Napa Valley(ナパ・ヴァレー)
- アメリカ
- カベルネ・ソーヴィニヨン, シャルドネ, ナパ・カベ, ピノ
誰もが認めるニューワールド界のオーソリティーであり アメリカワインの心臓部
カリフォルニア州を代表する世界の観光都市サンフランシスコ。ここから車で一時間ほど北上すると見えてくるのがナパ・ヴァレーである。ニューワールドの中で最も有名かつ最高の栄誉を手にした産地であり、生産量はカリフォルニアのわずか4%にしか満たないが、販売額では全体の27%をも占める。この数値からもナパ・ヴァレーがカリフォルニアを牽引するプレミアム産地であることがわかるが、フランス以外で10万円を超えるワインが数多く存在するという点でも他産地とは一線を画している。
ナパ・ヴァレーがワイン産地としてここまで世界的な名声を勝ち得たのにはいくつか理由がある。ワインの品質水準が高く、受け入れられやすいポピュラーなスタイルであるのは無論のこと、大変見事なマーケティングが施されていることが挙げられる。加えて、この地が持つテロワールはカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に理想的であることも見逃せない。さらに、サンフランシスコからのアクセスの良さもある。これによって毎年何百万人という観光客がナパに立ち寄り、ワインと食を楽しむことができる。そして最後に忘れてはならないのが、1976年のパリスの審判である。40年以上経ってもなお語り継がれるこのストーリーは、ナパ・ヴァレーの栄光を不動のものにしている。
歴史をかいつまむと、ナパ・ヴァレーでワインが作られたのは19世紀からとされているが、高品質なワインが生産されるようになったのは1960年に入ってからであった。この当時のパイオニアの一人として知られるのが、1966年設立のロバート・モンダヴィ(Robert Mondavi)である。また最古という意味では1876年創立のベリンジャー(Beringer)も忘れてはならない。
テロワール
ナパ・ヴァレーはサン・パブロ湾の北に位置しており、東のヴァカ山脈と西のマヤカマス山脈が作る細長い渓谷が約60kmに渡って北西に伸びている。マヤカマス山脈は冷たい太平洋の影響を遮ってくれる一方で、ヴァカ山脈は暑いセントラル・ヴァレーから畑を守ってくれる。しかし渓谷は南部の海に向かって開くような地形をしている。このため日中畑が温まるにつれて、上昇した暖気に引き込まれるように海から冷気と霧が入り込んでくる。この冷却効果は非常に重要で、これがなければ渓谷の気温は上がり続け、ストラクチャーとバランスを兼ね備える高品質なブドウ栽培ができない。この霧は渓谷の山の上部には到達せずに低地を覆うことになるが、上部エリアは800mにもなる標高の高さによって冷涼効果を得る。ナパの畑はこの霧がかかる谷底と霧の上層に位置する山の斜面両側に見られる。
山側の土壌は表土が薄く痩せた火山性のもので、これが樹勢を抑え収量を低くし、ブドウの凝縮感を高める。また山の斜面では機械が使えないため基本的に手作業のみとなる。一方、谷底の土壌は主にシルトと粘土から成る。肥沃で高い保水性を持つが、ワインは山側と比較するとストラクチャーが緩い。また、西側マヤカマス山脈の麓には沖積土の扇状地が見られ、ここは表土が深く、石がちで、適度に肥えている。ワインはちょうど山側と谷底の中間的なスタイルになる。
また畑のロケーションも重要で、渓谷の南部か北部どちらにあるかでキャラクターが大きく異なる。南部は海に開けているため、より暑い内陸(北部)と比べて夏場の平均気温が約6℃も低い。冷気と霧の影響が最も強い最南端のカーネロスはファインワイン生産のほぼ限界とされている。一方、北部の奥地では暑すぎて品質を懸念する生産者もいるが、ほとんどがカベルネのような晩熟品種に適した気候となる。一般的に、北部に行くほど熟したブドウとなるためワインは甘みの強いリッチな果実味と、より熟したタンニンを持つ。
もう一つ忘れてはならないのが、山側の畑の太陽への向きである。東のヴァカ山脈にある畑は西を向き、西のマヤカマス山脈の畑は東を向くが、前者は強い午後の西日を浴び、後者は朝日を浴びる。このためより暑い西日を浴びる方が温暖となり、ワインはより高いアルコールと完熟感を持つ傾向が見られる。
味わいの特徴
