McLaren Vale(マクラーレン・ヴェイル)
高樹齢かつ無灌漑のシラーズやグルナッシュは 飲む者を圧倒する
マクラーレン・ヴェイルは、サウス・オーストラリア州の州都アデレードの南約35kmに位置し、海に突き出たフルリオ半島の北西にあるワイン産地。フルリオ半島一帯で最も重要な産地であり、オーストラリアでも五本の指に入る屈指の銘醸地である。幅広いブドウ品種がこの地で成功を収めており、最上のワインはしばしば高樹齢のブドウから作られ、中には樹齢100年を超すものもある。
地理的表示GIを獲得したのは1997年だが、ブドウ栽培の歴史はオーストラリアで最も古いエリアの一つとして知られる。ブドウが初めて植樹されたのは19世紀の初め頃で、オーストラリアワイン産業のパイオニアとして知られるThomas Hardyらがこの地のポテンシャルを見込み、その発展に貢献した。20世紀の前半までは酒精強化ワインが支配的だったが、第二次世界大戦が終わるとヨーロッパ(とりわけイタリア)からの移民が流入し、辛口赤ワインの生産が再び活発になっていった。1970年代に入るとフルボディの完熟したシャルドネやセミヨンに焦点が当てられたが、1980年代後半から90年初めにかけてこの流れは失速し、再び赤ワイン生産にシフトしていった。
目次
■テロワール
マクラーレン・ヴェイルは、西側のセント・ビンセント湾と東側のアデレード・ヒルズに挟まれるように位置している。夏は暑くなるが、海と丘陵からの冷たい風の影響で気温が和らぎ、また風のおかげで乾燥し病害が少ない。このためオーガニックやビオディナミ栽培に適しており、認証を受けるワイナリーは増えている。生育期の降雨量は比較的少なく(たいてい200mm以下)、一転して冬は雨で湿っている。
ブドウ畑は約7,200haと広大で、このため多様な微気候が見られる。冷たい空気の影響は海からの距離だけではなく、標高の高さにも関係する。畑は標高0~350mまで広がるが、ほとんどが50-250mのフラットないしは緩やかな斜面に位置している。主な土壌タイプは、砂質、ローム、粘土である。一般的に北部は栄養素に乏しい痩せた土壌で、南部は表土が深く肥沃なため収量が多くなる傾向がある。
この地の重要なワイナリーはハーディーズ(Hardys)、モリードゥーカー(Mollydooker)、ヤンガラ(Yangarra)などである。
■味わいの特徴
マクラーレン・ヴェイルでは、黒ブドウが全体収量の約90%を占める。主力となるワインは高級路線のものが多いが、バロッサ・バレーと比べると平均価格は少し低めと言えるだろう。最も植樹されているのはシラーズで全体の半数を超えており、カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュがそれに続く。マクラーレン・ヴェイルの赤ワインは色調が濃く、フルボディでアルコール度数は高く、黒系果実のフレーバーが全面に出る。オーク由来のスパイスの特徴もしばしば見られる。標高の低いより暑いエリアでは、果実のフレーバーがコンポートしたような、あるいはジャミーなニュアンスを帯びる。一方、標高の高い涼しいエリアでは酸がより高く、タンニンがかっちりする傾向が見られる。
1980年代に生産過剰対策として行われたブドウ樹の引き抜き計画によって多くの古樹が失われてしまったものの、未だに高樹齢、無灌漑、株仕立てのシラーズやグルナッシュが生き残っており、とりわけ北部のブルーウィット・スプリングス(Blewitt Springs)付近に見られる。土壌は粘土がベースでその上に砂が広がり、保水性に優れた特徴を持つ。古樹のグルナッシュはこのところとりわけ注目を集めており、そのワインはミディアムのタンニンと酸を持ち、重すぎないボディにフレッシュな赤果実、スパイス、ハーブの特徴が見られる。オークが使われる場合は古樽あるいは少量の新樽で果実のフレーバーがマスキングされないように熟成させる。こうしたワインはしばしば小売価格一万円を超えてくるような値段で取引される。
最近では地中海品種にも注目が集まっており、ムールヴェードル、サンジョヴェーゼ、フィアーノなどが栽培されている。その理由は、これらの品種は例えばシャルドネと比べると、温暖な気候でも比較的酸を高く保つことができるからである。とはいうものの、こうした品種の植樹率は未だに低いままである。
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