Georges Roumier(ジョルジュ・ルーミエ)

ブルゴーニュで最も人気の高いドメーヌと言っても過言ではないジョルジュ・ルーミエ。クライヴ・コーツMWはかつて「シャンボールにおける最上のソースはドメーヌ・ジョルジュ・ルーミエ。ここはコート・ドールで最も自社瓶詰めの歴史が長いドメーヌのうちの一つであり、ブルゴーニュの中でも最上のうちの一つ」と評した。世界中のワインラヴァーたちが血眼になって探し求めるルーミエのワインは当然のように希少価値と値段が高い。しかしそれでもなお、買い手の熱は一向に高まるばかりである。謙虚な当主クリストフは困惑しながら言う。「率直に言って、一部のワインになぜこんな天文学的な値段がついているのかよくわからないんだ。隣人たちと比べてそこまでの差が出ているとは思えないからね。」なにが人々をそれほどまでに熱狂させるのか。どんな魔法がかかっているのか。しかしルーミエのワインに秘密のマニュアルはない。恵まれた畑、細部へのこだわり、畑とセラーでの調整力、この3つが欠け合わさってワインが生まれる。素晴らしいワインを作る生産者は他にもいるが、クリストフほどの一貫性を持つものはいないだろう。

 

歴史

ルーミエのストーリーは1924年、ジョルジュ・ルーミエとジュヌヴィエーヴ・クアンカンの結婚により始まる。ジョルジュはワイナリーの家系ではなかったが、シャンボール出身の妻の家系が畑を持っており、これを引き継いでドメーヌを設立した。当初は畑の規模が小さかったため、ジョルジュは隣人Vogueの畑でマネージャーとして働いた。1945年には自社瓶詰めを開始し、1950年代から徐々に畑の規模を広げていった。まず1952年にBonnes Maresが増え、さらにClos Vougeotの2区画を手に入れた。翌年、モレにある2.6haのモノポールClos de la Bussiereを取得した。同じ頃、ドメーヌに3番目の息子ジャン・マリーが加わり、1961年にはジョルジュから完全に引き継いだ。1968年、ジャン・マリーの妻がCorton Charlemagneのペルナン側に一区画(0.2ha)を購入。

 

一方、畑の買い増しだけではなくメタヤージュによっても生産量を増やした。1977年、Domaine Thomas-Bassotが売りに出された際、Ruchottes Chambertinの3区画が売りに出された。すぐにシャルル・ルソーとジョルジュ・ミュニュレによって2区画が買われ、残りはワイン好きのビジネスマン、ミシェル・ボンフォンが取得した。彼はルソーの提案によってルーミエ家とメタヤージュ契約を結んだ。これによってジャン・マリーの息子クリストフは0.54haの畑から2/3の取り分を手に入れた。その後、ジャン・マリーはごくわずかだがMusignyに区画(0.1ha)を購入することができた。ここは1920年代からジョルジュがメタヤージュで耕していた思い入れのある畑であった。さらに1984年、ビジネスマンJean-Pierre MathieuがCharmes(0.27ha)を購入し、これがメタヤージュでクリストフに貸し出される。収量の半分が彼の取り分となった。そして近年では、0.13haのEchezeaux(En Orveau)を投資家からメタヤージュ契約(Arnaud Mortetと共同)で手に入れ、2016年にファーストヴィンテージがリリースされた。

 

12haの畑を所有。約4haが村名格で、複数区画をブレンドして村名のシャンボールが作られるが、ここにはなんと1er Les Fueesが格下げしてブレンドされている。同様にブルゴーニュ・ルージュにも村名シャンボールの若木がブレンドされることもあり、品質を保つための一貫した厳しい姿勢がうかがえる。プルミエ・クリュはLes Cras(1.76ha)と2005年から村名と分けて作られるようになったLes Combottes(0.27ha)、そしてAmoureuses(0.4ha)である。加えて、シャンボールとの境界線に隣接するモレの1er Clos de la Bussiere(2.6ha)も所有する。この畑はシャンボール1er Les Sentiersのすぐそばにあるが、粘土の種類が異なり鉄分を多く含むため味わいはシャンボールよりもタフで力強くなる。特級はLes Musigny(0.1ha)とBonnes Mares(1.45ha)である。Musignyは斜面上部の北東に位置している。一方、2種類の土壌があることで有名なBonnes Maresでは4区画所有し、粘土質の赤土(テール・ルージュ)と泥灰質の白土(テール・ブランシュ)をバランスよく持っている。クリストフによると赤土は果実味、パワー、濃度を、白土は繊細さ、、フィネスを与えるという。通常これらは別々で仕込まれた後でブレンドされる。

なお、もともとジョルジュ・ルーミエ名義でリリースされていたClos de Vougeotは、1984年の後、ジャン・マリーの兄アラン(とエルヴェ)が自分の相続分としてドメーヌから持ち出し、これ以降アランの家系(現ローラン・ルーミエ)によって別で管理されているためジョルジュ・ルーミエ名義での生産はなくなった。

 

栽培

・ノワールを通して表現される土地の個性、そこからワインを作っているんだ」とクリストフは言う。ルーミエは自身の役割をあくまでも仲介人と捉えている。栽培家の仕事は明確な土地の個性を持ったフルーツを実らせること。ワインメーカーの仕事はフルーツからワインへと変化させること。しかしそれはクリエイティヴなものではなく、コントロールするもの。「何かを作るというのはブドウ木、土地、そして自然によって行われるものであって、人によるものではない。」

