Domaine des Lambrays(ドメーヌ・デ・ランブレイ)
特級の比率が最も高い村として知られるモレ・サン・ドニには5つのグラン・クリュがあるが、そのうちの一つClos des Lambraysの最大の所有者がランブレイである。優れたテロワールを持っていながらも、当初は1erクリュと認定され、後々その価値が認められたというストーリーは、ブルゴーニュ版のムートン・ロートシルトとでも言うべきだろう。
目次
歴史
Clos des Lambraysのルーツは14世紀にまで遡ることができ、畑はフランス革命時に国に接収され、その後分割されて売却された。1828年の公図によると当時は70以上もの区画に分割されていた。散り散りになった畑を懸命にかき集めたのがネゴシアンのルイ・ジョリーという人物で、彼は大部分を復元させた後、1866年に畑をロディエ家に売却した。この家系のカミーユ・ロディエはChevaliers du Tastevinの創始者の一人で、Clos des Lambraysをいたく気に入っていた。しかし1936年に初めてAOCが制定された際、この畑の格付けは1erクリュであった。その後、不況に見舞われたロディエ家は1938年に畑をルネ・コソンに売却した。税金が高くなるのを嫌がった彼女はグラン・クリュ申請をせず、畑もほとんど手をかけなかったため、病死したブドウ木がそのまま放置されていた。彼女の死後、1979年に畑を購入したサイエ兄弟はまず畑を整備して再植樹を行い、セラーをリノベーションした。ワインメーカーにティエリー・ブルーアンを引き入れて品質を向上させ、グラン・クリュ申請を行った。4ヶ月にわたる査定の結果、1981年ついにClos des Lambraysは特級に昇格した。その後1996年にサイエ兄弟は畑をあるドイツの家系に売却したが、ティエリーはジェネラル・マネジャー兼ワインメーカーとして在籍し続けた。そして2014年、LVMHが巨額の資金でClos des Lambraysを買収して業界を騒がせた。2018年には約40年のキャリアを終えたティエリーが引退し、2019年にはお隣Clos de Tartから移籍したジャック・デヴォージュがワイナリーの責任者に就任した。彼はすぐに畑とセラーの改良に着手し品質に磨きをかけるだけでなく、積極的に畑を拡張しポートフォリオを強化した。2021年〜2022年にかけてヴォーヌ1er、ニュイ1er、さらにモレにも2つの1erを取得した。
畑
ドメーヌの看板となる特級Clos des Lambraysは、畑全体としては8.84haの規模を持つが、ランブレイはそのうちの8.66haを所有する。この畑はもともと中部のLes Larrets ou Clos des Lambrays(5.72ha)、斜面下部(南側)のLe Meix-Rentier(1.13ha)、そして斜面上部(北側)のLes Bouchots(1.99ha) と大きく3区画に分かれていた。しかしジャック・デヴォージュは就任後に中部のLes Larretsを南北に二分割し、Clos de Tartに接する南部エリアを50 Ouvrées、もう片方を80 Ouvréesと名付けた。さらにこの南北ブロックをそれぞれ上部・中部・下部と細分化し、区画ごとの個性の理解に努めた。また、上部のLes Bouchotsも同じように上・中・下の3区画に細分化した。Les Bouchotsは標高の高いオート・コートから流れ込んでくる冷たい風の影響を受けるため他と比べて気温が低くなる特徴がある。なお下部のLe Meix-Rentierには、ごく一部Taupenot-Mermeが所有する区画があるためランブレイがモノポールを名乗れずにいる。
ランブレイはモレの1erクリュも複数所有しており、La Riotte、Clos Sorbet、Le Villageのブレンドから1er Cru Les Loupsをリリースしている(特級の若木がブレンドされる場合もある)。2022年取得の1erは Clos Baulet(0.3ha)と1er Clos Sorbet(1.15ha)で、後者はブレンドではなく1er Clos Sorbetとして単独でリリースされている。
一方、モレ以外では2021年に取得した1er Cru Les Beaux Monts(0.45ha)とニュイの 1er Cru La Richemont(0.89ha)に加え、シャルドネではピュリニーの1er les Folatieres(1.2ha)と1er Clos du Cailleret(1.54ha)という絶好のロケーションに畑を所有している。
栽培
長い間ランブレイの品質を支えてきたティエリーは、お隣Clos de Tartとは真逆の早摘みスタイルを貫いてきたことで知られている。Clos des Lambraysのアルコール度数が14%をめったに超えないのはこのためである。ティエリーは早めの収穫によって畑の個性とミネラルがしっかりと表現できると信じており、デヴォージュにもこの信念は受け継がれている。デヴォージュは畑の表現力を高めるために就任後すぐに畑をオーガニックに転換し、翌年からビオディナミを導入した。馬による耕作を行い、収量は低く抑えている。
醸造
全房スタイルで知られるランブレイの土台を作ったのもティエリーである。1985年に一部全房を導入し、1990年から全体的に全房を取り入れるようになった。現在でもこのスタイルは継続されており、大部分が全房発酵となっている。デヴォージュは就任後すぐにセラーの刷新に着手し、まず全工程を重力フローでコントロールできるようにしてポンプ機の使用をやめた。次に以前使用していた8400Lの大型発酵用タンクを廃止して温度管理機能付きの木製発酵槽を導入した。細分化したClos des Lambraysをキュヴェ毎に分けて醸造するためである。彼のキュヴェ毎に醸造するというこだわりは前職のClos de Tart、さらに前のl’Arlot時代から変わっていない。これらのキュヴェはFrancois Fréresのバリックで18ヶ月前後熟成させ、ボトリングの直前にブレンドする。新樽率は年によって異なるが、多いと50-60%程になる。
味わい
石がちで鉄分豊富な赤土が多いClos des Lambraysは、とりわけ北部区画の冷気の影響も相まってエレガントで冷涼感のある赤系フルーツとミネラル感の強い味わいとなる。ここにティエリー・スタイルの早摘みと全房発酵が加わりさらなるフレッシュ感がワインに備わる。お隣Clos de Tartは対照的に遅摘みでより大柄な味わいを持ち、ダークフルーツ感と新樽のニュアンスが強くでる。
エレガント系の味わいであるがゆえに、冷涼年のランブレイは早摘みと全房発酵が相まってやや尖ったニュアンス(ペッパー、スパイス、メントールなど)を感じることもある。しかし香り高いという特徴に変わりはなく、本質的にエレガントなタンニンとミネラルが見事な調和を見せてくれる。デヴォージュ以降のランブレイはより洗練され、よりモダンな味わいに進化している。フレッシュなクランベリー、ラズベリーなどの赤系フルーツに全房由来のスパイシーさが見事に溶け込み、モレらしい湿った土っぽさにバラのフローラルさと新樽由来のスパイスがアクセントを加えている。滑らかなテクスチャーと甘いフルーツが口内を優しく撫でる一方で、快活な酸とパウダリーなタンニンが果実味と新樽をバランス良く支え、潮っぽいミネラルを感じさせる長いフィニッシュが続いていく。
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