ナパのアイコンとなるのはカベルネ・ソーヴィニヨンで、渓谷全域を通して最も植樹されている品種である。「ナパ・カベ」の愛称で親しまれるこのワインは、オークの風味が香るリッチなスタイルでブラックカラント、ボイズンベリー、リコリス、ヴァニラ、スモーク、ビターチョコレートなどの要素が特徴的である。最上のワインがもつその比類なき味わいは、豪華絢爛で溢れんばかりのフレーバーを持つが、同時に洗練されたストラクチャーを兼ね備える。味わいのスタイルを見ていくと大まかに谷底と山側に分けることができる。フランスなどと比べるとテロワールが細かく語られることは少ないが、ナパにはテロワールがしっかりとあり、各エリアに特徴がある。
谷底エリアはさらに南部・中部・北部に分けることができる。谷底南部は海に近く冷涼なため早熟のシャルドネやピノが多く見られる。海に近いエリアでは昼頃まで霧が晴れず、暖気や日照が制限される。このため、例えばカベルネやメルローの味わいは内陸のものと比べて軽やかで酸が高くよりフレッシュな印象となる。谷底中部には、超一流のプレミアムワイナリーが名を連ね、オーパス・ワン(Opus One)、スクリーミング・イーグル(Screaming Eagle)、ハーラン・エステート(Harlan Estate)、ダラ・ヴァレ(Dalla Valle)などが見られる。内陸に入るためより温暖な気候を持つ中部だが、夜間は海からの風や霧の影響で冷える。この影響が一番強いのが中部南寄りのエリアで、逆に中部北寄りの奥地ではその影響が最も弱くなる。中部のカベルネの味わいは南部に比べるとより凝縮感と甘みのある完熟した果実味が特徴で、熟したタンニンには丸みが感じられる。ジューシーなブラックカラント、ブラックベリー、プラムなどにしばしばリコリスやクローヴなどの甘いスパイスを伴う。最も内陸に入り込んだ谷底北部にはダックホーン(Duckhorn)、モンテレーナ(Ch. Montelena)、そしてアイズリー・ヴィンヤード(Eisele Vineyard)が鎮座する。(元はアローホ(Araujo)の名で知られたこのワイナリーは、シャトー・ラトゥール(Ch. Latour)に買収されワイナリー名が変更された。) 海からの影響が一番弱いエリアとなるため気候が最も暑く晩熟品種に理想的な環境となる。最もフルボディな味わいとなり、フルーツの甘みや濃度が高く、アルコールが強く感じられ、比較的酸が穏やかな傾向が見られる。
一方、山側エリアは標高が高く、石がちな痩せた土壌となるため、よりかっちりとしたストラクチャーと強固なタンニン、酸の高さが特徴となる。細かい味わい決めるポイントは海に近いかどうか、また朝日と西日のどちらを受けるか、という部分にある。すなわち、渓谷南部にある東向き(朝日向き)のエリアが最も冷涼となり、厳格でクラシカルなワインが味わえる。逆サイドは西を向くためにより暑い午後の太陽を浴びることで温度がやや高くなる。この様に見ていくと山側エリアで最も暑くなるのは内陸奥地の西向きエリアということがわかる。力強く凝縮した果実味と硬いタンニン、強固なストラクチャーを持つ素晴らしいカベルネが生まれる。この逆サイドのエリアも内陸であるために暑いが、柔らかい朝日を受ける東向きエリアであるためにやや気温が低くなる。
簡潔にまとめると、山側の味わいは谷底と比べて若いうちは硬さがあり、かちっとしたストラクチャーのために角が目立つ味わいとなる。リリース直後は多少の取っ付きにくさもあるが、逆の言い方をすれば、谷底のよりフルーティーで丸みのあるフレンドリーなスタイルよりも締りがあり、バランスやフィネスを感じやすい。
ナパ・ヴァレーのスタイルは過去数十年で進化しており、80年代と90年代は消費者やジャーナリストの嗜好がフルボディの力強いワインだったため、ブドウはしばしば長いハングタイムを経た遅摘みのものが多く、過熟感のあるフレーバー、高いアルコールに低い酸が特徴的であった。高い新樽率で熟成され、たっぷりとしたヴァニラ、ココナッツ、トースティーなフレーバーが付与されていた。しかし現在は昔よりも早く摘み、過熟なスタイルはほとんど見られなくなった。新樽比率は未だに高いものの、昔に比べ熟成期間は短くなった。
単一品種ラベルであっても、生産者はごく僅かに他品種をブレンドする傾向があり、典型的なものではカベルネ・ソーヴィニョンに少量のメルローやカベルネ・フラン、プティ・シラーなどを加える。異なる畑のブレンドもよく行われており、時にはAVAを跨ぐこともある。これは例えば畑が違えば土壌も異なるからで、谷底の肥沃な土壌のものと山の斜面の痩せた土壌のものをブレンドしたり、あるいは冷涼な南部の酸の高いフレッシュなブドウを、より温暖な北部(内陸)のリッチなブドウとブレンドしたりする。
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