Coche Dury(コシュ・デュリ)

ロバート・パーカーはかつてジャン・フランソワ・コシュを「地球上で最も偉大なワインメーカーの一人」と評した。ムルソーにリューディーの概念を持ち込み、「リッチでバタリー」なステレオタイプに風穴を開けたコシュ・デュリは人々のムルソー観を根底から覆した。

 

歴史

ワイナリーは1923年レオン・コシュによって設立され、その後畑は息子のジョルジュとジュリアン、娘のマルトに分割された。ジュリアンはDomaine Coche Debord(後のDomaine Fabien Coche)を作り、マルトの取り分は後にギィ・ルーロと結婚する娘ジュヌヴィエーヴへと渡った。1964年に自分の取り分を手に入れたジョルジュは本家のワイナリーを継ぎ、Perrieresに畑を買い足す。その後ジョルジュは1973年に息子ジャン・フランソワにワイナリーを引き継ぐ。ジャン・フランソワはその2年後にオディール・デュリと結婚してドメーヌ・コシュ・デュリを立ち上げる。ブレンドが当たり前だった当時、リューディーの個性にスポットライトを当てたジャン・フランソワはムルソーのポテンシャルを最大限に引き出した先駆者と言える。ジャン・フランソワの息子ラファエルは15歳から父のもとで働き始め、Meo CamuzetやOlivier Merlinで修行をした後、2001年19歳でフルタイムワーカーとしてドメーヌに戻ってきた。その後2010年、ラファエルは父の引退に伴いドメーヌを任される。

2012年、ラファエルは父が1985年からメタヤージュで世話していたCorton Charlemagneの畑(0.33ha)を買い取り、さらにその周辺区画をメタヤージュと購入によって取得。これによって畑は0.88haとなった。この拡張に伴う資金を工面するためにラファエルは父の反対を押し切ってPommard Vaumuriensを手放した。こうしてCorton Charlemagneの生産量はかつての2倍以上となった。さらにラファエルは数ヴィンテージ経験した後、買いブドウの導入を決断する。霜やカビで収量が著しく変化するブルゴーニュの特性は、樽を自作するコシュ・デュリにとって大きな問題となるが、これには収量が減っても樽を満たさなければならないという背景がある。コシュ・デュリでは樽材の選定・購入・乾燥まで自分たちで行い、それから樽会社Damyに渡して加工してもらう。つまり、事前に相当な労力・時間・コストが費やされている。

また樽は常にローテーションで使用しており、収量が大幅に減ったからといって樽を売ってしまうことはできない。樽熟成が長いことで知られるコシュ・デュリでは、ワインは一旦樽に入ると二冬を越すため、例えば2018年の新樽は2年後の2020年に再びワインをいれ、その2年後にまたワインをいれる・・・とサイクルが決まっている(奇数年用にはもうワンセット別のサイクルがある)。これが樽を手放せない理由である。足りない分は他から買って樽を満たすしかないが、コート・ドールにはそんなに都合良く利用できるワインはない。そこでラファエルは元修行先のOlivier Merlinにコンタクトし、高品質なブドウを買わせてもらった。こうして大幅な収量減に見舞われた2016年のBourgogne Blancが誕生した。これ以来、Bourgogne BlancとMeursault Villageには少量の買いブドウがブレンドされている。

 

10.46haの畑を所有しており、約8割強がシャルドネ、残りがピノ・ノワールとなっている。全体の数字だけを見ると超小規模というわけではないが、畑の内訳を見るとMeursault Village (3.75ha)とBourgogne Blanc (1.5ha)以外は全て1ha以下のサイズとなっている。Corton-Charlemagne (0.88ha)、Meursault 1er Perrieres (0.6ha)、Meursault 1er Genevrieres (0.2ha)、Meursault 1er Caillerets (0.18ha)、Meursault Les Chevalieres (0.13ha)、Meursault Les Rougeots (0.65ha)、Puligny-Montrachet Les Enseigneres (0.8ha)。ピノ・ノワールも同様にVolnay 1er (0.39ha)、Auxey-Duresses (0.5ha)、Meursault (0.23ha)、Monthelie (0.3ha)、Bourgogne Rouge (0.35ha)とそれぞれが小さい。つまり、ほとんど全てのワインが小区画からの少量生産ワインとなり、これに樹齢の高さと厳しい収量制限がかけ合わさることによりさらに生産本数が限定される。

