Lucien le Moine(ルシアン・ル・モワンヌ)

ブルゴーニュには、マイクロ・ネゴスと呼ばれる小さなネゴシアンが存在する。Olivier BernsteinやBenjamin Lerouxなどの名をしばしば耳にするが、この買いブドウによる少量生産スタイルの走りとなるのがルシアン・ル・モワンヌである。ネゴシアンという商業的なイメージを、職人的という真逆のアプローチでぶち壊し、短期間でそれを市場に認めさせた功績は限りなく大きい。ところが、彼らにはパイオニアである以上に他のマイクロ・ネゴスと大きく異なる点がある。それは、プレス直後の果汁(あるいはワイン)しか買わないということである。つまり、ブドウの状態で購入するのではなく、さらに栽培、収穫からプレスに至るまでああしろ、こうしろといった要求を一切しない。普通は、たとえネゴシアンであっても高品質なワインを作りたいと思えば、その原料であるブドウ栽培に自らが関与し、収穫を共に行い各工程をくまなく管理したくなる。しかし、ルシアン・ル・モワンヌではこれをしない。「ブドウ栽培家以上に畑とブドウを理解することなんてできるわけがないんだよ。だからこそ栽培家を信頼するんだ。」

ルシアン・ル・モワンヌでは毎年100樽(約30,000本)以下の量を生産するが、年によってはキュヴェ数が60や70を超す。、プルミエ・クリュが中心だが、村名や広域(・ルージュやブラン)も生産している。100樽で60種類というと、各キュヴェわずか1〜2樽しか生産されないことになるが、これぞ職人芸と言うにふさわしい。なぜ100樽以上作らないのか?「セラーのキャパシティを超えてしまう。全てを自らの手で世話できなければ意味がない。」このシンプルなルールが、各年、各ワインの個性を鮮明に描き出すのである。

 

歴史

当主であるムニール・サウマは、1980年代後半に自国レバノンのトラピスト修道院を訪れた。そこに滞在する傍ら修道院が持つ畑で働き、シャルドネとピノ・ノワールに出会った。ワイン造りに魅せられた彼は、その後モンペリエで栽培と醸造を学び、ブルゴーニュやカリフォルニアなどで研鑽を積んだ。そして1999年、妻ロテムとともにルシアン・ル・モワンヌを作り、人生のすべてを捧げる覚悟を決めた。Lucien Le Moineという名には2つの意味がこめられている。レバノン名であるMounir(ムニール)は光を意味し、フランス語でLucienとなる。Le Moineは修道士を意味し、修道院で初めてワインと出会ったムニールの体験にちなんでいる。

なお、2009年にはシャトーヌフに8haを超える畑を手に入れRotem & Mounir Saoumaの名でドメーヌを設立。ネゴシアンとしてスターダムを駆け上がる一方、自分たちの畑を手に入れるという夢を叶えたのである。

熟成

ルシアン・ル・モワンヌに届く果汁(ワイン)はすでにプレスが終わっているため、ムニールは樽発酵(白のみ)、MLF、熟成に全神経を集中させる。「ワイン造りは熟成が9割」と言い切る彼は、ワインメーカーではなく熟成屋だと言える。だからこそ長い時間を過ごす樽には人一倍こだわりを見せる。オークの原産地はロワールの北に位置するJupillesの森に限定する。ここはフランスで最もオークの成長が遅い産地で、非常にタイトな目の詰まった木材を生む。この上質なオークを親交の深い樽メーカーChassinに頼んで仕上げてもらい、毎年クリュごとにトースト加減を変化させる。ワインは全て新樽100%で育てていく。

この自前の樽にプレス直後の果汁(あるいはワイン)を入れていくわけだが、ここでムニールは強烈な個性を発揮する。プレス直後のラッキングを一切禁止し、大量の澱を含んだ果汁のみを買うのである。あまりにも濁りすぎてダーティー・ジュースと呼ぶ人さえいるほどだ。通常ワイナリーで使用する澱は一樽あたり1-2リットル程であるが、ムニールは7-10リットルも入れる。なぜここまでの量を求めるのか?「澱にはその土地の魂、テロワールが詰め込まれていて、それがテクスチャーを与えてくれる。加えて、澱は熟成中にSO2を使わずにワインを守ってくれる。」

また、(あるいはMLF)を遅らせるというのもルシアン・ル・モワンヌの特徴である。凍てつく冬のブルゴーニュでは酵母の活動がストップするため、発酵(MLF)が終わるのを春先まで待たねばならないということがままあるが、ムニールはあえて春先でもセラーを閉め切って庫内の気温をかなり低く保つ。すると酵母が休眠から目覚めるのは夏頃となる。このねらいは、発酵(MLF)によって発生する天然のCO2でワインを暑い夏から守り、余計なSO2を使わないことである。

さらに驚くべきは24ヶ月から最大36ヶ月という超長期熟成させる中で、ラッキングを一度も行わないことである。これによってCO2が飛散せず、大量の澱と相まってワインを酸化から守ってくれるため、熟成中のSO2無添加が実現できる。また、ラッキングはしない一方でバトナージュは行い、テクスチャーと複雑さを引き出していく。
ボトリングは無清澄、無濾過で重力のみを利用してクリュ毎に行う。これは言い換えればワインを樽に入れてから瓶詰めするまで一度もポンプを使用していないことになり、発酵(MLF)由来のCO2が瓶詰め後にもワインに残っていることを意味する。「ルシアン・ル・モワンヌには必ずデキャンタージュを」というルールにはこうした背景がある。

 

味わい

毎年ベストなクリュのみを作るルシアン・ル・モワンヌでは、ブドウ供給元との決まった契約がない。同じ栽培家から続けて購入するということはもちろんあるが、基本的には毎回出どころが違う。またプレスまでの工程はそれぞれの供給元が各々のスタイルで作り上げるため、例えばある年のヴォーヌ・ロマネで完全除梗のものを買ったが、翌年同じ村の違う供給元から全房100%を買うということもある。このため、彼らのワインの味わいを一括りにするのは極めて困難である。しかし、樽に入れてから瓶詰めまでのアプローチは、バトナージュの頻度を除いて基本的に毎年同じであるため、味わいの共通項がくくり出せる。「例えば一樽につき約8リットルの澱で熟成をスタートさせると、終わりには3リットルだけが残る。つまり5リットル分の澱はワインに溶け込む。これがfullnessを生み出す。」というムニールの言葉通り、ルシアン・ル・モワンヌのワインにはしっかりと身の詰まった充足感がある。果実味に関しては、熟成中にSO2の添加をしないため、果実が柔らかく開いており、ピュアさがある。そしてそのピュアさは余韻までしっかりと持続していく。また、毎年クリュごとに樽のロースト加減をコントロールしているため、トーストやスパイスなどの香ばしいニュアンスと果実味のバランスが極めてシームレスで、新樽100%を全く感じさせない。また一部の白には、大量の澱との発酵+熟成中ラッキングなしに由来する還元的なニュアンス(火打ち石やマッチ香)が感じられ、この香ばしいミネラル感とも言うべきものが非常に複雑な印象を与えてくれる。

ルシアン・ル・モワンヌのワインの品質に異を唱えるものはおらず、評論家たちの絶賛コメントは後を絶たない。アントニオ・ガローニ「赤も白もブルゴーニュで最も感動的なワインのひとつ。」、WA「わずかな期間でブルゴーニュで最も品質の高いネゴシアンのひとつを生み出した。」、ジャンシス・ロビンソン「並外れたマイクロ・ネゴシアン。本当に見事なクオリティ。」、アラン・メドー「品質のレンジはexcellentからoutstanding」

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