Perrot Minot(ペロ・ミノ)

ペロ・ミノはモレ・サン・ドニで五本の指に入るトップ・ドメーヌ。知名度としてはPonsotやDujacに一歩及ばないものの、コート・ド・ニュイにおいて外すことのできない生産者の一人としての地位を確立している。一方で、飲み手の中にはペロ・ミノ=モレ・サン・ドニの生産者という認識があまりないという声もある。これはジュヴレの特級を数多く手がけていることや、シャンボールとニュイ・サン・ジョルジュからの看板キュヴェが市場で大きなインパクトを持っているからである。本拠地ではないワインがドメーヌのブランド・イメージを作っているという点では隣人のGroffierと類似していると言える。

 

歴史

ワイナリーのすぐ向かいにはTaupenot-Mermeがあるが、ペロ・ミノのルーツはもともとメルム家にある。20世紀初頭、初代アメデ・メルムは畑の規模を広げて息子アルマンとともにワインを作っていた。その後、アルマンの娘マリー・フランが1963年にアンリ・ペロ・ミノと結婚。アルマンからドメーヌを引き継いだ二人はワイナリー名をペロ・ミノに変更した。当時アンリは主にブドウ栽培家として仕事をしていたため、ほとんどをバルクで売っていた。しかし、1993年に息子クリストフが四代目に就任したことで体制が大きく変わった。ドメーヌに戻るまでの約7年間クルティエとして多くのワイナリーを訪問してきたクリストフは、自らの手で高品質なワインを作ることに情熱を捧げたのである。

規模の拡張に意欲的だったクリストフは、1999年にジュヴレの畑(特級を含む)からブドウを買い、ネゴシアンとしてもワインを作り始める。翌2000年には、ヴォーヌ・ロマネのPernin-Rossinを買収し自社畑の規模を拡大させた。これによって数多くの古樹を手に入れた。買収後の翌年クリストフは住居をヴォーヌ・ロマネに移したが、その際ワインを数本持参して歓迎してくれた人がいた。道のほぼ向かいに住むアンリ・ジャイエだった。アンリとの出会いがクリストフに大きな影響を与えたことは言うに及ばないが、彼のワインは2000年頃からスタイルが変わりはじめ、よりエレガンスとフィネスを求めるようになった。彼のワインは年々そのスタイルが洗練されており、以前にもまして世界中の評論家からの注目が高まっている。

 

約15haの畑からジュヴレ、モレ、シャンボール、ヴォーヌ、ニュイと幅広く生産している。中でもジュヴレのキュヴェ数が多く、特級は自社畑と買いブドウから作っている。自社畑はCharmes Chambertin(0.8ha)とMazoyeres Chambertin(1ha)。多くの生産者は両者をまぜてCharmes Chambertinを作るが、ペロ・ミノではそれぞれ分けて作られる。理由は両者の味わいが大きく異なるからである。Mazoyeresは石の多い土壌で、トレードマークとも言えるかっちりとしたミネラルが特徴となる。一方、Charmesは赤系ベリーとバラの花がぎゅっと閉じ込められたような密度とジューシーさがある。買いブドウはChambertin、Clos de Beze、Griot ChambertinそしてChappelle Chambertinである。

見事なラインナップを持つ特級だが、ペロ・ミノのフラッグシップといえば2つの1erクリュ – Chambolle Musigny 1er Combe d’OrveauとNuits St Georges 1er La Richemone – である。Cuvee Ultraの名を冠するこれらのキュヴェは、超がつくほどの古樹からごく少量のみ生産される。

Combe d’Orveauは、ざっくり2区画に分けられる。上部は表土が薄く石がむき出しで、石がちな土壌。これが特徴的なミネラルとフィネスを生む。一方、下部はMusignyに近く、石よりもシルトが多く見られるきめ細かい土壌。リッチで力強くフレッシュな味わいを生む。ペロ・ミノのCuvee UltraではMisignyに近い下部のブドウ(樹齢80年超)が使用される。以前は上部のCombe d’Orveau V.V.と下部のCombe d’Orveau V.V. Cuvee Ultraの二種が作られていたが、2013年頃から市場の混乱を避けるためにCuvee Ultraのみに絞っている。なお、現在上部の区画のブドウは贅沢にも村名シャンボールにブレンドされている。

La Richemoneは畑の最南部に植わるブドウ(1902年植樹)からのみ作られる。砂利と粘土石灰が混ざる土壌で、水はけがよく根が深くまで張る。Combe d’Orveau同様に以前は2種類が作られていたが、現在はCuvee Ultraのみとなっている。

 

