Kremstal(クレムスタル)

「ヴァッハウに隣接する穴場スポット

ヴァッハウのシリアスさとカンプタルの近づきやすさを併せ持つ

魅力的な味わい」

クレムスタルは、規模こそ小さいものの品質の高さに定評のワイン産地で、東にカンプタル、西にヴァッハウとオーストリア屈指の産地に挟まれている。ドナウ川沿いにあるクレムス・アン・デア・ドナウ(Krems an der Donau)がクレムスタルの中心となるが、ここは由緒あるワインの街でウィーンから約70km北西に位置している。

オーストリアの辛口白ワインを牽引しているのはヴァッハウということに異を唱える人はいないだろうが、実は近隣のクレムスタルはヴァッハウよりもリーズナブルな価格で、ヴァッハウに比肩するグリューナー・フェルトリーナーやリースリングが味わえる穴場スポットとして人気がある。

 

2370haの畑を持つクレムスタルは、オーストリア全体のわずか5%程と規模は小さい。畑はドナウ川の両岸に広がるが、多くは川の北岸に見られる。

気候は大陸性で、お隣ヴァッハウよりも少し暖かく、これは東のパンノニア平原からの暖気をより大きく受けるためである。一方でこうした暖気は、西のアルプスからの冷気によってクールダウンするが、これが見事な日較差を生み出す。これによってブドウはクリスピーな酸を保ちながらも、リッチなアロマを育むことができる。フレッシュだが同時に力強さもあるクレムスタルの味わいの鍵は、この日夜の気温差が握っていると言えるだろう。また、ドナウ川も僅かではあるが気温調整の手助けをしてくれ、うだるような夏の暑さや厳しい冬の寒さといった極端な気候を和らげてくれる。

土壌タイプは比較的多様で、川沿いの低地には粘土と石灰岩が、川から遠ざかるにつれて厚いロスが見られる。グリューナー・フェルトリーナーはどちらの土壌でもよく育つが、ロスとの相性がとりわけ良い。一方、ヴァッハウとの境界線に当たるクレムスタル西部では片麻岩が見られる。切り立つ岩壁に広がるテラス畑は、ほとんどヴァッハウと言ってよいほどの景観で、ここからオーストリアを代表する辛口リースリングが生まれる。

とりわけシュタイン(Stein)村のファッフェンベルク(Pfaffenberg)やフント(Hund)の畑が有名で、目を見張るほどのエレガンスとフィネスが備わる。

 

味わいの特徴

クレムスタルで原産地呼称(DAC)が認定されたのは2007年で、グリューナー・フェルトリーナーとリースリングのみが認められている。これらはほとんどがドライなスタイルで、基本的に酸が高い。アルコール12%前後のはつらつとしたミディアムボディから、13%を超えるリッチで力強いフルボディまで多様なスタイルが展開されている。

東部のロス土壌からのグリューナーはカンプタルのものと似ており、果実味がより前に出たやわらかい輪郭が特徴となる。一方、石がちな西部ではリースリングが多く、完熟果実のフレーバーを強固なミネラルがしっかりと支えており、ヴァッハウ東部のスタイルに近いと言える。

全体的に価格はヴァッハウよりもリーズナブルで、トップクラスのワインでもほとんどが小売5-7千円の価格帯。ビオディナミの大御所ニコライホーフ(Nikolaihof)やセップ・モーザー(Sepp Moser)はこの地を語る上では外せない生産者で、クレムスタルで最も上質なワインを作る。

ヴァッハウよりも温暖なため一部でツヴァイゲルトやピノ・ノワールなどの黒ブドウも見られるが、こうしたワインはクレムスタルを名乗れないため、ラベルは広域のニーダーエスタライヒ(Niederosterreich)表記となる。赤ワインはほとんどがツヴァイゲルトからで、フルーティーで飲みやすいスタイルのものが多く、樽のニュアンスは殆どない。爽やかでやや高めの酸を持ち、ミディアムボディに程よいタンニン、赤系や黒系果実のアロマを持つ。

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