Michel Niellon(ミシェル・ニーロン)

ミシェル・ニーロンはシャサーニュの隠れた名手である。畑の規模と生産量が少ないことからRamonetやPierre Yves Colin Moreyほど目にする機会は多くないものの、パーカー評価の最高峰である五つ星生産者の称号を持つ。ごく少量生産されるChevalier MontrachetとBatard Montrachetはブルゴーニュラヴァーたちの秘宝となっている。

 

歴史

ブドウ栽培の家系で育ったミシェル・ニーロンは親から仕事を引き継いだ後、1960年代に自分のワインを作ることを決意。ミシェルの代から自社瓶詰めのワインを販売するようになりドメーヌとしての歴史がスタートした。その後しばらくはシャサーニュ村の上部にある古い石造りの自宅兼セラーでのワイン造りが続いた。お世辞にも広いとは言えない、実にこじんまりとした場所だったが、ミシェルは献身的にシャサーニュのテロワールを表現しようとワイン作りに励んだ。その後2009年に村の中心部付近(Philippe Colinのすぐ隣)に醸造所を新設。モダンな設備と十分なスペースが確保できるようになった。またこの頃から徐々にミシェルの義理の息子ミシェル・クトーがドメーヌの指揮を取るようになった。

2020年にはミシェル・ニーロンがこの世を去るという悲報が業界を駆け巡ったが、現在はミシェル・クトーの娘ルーシーと甥マチューが次世代としてワイナリーに参画し、先代の名に恥じない素晴らしい品質のワインを生み出している。

 

シャサーニュに約7.5haの畑を所有する。特級はChevalier Montrachet (0.23ha)とBatard Montrachet (0.12ha)を持つ。Batardのブドウは植樹が1920年代と非常に古く、ウイルス感染の影響で収量が極めて低くなったため2015年の収穫を最後に引き抜かれた。畑の土をクリーンにするため畑を休耕地にしており生産は一時停止中となっている。1erは6種類あり、Chaumees(0.54ha)、Clos St-Jean(0.52ha)、Maltroie(0.52ha)、Champs Gain(0.44ha)、Vergers(0.39ha)、Chenevottes(0.18ha)となる。村名はシャサーニュに点在する10区画(2.21ha)をブレンドして作られる。

一方、ピノ・ノワールも少量生産しており1erはMaltroie(0.42ha)とClos St-Jean(0.19ha)、村名は2区画(1.5ha)のブレンドとなっている。

 

醸造

ミシェル・ニーロンが自宅の小さなセラーでワインを作っていた頃は金属製タンクが使われていたため、アルコール発酵の安定性にムラがあった。またマロラクティック発酵はセラーの気温の影響を大きく受けるため年によって開始や終了のタイミングが異なっていた。これは自宅という限られたスペースしかない彼にとって不安の種であった。というのも、前のヴィンテージのワインは次の収穫までに瓶詰めしなければならず、例えばある年のマロが翌春に始まって初夏に終わった場合、数ヶ月もたたない内に強制的に瓶詰めしなければならないことを意味する。品質を保つうえで極めて重要なワインをゆっくりと落ち着かせる時間が十分に取れなかったのである。

しかし、2009年に新設した空調管理付きのモダンなセラーではステンレスタンクと樽での安定した発酵が可能となり、マロの開始も外気温頼みではなくなった。仮にマロの開始を遅めに引き伸ばしたとしても、スペースが十分あるため収穫のタイミングに左右されずにワインを落ち着かせて瓶詰めすることが可能となった。これによって品質の一貫性に磨きがかかった。

クトーは基本的にプレス後のデブルバージュは行わず、自然酵母のみを使用して発酵させる。このため発酵は大量の細かい澱を含んだ状態で行われ、熟成中も彼は澱の撹拌を好まない。新樽は20-25%程度と控えめに抑える。ラッキングはボトリング前のブレンドで一度のみ行うが、この際一樽あたり約6Lもの大量の澱が確認できる。澱にはテロワールのエッセンスが詰め込まれており、さらにワインにテクスチャーを与えてくれる。

 

味わい

ニーロンの魅力はその秀逸なバランス感にある。WAのウィリアム・ケリーは、「シャサーニュで最も切れ味が鋭いというわけではなく、むしろ豊潤さがあるが、美しいバランスが耐え難い誘惑を生む」とコメントしている。

同村の名手Ramonetほどの密度や巨大なストラクチャーはなく、Pierre Yves Colin Moreyほどの鋭さや張りはないものの、両者の中間を行くような見事なバランスが素晴らしい。大量の澱を含んだ醸造過程に由来する還元したマッチ香、トースティーなオークのニュアンスがアロマの香ばしさを引き立たせており、そこに白い花、レモン、洋梨と濡れた石を思わせるミネラルが溶け込む。

質感は非常に滑らかで、味わいの中心には熟した果実が作る甘みと凝縮感がある。しかし一方で直線的な酸と塩味の効いた硬いミネラルがキレを生んでおり、ジューシーだがタイトという見事なバランスが口内に広がる。時折感じるメントールのニュアンスと程よいグリップのあるチョーキーなフィニッシュも余韻のセイボリーさに貢献している。

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