栽培

豊富な古樹、比較的短い剪定、グリーンハーヴェストの組み合わせは、通常のワイナリーであれば十分な収量制限となりうる。しかし、ペロ・ミノが本領を発揮するのはここからさらに絞り込む厳しい選果である。クリストフの選果への考え方は非常にシンプルで、収益のことは一切考えない。特級のブドウを選果しているときでさえも。彼にとっては廃棄量がどのくらいかは重要ではない。「私たちには明確なビジョンがあり、アペラシオンに関係なく品質の良いものだけを残します。発酵槽に入るブドウの質に関しては一切の妥協をしないし、それを貫く自制心があります。」

最初の剪定は収穫時に畑でなされ、小さなかごでセラーへと運ばれたブドウは選果台で2回目のセレクションがなされる。選果台は2つあり、一つは全房用。年によって異なるが、平均で30-40%ほど全房のブドウを残す。全房専用の選果チームが存在し、選果台を取り囲んで完璧な房のみがピックアップされる。その後、房の主軸をカットしてブドウ粒を支える細い軸のみがついた状態される。これによって「明らかな茎感」を避けている。全房用で選ばれなかった房はその後除梗され、2つ目の選果台(光学選果台)でうどんこ病や乾燥したブドウ、過熟なブドウを取り除いていく。全体に対してわずか数%の過熟ブドウでさえも取り除く。少しでも混ざるとフレッシュさが失われ、コンポートのニュアンスがでるリスクがあるからである。こうした厳格な選果の結果、村名で40hl/ha以下、特級では20-25hl/ha前後の収量となる。

 

醸造

セラーではまず発酵前にコールド・マセラシオン(約14℃)を数日行い、アロマを引き出す。天然酵母のみで発酵させ、年によって全房の比率は異なる。またピジャージュやルモンタージュの頻度や強さも年によって異なるが、基本的にはルモンタージュを好む。プレスは種からの苦味が出ないよう優しく行い、数日間のデブルバージュ後に樽に移していく。樽はほとんどがJupilles産(ロワール北部)のオークで、フランソワ・フレールのものを使用しており、新樽は最大でも30%程度におさえる。熟成期間はキュヴェによって異なるが通常12-14ヶ月で、最大18ヶ月になることもある。なお、熟成中のラッキングは行わない。これは自然発生するガスや澱をワインの中に残すことで新鮮なアロマを保持するためで、ラッキングは瓶詰め前に一度しかしない。ボトリングは無清澄、無濾過で行われる。

 

味わい

ペロ・ミノの味わいの大筋は、強い光沢感とコンフィを思わせる密度の高い甘さがつくる鮮やかで華やかなスタイル。味はゴージャスだがテクスチャーは非常になめらか、というものである。しかし実際にはいくつかスタイルの変遷が見て取れる。2000年頃までは、強い抽出と新樽が作る色の濃い、凝縮した味わいだった。しかし、これ以降味筋が逆方面へと変わっていく。エレガンス、シルキーさ、バランスに焦点を当て、テロワールを感じさせるワインを追求していくようになった。醸造面でもピジャージュ減らしルモンタージュを重視するようになる。2005年には醸造所が新設され、各設備(選果台、除梗機、破砕機)がバージョンアップしたことで選果の精度が上がり、果実味にピュアさが備わるようになった。新樽を徐々に減らし始めたのもこの頃からである。2017年ぐらいまでは、エレガンスという方面にシフトしているものの、やや甘さが強く感じられる印象があった。ニール・マーティンも、もう少し軽やかさと赤系果実の表現力が大きくなれば、とコメントしている。しかし、ここ数年で味わいによりミネラルと旨味が乗ってきている。装飾が削ぎ落とされ、バランスに磨きがかかってきている。WAも「フィネスあふれるテクスチャーとアロマの広がりという点でクリストフは進化を続けている。往年の抽出感とリッチさは、シルキーなタンニンと優美なアロマへと変わっている。」と近年の進化に賛辞を送っている。また、アラン・メドーも「ペロ・ミノはかつてないほどに洗練されたワインを作っている・・・ワインは誠にエレガンスを身にまとっている」とコメントを残している。

近年の味わいに対しては、若いうちからでも押し付けがましくなく美味しく飲めるようになった、ということができるが、これはかつてアンリ・ジャイエがクリストフに言っていたことでもあった。「良いワインというのは若くても熟成しても美味しい。いつ飲んでも美味しいから『良いワイン』なんだよ」。

「待たなくてもすぐに楽しめる、バランスの取れたフィネスを感じるワインが良いんだ。それがブルゴーニュワインの本質だと思っているからね。」という現在のクリストフの言葉にはかつてないほどの説得力がある。

 

 

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