珍しいコシュ・デュリの中でも最も遭遇率が高いのがMeursault Villageであるが、これを他ドメーヌのものと同じと考えてはならない。区画の個性に強いこだわりを持つコシュ・デュリでは複数区画にまたがるヴィラージュのブドウを全て分けて醸造・瓶詰めしている。Les ChevalieresとLes Rougeotsは区画名付きでリリースされるが、その他の区画(Narvaux、Luchets、Vireuilsなど)は基本的にはリューディー名のないノーマルのムルソーとしてリリースされる。このため市場ではリューディー名はないが実際には複数の異なる味わいを持ったムルソーが輸出先によってバラバラに散らばっているという状態になっている。

 

栽培

コシュ・デュリではクローンを良しとせず、自社畑の古樹のマッサル・セレクションにこだわる。ジャン・フランソワから息子ラファエルに変わってもこのモットーが揺らぐことはない。「秘密は何もありません。ただ一生懸命畑で仕事をするだけです。」ラファエルは流行りのグイヨ・プーサール仕立てを好んでおらず、樹液の流れが多すぎると考えている。それぞれの木には必要な樹液の流れ方があり、それをリスペクトすべきだとしている。古樹が多いためそもそもの収量は少ないが、剪定を厳しく行うことで調整しグリーンハーヴェストには頼らない。除草剤は使用せず、土の鋤入れは丁寧に行う。収穫はフレッシュさを保持するために早めに行う。

 

醸造

コシュ・デュリでは代替わりに伴い設備のアップデートがみられる。2009年に空気圧式のプレスが導入され、ジャン・フランソワが使っていた伝統的なプレスと並んで使用されている。ラファエルは後者を好んでいるが、このプレスを使うには容器を満たすために相応の収量が必要となるため、ヴィンテージの状況に応じて柔軟に使用している。

破砕したブドウはこれらのプレス機で圧搾し、デブルバージュをごく短めに行うことで果汁に澱を残す(父と比べると控えめになっている)。その後、オーク樽に移して発酵がスタート。ラファエルは以前よりも新樽率を下げており、最上キュヴェを除いて25%を超えることはない。最低でも二冬を越す長い熟成ではシュール・リーとバトナージュが行われるが、ラファエルはバトナージュの頻度を以前よりも少なくしている。ごく軽い清澄の後、フィルターはかけずに瓶詰めする。父の代は二口水栓蛇口のような器具(La chèvre à deux becs)を使い樽から直接手で瓶詰めしていた。これはHenri Jayerが使用していたことで知られ、重力フローかつ樽内と瓶内の環境差を最小限に抑えられることから品質面では最高だが、非常に手間暇がかかるというデメリットもある。このためラファエルはボトリングマシンを導入し、一部で併用している。

 

味わい

一昔前までは、還元的なガンフリント(火薬)やマッチ香はブルゴーニュ産シャルドネの特徴の一つであった。この香りを生み出しているのはベンゼンメタンチオール(揮発性硫黄化合物の一種)であり、これは発酵中の酵母が適度なストレス(あるいは窒素不足)環境下におかれると発生すると言われている。この香りに魅了される作り手は多く、現在は意図的にこの還元香をまとったブルゴーニュスタイルのシャルドネがニューワールドからも作られるようになったが、このスタイルの教祖とも言えるのがコシュ・デュリである。同村のルーロも同じくこのマッチ香を持つが、コシュ・デュリ(特にジャン・フランソワ時代)の方がより顕著である。

コシュ・デュリではこのマッチ香に樽がもたらすトースティーなヘーゼルナッツとシャルドネが持つチョーキーなミネラルが混ざり合って強烈なアロマを生む。口の中では極めて上質なテクスチャーが感じられ、鋭い酸と石灰土壌が生む見事なフレッシュさが広がる。果実が過熟になるという事はありえず、透明感あふれるフルーツは常に輪郭がはっきりとしている。この一貫したスタイルを持ちつつも区画の個性が鮮明に描き出された味わいに世界中が熱狂するのである。ジャンシス・ロビンソンは「プルミエ・クリュですらない畑から、他のグランクリュを遥かに凌駕するワインを作る」と賛辞を送り、WA誌のウィリアム・ケリーも「ノーマルのムルソーでさえ、他ドメーヌの1erトップキュヴェよりも奥深く、コシュ・デュリのリューディーや1erはこれ以上ないほど良い」と大絶賛している。

ラファエルの代になってからは特徴的なマッチ香はやや控えめになり、ジャン・フランソワよりもややフルーティーで近づきやすい味わいとなっているが、それでも根底に流れるクリアな焦点、エネルギー、テンションは顕在でAOCのクラスを超えた圧倒的な品質のワインを作っている。

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