Bairrada(バイラーダ)
質より量の大量生産時代を乗り越え 情熱的な生産者によって品質が著しく向上している」
バイラーダはポルトガルの中央北部ベイラ地方にあるワイン産地である。西を大西洋に、東をダンに挟まれるように位置しており、バガを筆頭に地場品種から深みのある色調のリッチなワインを生むことで知られている。
DOCに認定されたのは1980年だが、バイラーダに初めてブドウが植えられたのは何世紀も前のことである。18世紀頃の歴史を見ると、この地には大きなゆがみが生じていた。というのも、当時ポートワインが英国の顧客の間で人気となっており、バイラーダの生産者の中には自分のワインにポートのラベルを張って販売したり、あるいは一部のポート生産者は収益性を上げるためにバイラーダのワインをかさ増しに使ったりしていたのだ。この「だまし」は後に政府に見つかり、バイラーダに植わるブドウは全て引き抜くように命じられてしまったのである。
こうした歴史こそあったものの、バイラーダはここ数十年で着実に品質を向上させてきており、お隣のダンにはまだ及ばないものの、世界的な認知が広まってきている。
テロワール
バイラーダはダンより西に位置し、大西洋に近い。温和な海洋性気候を持ち、年間平均降雨量は800-1200mmで一部では最大1600mmにもなる。雨のほとんどは春と秋に降るので畑は比較的湿気が多いが、海に近いためワインには自然とフレッシュ感が備わる。
西部エリアは肥沃な沖積土や砂質土壌が見られ、より温暖な南部には粘土石灰土壌が見られる。
南部にあるカンタニェーデ(Cantanhede)と呼ばれる非公式のサブリージョンには、とりわけ高密樹のバガの畑が広がっている。バガは粘土石灰土壌で最高のパフォーマンスを発揮するとされており、これは保水と排水の最適なバランスにより、生育期に光合成が止まる程の水分ストレスを避けつつも、一方で樹勢が強くなりすぎない適度な水はけが確保されるからである。
カンタニェーデではとりわけ真っ白の石灰岩がちらばっており、太陽光をよく反射してブドウの完熟を促進してくれる。
味わいの特徴
バイラーダでは赤ワインが全体の約2/3の生産量を誇る。産地のアイコンとなるのはバガで、小粒で果皮が厚く豊富なタンニンと高い酸を持つ黒ブドウ品種である。クランベリー、チェリーにプラムなどの果実のフレーバーを持ち、若いうちはタンニンがごわつく場合もあるが、瓶熟によってより柔らかくなり複雑味を帯びる。
バガには20世紀のほとんどを通して高収量で育てられ、協同組合に売られていた歴史がある。当時のワインは果実の凝縮感に欠け、不快なほどに荒々しかった。一方でフレッシュな酸は評価されていたため、マテウス・ロゼ(Mateus Rose)の生産に大量に使われていた。しかし、ここ30年ほどで品質にフォーカスした造り手が現れてきた。バガは晩熟で収量が多いため、完熟させるには区画選定と収量制限が不可欠であるという理解が深まり、高品質なバガのワインが台頭してきたのである。
この品質改革を語る上で絶対に外せないのがルイス・パト(Luis Pato)である。彼が取り入れたグリーンハーヴェスト、完全除梗やフレンチオーク熟成といった先進的なアプローチのおかげで、バガは日の目を見るようになったと言える。一方で、早摘み、優しい抽出、部分的な除梗といったよりモダンなアプローチは彼の娘であるフィリッパ・パト(Filipa Pato)やディルク・ニーポート(Dirk Niepoort)により確立された。こうした手法で作られるバガは非常に心地よいスタイルで、アロマやフレッシュ感、タンニンのストラクチャーなどにブルゴーニュを思わせる雰囲気がある。また、キンタ・ダス・バジェイラス(Quinta das Bageiras)やシドニア・ド・スーザ(Sidonia de Sousa)のような造り手は、フレンチオーク熟成やよりアプローチしやすくするために多品種をブレンドするワインを生産している。
白ワインの生産に興味を持つ生産者も増えてきている。地場白ブドウ品種であるマリア・ゴメス、ビカル、アリントやセルシアルはかつて、赤ワインの生産に適さないとみなされた砂質土壌に限定されて植えられていた。しかし現在はこれらの品種が粘土石灰土壌で見事に育ち、そこから素晴らしい結果を出している。長熟に耐えるポテンシャルを持ち、引き締まった石っぽさを感じさせるものから、よりボディのしっかりしたテクスチャーに富んだものまで様々なスタイルが楽しめる。
マリア・ゴメスはポルトガルで最も植樹されている白ブドウ品種で、バイラーダの多湿な気候に適しており、早熟で高い収量が取れる。ワインはシトラス系とフローラルなフレーバーを持つ。ビカルも早熟な品種で、ワインはピーチやときにはトロピカルフルーツのニュアンスが出る。アリントとセルシアルはともにリンゴやシトラスのフレーバーを持ち、酸を与えるためにブレンドとして用いられる場合がある。
ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネといった国際品種も見られる。安価なワインはしばしば砂質土壌のエリアからのブドウが使われ、ステンレスタンクにて低温発酵後ボトリングしてすぐに売られることが多い。一方、中価格帯以上のワインは石灰粘土質の土壌からのブドウで発酵や熟成がオークで行われる傾向が見られる。赤ワインに比べるとまだ知名度の低いバイラーダの白だが、今後の発展に注目が集まっている。
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