽率は最大20%程度に抑え、樽香を回避しながらテクスチャーを向上させる。「オークの香りが付きすぎるのは良くない。求めているのはピュアなフルーツをいかに引き出すかだからね。」とアルノーは言う。熟成後はタンクに移しさらに半年熟成させ、無清澄、無濾過で瓶詰め。

 

2016年からは実験的に「Wine globe」とよばれるガラス製の容器(デミ・ジョンに似た容器)を使用していくつかのキュヴェを仕込んだ。これは収量が非常に少なく一樽分すら満たせなかった区画がいくつかあったためである。結果的にアルノーはこのガラス製容器の味わいを気に入った。そのためより大きなサイズを購入し、友人であるDomaine Jules Desjourneysのファビアン(アントに20年近く勤務)とDomaine Paetzoldのミシェルらとともに2018年から本格的に実験している。こうした容器に夢中になってはいるものの、アルノーはそれを話しのネタにしたいとは決して思っていない。重要なのはあくまでも傑出した品質を生み出すことであり、彼の求めるスタイル(ピュア、輪郭、焦点)にしっかりと向かっているか、そこにズレはないかが肝心だと強調する。

 

味わい

1990年代においてアルノーのワインはふくよかなスタイルで人気を博していた。当時彼はブドウの完熟をできるだけ待って収穫していた。ところが2000年以降、酸とミネラルに注目し収穫を早めるようになった。その結果ワインはバランスがとれ、酸とミネラルが全面に出たフレッシュでヴィヴィッドな味わいへと進化した。実際、「早摘み」はアルノーの代名詞となり評論家から一目置かれるようになった。

 

Coche DuryやRoulotほどのエッジーさはなく、Lafonほど凝縮感、リッチさはない現在のアントの味わいは、ピュアさとテンションの両立という意味ではベストなドメーヌと断言できる。アントのワインには不思議なパラドクスがあり、高樹齢のブドウに由来する力強い凝縮感がある一方で、重さを全く感じさせず、水晶のような透明感と輝き、クリアな味わいが広がる。全てのワインで共通して見られるのは一本線の通った美しい酸とミネラルの厚みがもたらす緊張感である。

 

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