Maipo Valley(マイポ・バレー)
チリで最も重要なワイン産地はどこか、と聞かれてマイポ・バレーと答える人は少なくないだろう。チリの首都サンティアゴのちょうど南に位置するマイポ・バレーは、リーズナブルでカジュアルというチリのイメージを覆す高品質ワインを生む。しばしば「南アメリカのボルドー」とも言われ、果実味主体のリッチなカベルネ・ソーヴィニヨンが特徴である。
サンティアゴ周辺に初めてブドウが植えられたのは1540年代とされるが、ブドウ栽培が広く普及するのは1800年代になってからであった。この背景には、北部のアタカマ砂漠で産出した鉱物から富を得たチリの起業家たちの存在がある。裕福な彼らの間で当時はやっていたのはフランス旅行であり、ブドウ木を手に帰国した彼らがフランスの影響を受けたワインを造り初めたのである。Cousino Macul(コウシーニョ・マクル)、Concha Y Toro (コンチャ・イ・トロ)やSanta Rita(サンタ・リタ)といったワイナリーはこの時代に造られ、彼らは現在チリのワイン産業で重要な地位を占めている。
目次
■テロワール
チリワインの大部分を生み出すセントラル・バレーは、太平洋沿いの海岸山脈とアンデス山脈に挟まれるようにして広がっている。南北に長く伸びるこの地は4つのエリアに分かれており、最も北部に位置するのがマイポ・バレーである。
全域がほとんど山脈に囲まれており、西の海岸山脈は海からの冷気や湿気をブロックしてくれるためマイポ・バレーは晴れが多く温暖な気候となる。一方、冷涼産地として名高いカサブランカ・バレーやサン・アントニオはちょうどこの海岸山脈を超えた海側に位置するため、内陸側のマイポ・バレーと比べて極めて冷涼な気候となる。東には広大なアンデス山脈がそびえ、麓の斜面はAlto Maipo(アルト・マイポ)と呼ばれるエリアが広がるが、ここがマイポ・バレーの心臓部分と言える。中でもとりわけ優れているのはPuente Alto(プエンテ・アルト)やPirque(ピルケ)といったサブリージョンで、ファインワインとしてプレミアム価格で取引されるワインDon Melchor(ドン・メルチョー)、Almaviva(アルマヴィーヴァ)、Vinedo Chadwick(ヴィニエド・チャドウィック)などが生まれる。Alto Maipoのワインの品質を裏づけるポイントは2つあり、1つは他エリアより標高が高く1000mに達する畑もあること。もう1つは夜間に吹く山からの冷たい風で日較差が大きくなり、ブドウがよりゆっくりと成長すること。この2つの要素のおかげで、完熟感がありながらも酸がしっかりと保持され、よりフレッシュでエレガントなスタイルに仕上がる。
■味わいの特徴
マイポ・バレーはカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネール、メルロー、シラーといった様々な黒ブドウが植えられているが、中核を占めるのはやはりカベルネ・ソーヴィニヨンである。アンデスの麓にあるAlto Maipoは、ナパのカベルネを想起させるフルボディで、ブラックカラント、ブラックチェリー、いちじくのペーストにベーキングスパイスなどの特徴が見られる。一方、Alto Maipoから外れた谷底のフラットな畑からは完熟した柔らかいタンニンに、カシスやミントのニュアンスを持つ力強い果実味主体のワインが生まれる。これらはミディアムクラスの品質で比較的リーズナブルな値段のものが多い。
また、チリ最上級のカベルネを生み出す産地として名高いマイポは、ブルゴーニュのウィリアム・フェーヴルを含むいくつかの生産者がそのポテンシャルに注目しており、実際にアンデスの標高1000mの畑からワインを生み出している。