Lanson(ランソン)
数あるシャンパンメゾンの中でも一際古い歴史を有するのがこのランソン。
古くから英国王室御用達を獲得しており、現在もイギリスでのシェアは第二位を誇る。
ランソンの最大の特徴はマロラクティック発酵(MLF)を行わないこと。
(しかし2014年以降、醸造責任者の交代に伴いスタンダードキュベのブラック・ラベルの一部でMLFを取り入れている)
MLFを行うと酸は滑らかになるが、同時にバターのような風味が発生し味わいが重くなる。
反対にMLFを行わないと、青リンゴのような爽快感のある酸のあるシャンパンができるが、上手く作らないと酸っぱくなりすぎる。
MLFをしないシャンパンはとても珍しく、代表的なシャンパンメゾンはクリュッグとサロンくらいだが、どちらも酸度が高い上に非常に高価。
MLFを行わないと酸を落ち着かせるために長い瓶熟成期間が必要となるので、必然的にコストがかかるからだ。
なのでクリュッグやサロンのリリースは遅いのだが、それはランソンも同様で、ヴィンテージシャンパンは他のメゾンより現行が4~5年古い。
年間500万本も生産されるノンヴィンテージキュベの場合でも、ベースワインこそ新しいもののリザーブワインの比率が30%と高いのは、溌溂とした酸を保ちつつもリッチさを確保するために、コストが掛かってもこのポリシーが受け継がれている。
なのでランソンのシャンパンはバックヴィンテージでもフレッシュな酸が楽しめる。
創業当時のシャンパンは一次発酵中のワインを低温下におき発酵を減速させて瓶詰めし、再び瓶内で発酵する
メソッド・アンセストラル法で造られていた。
つまり発酵が終わる前に瓶詰をしているわけなので、当然MLFは起きない。
なので当時のシャンパンは全てMLFを行われていなかったことになる。
ランソンがMLFなしにこだわる姿勢は、200年の伝統を大切にする心から成るのかもしれない。
目次
■歴史
1760年 設立
シャンパーニュの都市ランスで、フランソワ・ドゥラモット判事がシャンパン事業を興した。
当時の社名はドゥラモット・シャンパーニュ・ハウス。
彼の長男ニコラ=ルイが事業を継いだのが1798年。
元マルタ騎士団の騎士であったことに由来し、マルタ十字のレッドクロスをもとにブランドエンブレムを考案し、それが現在でもブランドロゴとなっている。
その後1837年にランソンへと社名を変更し現在に至る。
1860年 ロイヤルワラントの取得
19世紀後半までに、ランソンは王室の任命によりイギリス、スウェーデン、スペインの裁判所にシャンパンを供給していた。
その品質の高さが認められヴィクトリア女王の時代より、150年以上英国王室御用達を認められており、現在ボトルネックにはエリザベス2世女王の名前が刻まれたロイヤルワラントの証が印されている。
(英国スポーツを代表するウィンブルドン テニストーナメントのオフィシャルシャンパンとして30年以上親提供されている)
1991年 失った所有畑
第一次湾岸戦争とそれに続くオイルショックによって、シャンパーニュ市場は暴落。
それまで順調だったランソンも経営危機に直面した。
そしてこの年、LVMHがランソンを買収。
なんと175日間保有しただけで、マルヌ・エ・シャンパーニュ(現ランソン・インターナショナル)に売却した。
その取引の過程で、ランソンは208haに及ぶ広大なブドウ畑を全てモエ社に奪われた。
メゾンの心臓とも呼べる畑を手に入れられなかったにも関わらず、マルヌ・エ・シャンパーニュはモエ社がランソンを購入した時と同じ金額を支払っている。
シャンパンハウスが主力のブドウ畑を失ったとすると、優秀な契約栽培家を揃え、買い付けたブドウから上質なリザーヴワインを貯蔵するまでには15年はかかると言われている。
実際にこれがランソンに降りかかったのだった。
幸いなことに1970年代から醸造長を務め、メゾンを支えていたジャン・ポール・ゴンドンはランソンに残り目覚ましい働きを見せた。
2006年 BCCによる買収
ランソンはボワゼル・シャノワール・シャンパングループ(BCC)に買収される。
BCCはフィリポナ、ドゥ・ヴノージュ、ボワゼル等を含む大きなシャンパングループ企業で、ランソンはこのグループを代表するメゾン。
現在では世界第2位の年間生産本数1900万本を誇る巨大メゾンにまで成長した。
LVMHに奪われて0になったところから57haの自社畑を取得し、50%がグランクリュとプルミエクリュが占める。
内16haは有機栽培とビオ・ディナミが採用されており、その畑から限定キュベのグリーン・ラベルが生産されている。
日本では正規代理店が頻繁に変わり、現状の立場を顧みると正直なところもっと評価をされて然るべきだと感じる。
さらにランソンの最大のアイデンティティ、マロラクティック発酵(MLF)なしの造りは、リリースしたてでは理解されづらいだろう。
ランソンの魅力はバックヴィンテージにあり、バックヴィンテージを飲まなければランソンを語る資格はないだろう。
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