Clos de Tart(クロ・ド・タール)

ブルゴーニュには特級畑のモノポールが5つある。そのうちの4つはヴォーヌ・ロマネにあり、面積の大きい順にLa Tache (6.06ha)、Romanee Conti (1.81ha)、La Grande Rue (1.65ha)、La Romanee (0.84ha)となる。最後の1つはモレ・サン・ドニにあるクロ・ド・タールで、その面積は7.53haと巨大である。しかしながら、この畑は1000年を超える長い歴史の中でわずか4回しかオーナーが変わっておらず、一度も分割されたことがないという奇跡的なエピソードを持っている。

 

歴史

クロ・ド・タールの歴史は1141年、シトー派に属するタール女子修道会が畑を手にしたところから始まる。修道会のシスターたちは約650年に渡ってこの畑を所有していたが、1790年のフランス革命によって差し押さえられてしまう。分割されることはなかったものの、畑は翌1791年にニコラ・ジョセフ・マレイのビジネスパートナーに売却された。なお、このニコラはMarey-Mongeの創業者であり、このワイナリーはDRCの畑(Romanee Saint Vivant)の元所有者として有名である。しばらくMarey-Monge所有の時代が続くが、畑は1932年にマコンのネゴシアンMommessinに売却された。この時代畑はメタヤージュによる小作人(ChampyやChauvenet)の管理が続いた。また、ワインも多くがバルクで販売され、ネゴシアン瓶詰めのクロ・ド・タールも多く出回っていた。このMommessin時代にはクロ・ド・タールを語るうえで外せない二人のワインメーカーが登場する。一人が1996年就任のシルヴァン・ピティオ。もともとは地図制作者であった彼はワインの道へと足を踏み入れDomaine Jacques PrieurやHospice de Beauneで経験を積んだ後、クロ・ド・タールに参画し品質向上に大きく貢献した。そしてもう一人が2015年就任のジャック・ドヴォージュ。Domaine de la Vougeraie、Domaine Michel & Frédéric Magnien やDomaine de l’Arlotらで研鑽を積んできた彼はクロ・ド・タールをさらなる高みへと導いた。

しかしジャックの就任からわずか数ヶ月のうちに、Mommessinの内部で誰かが畑を売りたがっているという噂が流れ始めた。ブルゴーニュ特級畑の土地価格とそれに付随する税金の異常な高騰は周知の事実だが、この税金を避けたいがために株主の一人が売りの動きを見せたのである。すると他の株主たちも前に倣えとドミノ倒しのように続き、その結果2017年フランソワ・ピノーに買収されることとなった。ヨーロッパ指折りの大富豪である彼はChateau GrilletやChateau Latour、Domaine d’Eugenie、さらにはナパのEisele Vineyardといった一流ワイナリーを自社(Artemis)傘下に収めており、Clos de Tartはここに加わることとなった。その後2019年2月にジャックが辞職し、後任はアレッサンドロ・ノーリとなった。彼はChateau Latour やDomaine d’Eugenieで経験を積んでおり、2011年からはChateau Grilletのディレクターを務めていた人物である。

 

モレ・サン・ドニの南端に位置するクロ・ド・タールは7.53haの規模を持ち、南はBonnes Mares、北はClos des Lambraysに面している。畑は大きく6つのブロックに分かれており、土壌や樹齢などによってさらに細かく区分けされている。土壌は主に3種類に分けられており、まず斜面下部に見られるのはウミユリの化石からなる石灰岩で、斜面中部はプレモー石灰岩の上に約30cmの粘土の層が広がっている。そして斜面上部は牡蠣の化石からなる白いマールとなっている。また樹齢は平均約60年と高く、最も古いものは1918年植樹となる。以前は樹齢が20年以下の若いブドウが1er La Forgeに格下げされていたが、ノーリ就任以降は樹齢の最も若いブドウ木(5年前後のものなど)がヴィラージュのモレ・サン・ドニとしてリリースされるようになった。なお、現在1er La Forgeは特級にブレンドするにふさわしくないと判断されたロット(あるいは区画)のワインが使用されている。

 

栽培

クロ・ド・タールの強みの一つはマッサル・セレクションである。シルヴァン・ピティオは1999年に畑に植わる高樹齢のブドウから選りすぐりの木を選び、房の小さな優れたピノ・ファンを残すためにマッサル・セレクションを始めた。彼はクローンではなく自社畑の木へのこだわりが強かったため、将来にわたって使用していくためにドメーヌ専用の苗木場を作った。それ以降、再植樹の際にはこの苗木場からブドウ木が使用されている。またシルヴァンは厳しい収量制限を行い、前任者がブドウ木一本あたり最大15房まで許容していたのをわずか5房にまで減らした。