ルーミエは比較的早くからオーガニック栽培を始めていたが、1993年のカビの被害でストップした。基本的にはオーガニック栽培というスタンスだが、認証に重きは置かない。オーガニック認証の懸念点は大量の硫酸銅が許可されていることだと言う。「銅は毒なので私はこの量を最小限に抑えたい。私達の世代は畑を汚染したと言って先代たちを非難したが、次の世代の人から同じ様に責められるのは御免だよ。除草剤は30年以上使用していないが、カビの被害が重大だったので2012年に一度ケミカルを使用したよ」つまり、ケミカルを使用しないよう最大限努力するが、緊急時には使用するという実用的な考えを持っている。

品質の鍵を握る収量制限でもクリストフのこだわりが見て取れる。剪定は厳しく、春の芽かきや新梢間引きもしっかりと行う。生育期後期にグリーンハーヴェストをするよりもはるかに効果的だとクリストフは言う。グリーンハーヴェストは行き過ぎた樹勢の調整と考えており、これをやる前提でいるのはそもそも最初から収量コントロールが正しくできていないことを意味する。この自制心こそがクオリティにつながる。年によって差はあるが、例えば豊作年でさえも村名で40hl/ha前後、プルミエ35hl/ha前後、特級30hl/ha前後となる。これが偉大なワインを生む鍵だとクリストフは言う。

 

醸造

一昔前までは畑でのみ選果されていたが、全房の使用が増えたこともありセラーでの選果も不可欠となった。「ワインに緊張感とエネルギーを与える必要があった。気候変動によってワインがよりリッチに肉厚になるにつれ、ワインに長熟するためのバックボーンをもたせたかった。全房はよりエレガントでフローラルなアロマを与えてくれ、完全除梗由来のあからさまな果実感を消してくれる。」ブルゴーニュ・ルージュと村名では通常除梗されることが多く、他は完全に年次第であり、クリストフは収穫が始まるまで決めていない。Musignyのような超小規模生産ワインでは例外的に全房100%というケースも有る。彼は樹齢の高いブドウの茎を使用する傾向があり、若木は使用しない。「決まったマニュアルはないんだ、ただブドウの状態を見ているだけなんだよ」

ワインはオープントップの木製、コンクリート、ステンレスタンクが使われる。前者2つをより好んでおり、それは発酵によって生じた熱がよりゆっくりと消失するからだと言う。発酵前に15℃でコールドマセラシオンを行い、自然酵母での発酵がスタート。クリストフは温度を30℃を少し下回るぐらいに保ち、できるだけ長くマセラシオンするのを好む。発酵温度はワインメーカーにとって最も重要なポイントのひとつであると彼は言う。33℃を超すとアロマの微細さが失われるため、高すぎてはいけない。抽出は主にピジャージュで優しく行っている。発酵後はラッキングしてバリックへ移す。クリストフのフォーカスはテロワールに向いているため新樽率は低い。村名で15-25%、プルミエで25-40%、Bonnes Maresでも50%以下に抑える。Musignyは量が少ないため年によっては新樽100%となることもある。16-18ヶ月澱とともに熟成後、無清澄・無濾過で瓶詰め。

 

味わい

ルーミエのワインは若いうちはいつもナーバスで緊張感がある。しかし、8-10年の瓶熟成を経ると緊張がほぐれてバラの花が開き始め、シルキーなテクスチャーとデリケートなフレーバーが何層にも折り重なって舌を撫でる。さらに熟成を経ると秋を感じさせるフレーバーに変わり、落ち葉やポプリ、ドライローズやドライバイオレットに甘やかなドライハーブやスパイスが溶け込む。タンニンは極めてシルキーで、中心には甘みと密度を感じる。ルーミエのワインに特徴があるとすれば、それはパワーではなくフィネスだろう。実際にクリストフ自身も求めているのはテクスチャーとフィネスだといい、人によってはこれをハーモニーやバランスと表現するかもしれない。この調和と均衡にこそルーミエが体現しうるシャンボールの美が詰まっている。上品でフローラルな香り高さがある一方、口の中ではシルキーなタンニンとフレッシュな酸、硬いミネラルがワインを引き締め、ストイックで緊張感のある味わいを生む。透明感あふれるチェリーやラズベリー、野いちごなどの赤系果実にはどこか軽やかさ、エアリーな印象があるにも関わらず、中心にはしっかりと密度がある。何かが一つでも欠けていたら、あるいは突出していたらこのバランスは崩れてしまうだろう。ヴォーヌ・ロマネでもモレ・サン・ドニでもない、シャンボールという土地でのみ体現しうるエレガントな味わいである。シンプルでフルーティーなワインはどこでも作れるが、シャンボールではこの土地の味を証明しなければならない、とクリストフ。「シャンボールはコート・ドールで最もエレガントなワイン。この言葉には何のオリジナリティもありません。しかし私にとってここのワインは最もミネラルなのです。ピュリティ、フルーツ、エレガンスはこの土地にあるより多くの石灰岩によるもので、わずかに高い標高も寄与しているかもしれません。私はワインでこれ表現しようとしているのです。」

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