Marlborough(マールボロ)
力強い果実味とフレッシュな酸の見事なバランス 誰にでもわかりやすい味わいで世界を魅了した ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地
マールボロはニュージーランドで最も重要なワイン産地である。ニュージーランド南島の北東端に位置するこの地は、先住民マオリ族の言葉で「雲の中にぽっかり穴の空いた」と称されるほど晴れが多く、豊富な日照に恵まれている。ニュージーランド全土のブドウ畑の約70%がここマールボロに集まっており、その内の85%以上にソーヴィニヨン・ブランが植えられている。ニュージーランド=マールボロ=ソーヴィニヨン・ブランという図式は今や世界共通だが、この背景には何があったのだろうか。
移民たちによってこの地に初めてブドウが植えられたのは1870年代だが、本格的なブドウ栽培は1970年代に始まった。きっかけはMontana(現Brancott Estate)が、乾燥土壌や強風といった環境的な困難にも関わらずこの地のポテンシャルを信じて1975年にブドウの植樹を決めたことだ。徐々にマールボロの評判が上がっていく中、グローバルな認知を確立する礎となったが1985年Cloudy Bayの誕生である。創業者David Hohnenはマールボロのソーヴィニヨン・ブランが持つ、爽快で「誰にでもわかりやすい」味わいに大きな可能性を感じたのだ。こうして80〜90年代に渡ってマールボロのソーヴィニヨン・ブランは国際的な認知を広めていった。
一方、トレード的な視点からもマールボロのソーヴィニヨン・ブランの成功を読み取ることができる。例えば、特にアジアのインポーターにとっては欧州から輸入するよりも、ニュージーランドからは物流コストを抑えることができ、またバルクワインやオリジナルブランド(Buyers Own Brand)のブドウ仕入先としても新興産地のため確保しやすかった。もともとアロマティック品種であるソーヴィニヨン・ブランは個性がはっきりしているだけでなく、国際規模で評判が確立されていた土台もあり、醸造はコストの高い樽熟成も不要で、すぐに瓶詰めして収穫年内に売り出すことができる。造り手にとっても極めて好条件なのだ。
目次
■テロワール
マールボロが特別な理由は、日の長さ、涼しい夜、豊富な日照、ドライな秋、この4つが見事にかけ合わさっているところである。海風の作る冷涼な気候はブドウのハングタイムを長くし、ゆっくりとしたブドウの成長を促してくれる。その結果、アロマとフレーバーが完熟し、酸を失うことなく糖分を蓄積できる。こうして力強い果実味と爽快な酸の見事なバランスが生まれる。
マールボロには3つのサブリージョンがあり、北から順にワイラウ・バレー、サザン・バレー、アワテレ・バレーと平行に並んでいる。最も温暖なワイラウ・バレーは東西に長く伸びておりマールボロ全体の約45%の畑をカバーしている。西は内陸、東は海に面しているためエリアによってその個性も様々。内陸はより大陸性気候で日較差(昼夜の気温差)が大きく、ソーヴィニヨン・ブランのキャラクターはハーブや草のニュアンスが強くなり、一方で海沿いは海洋性気候で土壌がより肥沃、よりトロピカルフルーツ系のニュアンスが強く出る。畑は谷間の底のフラットなエリアに広がり、土壌は砂利、シルト、砂、ローム、粘土と幅広い。サザン・バレーはワイラウ・バレーの真南の丘陵地に広がっており、より大陸性の気候の影響を受けるため比較的冷涼で乾燥している。粘土が多いのが土壌の特徴で、このため保水性が高く土は冷たい。これがブドウの成熟を遅らせ、収穫もワイラウ・バレーより最大で二週間遅くなる。最も南に位置するのがアワテレ・バレー。このエリアは海の影響をより強く受け、標高が他よりも高いことから最も冷涼な気候となっている。このため味わいは酸が高く、よりハーブのニュアンスが強く、トロピカルフルーツのなど要素は控えめとなっている。畑は谷底の平地と丘の斜面に広がっており、土壌は沖積土、砂利、粘土にロスが見られる。マールボロのおよそ30%の畑をカバーしている。
■味わいの特徴
マールボロのソーヴィニヨンの特徴は、力強いフレーバーにピリッとする刺激的な味わいだ。繊細や質素さとは真逆の性格で、一度香りを取ればすぐに分かるほど明確で力強いフレーバーがあり、時には「グースベリーの茂みに残る猫のおしっこ」とも表現される程の個性がある。もともとアロマティックな品種であるソーヴィニヨン・ブランの特徴を、シンプルかつクリアに表現し、わかりやすさと安心感をリーズナブルな値段で飲み手に届けてくれる。これこそがマールボロのソーヴィニヨン・ブランが世界中で愛される理由なのだ。
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