リュット・レゾネやオーガニック栽培の導入、馬による耕作や、クロード・ブルギニオンとの地質調査など数々の品質向上施策を打ち出したシルヴァンだが、彼がワインへ与えた最も大きな影響は収穫の「遅摘み」だと言えるだろう。フェノールの完熟を目指す遅摘み信者であった彼は、お隣Clos des Lambraysの収穫が終わってから自分の収穫チームを畑に送り出すことさえあった。
一方、ジャックに変わってからは収穫のタイミングが早くなった。また彼はオーガニック栽培をさらに深く推し進め、2016年よりビオディナミを導入した。ジャックの跡を継いだアレッサンドロ・ノーリも比較的早めの収穫を採用している。

 

醸造

ワインメーカーの変遷とともにスタイルも大きく変化している。1998年にシルヴァンが温度管理機能付きステンレスタンクを複数導入したことで、6ブロックに分けられた区画ごとの醸造が可能となった。全房に関しては、就任当初から2000年代前半頃まではわずかに使用する程度だったが、引退する2014年までに最大25%まで使用することもあった。またシルヴァン以前に新樽はほとんど使用されていなかったが、彼は新樽100%でワインを熟成させた。この時代のクロ・ド・タールは遅摘みブドウ+新樽のパワフルで凝縮したワインだったと言える。

ジャックが就任した2015年からはスタイルはガラッと変わった。彼はデビュー時に全房40%使用し、その後60%まで増量したのである。クロ・ド・タールという畑が持つリッチさを前任のシルヴァンは遅摘みすることでさらにブーストしていたため、フレッシュさのかけるヘビーなスタイルとなっていたが、l’Arlot仕込みの全房スタイルを持ち込んだジャックはリッチな果実味に対抗しうるフレッシュさを手に入れ、見事なバランスを実現してみせた。遅摘みを止めて新樽を控えめにしたジャックのクロ・ド・タールはよりエレガントでテロワール・ドリヴンなスタイルだったと言える。

2019年から就任したアレッサンドロ・ノーリはワインメイキングの精度を高めた。彼はまず畑を16の区画に細分化し、オーナーであるフランソワ・ピノーは各区画に合わせた新しい木製発酵槽を彼に買い与えた。こうして収穫・醸造・熟成を全て分けて行うことが可能となった。抽出はピジャージュではなくより負荷の少ない足での破砕を取り入れ、タンニンの質感を向上させた。全房は積極的に使用しており、特級で平均50%、1erで20-25%、ヴィラージュでは完全除梗となる。新樽も若干比率を下げており、特級で60-65%、1erで50%前後、ヴィラージュでは不使用となっている。

 

味わい

クロ・ド・タールはお隣のClos des Lambraysよりも常に濃度とパワーのある味わいで知られている。シルヴァンの時代には世のトレンドも相まってワインメイキングの影響が強くでていた。遅摘み+超完熟果実+強めの抽出+新樽が作るヘビーでパワフルなスタイルであり、クロ・ド・タールのテロワールがマスキングされてしまっていたといっても過言ではなかった。一方、ジャックは収穫を少し早めて新樽率を若干下げ、全房を取り入れてテロワールを際立たせるアプローチでワインを作った。その結果、香り高さが増し、果実味を支える酸がフィニッシュまで持続するようになって焦点が定まり、一貫した張りが生まれ、エネルギーが備わるようになった。以前に感じられた重さや過熟感といったものは感じられなくなった。ジャックの味筋を受け継ぐノーリのワインはより細部がチューンナップされており、タンニンの質感がよりエレガントに、シルキーになった。ジャックよりも収穫がやや早まり、新樽率も若干下がったため、アロマやフレーバーの純度が上がり、フローラルさも備わるようになった。一方で、全房由来の見事なフレッシュ感と石灰由来の硬いミネラルがつくるテンションは顕在で、完熟した果実味と見事なバランスをとりながら長い余韻を作っている。

CTA-IMAGE Firadisは、全国のレストランやワインショップを顧客とするワイン専門商社です。 これまで日本国内10,000件を超える飲食店様・販売店様にワインをお届けして参りました。 主なお取引先は洋風専門料理業態のお店様で、フランス料理店2,000店以上、イタリア料理店約1,800店と、ワインを数多く取り扱うお店様からの強い信頼を誇っています。 ミシュラン3つ星・2つ星を獲得されているレストラン様のなんと70%以上がフィラディスからのワイン仕入れご実績があり、その品質の高さはプロフェッショナルソムリエからもお墨付きを戴いています。
Translate »