Priorat(プリオラート)

全くの無名からスペイン最高峰へ成り上がったドラマチックな産地

パワフルで甘みの強いイメージのスペインにおいて

唯一無二の個性的なミネラルを持つ洗練された味わい

スペイン北東部カタルーニャ州といえば、国際的な観光都市であるバルセロナが有名だ。そのバルセロナから海岸沿いに南に100kmほど下るとタラゴナという町が見えてくる。この町から少し内陸に位置するプリオラートは、規模こそ小さいものの極めてダイナミックな産地である。この地が生む力強いフルボディの赤ワインは、過去数十年にわたって高級ワインとしての名声をほしいままにしてきた。

プリオラートの赤ワインには3つの特徴がある。1つ目は、グルナッシュ主体のワインとして数少ない世界最高峰の品質であること。シャトーヌフ・デュ・パプやカリフォルニアのシネ・クア・ノンなどと肩を並べている。2つ目は、スペインで最高品質の産地にのみ与えられるDOCaに認定されていること。広大なスペインと言えど、このランクに認定されているのはリオハとプリオラートのわずか2産地のみである。3つ目は、はじめは国際市場で全く無名だったにもかかわらず、今や世界でも有数のプレミアム産地に成り上がったということ。

 

暑く乾燥したスペインの気候は収量の低いブドウを生むが、プリオラートはスペインの中でもとりわけ低収量だ。平均5hl/haという数値は、ブルゴーニュのグラン・クリュの収量平均が35-40hl/haというのを見ると、いかに異常な数値かがわかる。なぜプリオラートのブドウはここまで収量が低くなるのだろうか。それには気候、土壌、樹齢という3つの要素が関連している。

比較的地中海に近いものの、山に囲まれた内陸にあるプリオラートは大陸性の気候を持つ。夏は非常に熱く乾燥しており、年間の降水量はわずか500mm程度。シェリーで有名なスペイン南部のアンダルシアと並ぶほど雨が少なく乾燥しており、ブドウにかかる水分ストレスは高い。土壌はリコレッラと呼ばれるこの地特有のもので、スレートと石英からなる。排水性が抜群で、栄養分の少ない非常に痩せた特徴を持つ。スレートはワインにミネラル感を与え、石英は太陽光を反射しブドウの成熟を促してくれる。プリオラートに植わるグルナッシュやカリニャンの多くは平均樹齢が高く、90年を超えるものも珍しくない。

こうした水分ストレス×痩せた土壌×高樹齢という3つの条件が重なることで、プリオラートの異常な低収量が生まれる。幸か不幸か、ここまで過酷な条件が揃っていたためプリオラートはブドウ栽培に向かないと言うレッテルが貼られてきた歴史があるため、20世紀終わり頃まで世界的には無名であったのだ。

■味わいの特徴

クラシックなプリオラートは古樹のグルナッシュとカリニャンのブレンドで、リコリスやタール、ブランデー漬けのチェリーのような凝縮したアロマを持つ。こうした伝統的なスタイルに対して、モダンな手法を取り入れ品質のイノベーションを起こしたのがRené Barbierである。彼は、1989年にAlvaro Palaciosらと小さな醸造家のグループを作り、この地に眠るポテンシャルを引き出すべく新しいアイデアを取り入れた。ブレンドにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーといったフランス系品種を使用し、フレンチオークバリックでの熟成を導入したのだ。この結果、味わいがより洗練されフレーバーに複雑さや奥行きが生まれた。1990年代半ばまでに彼らのグループのワイン(Clos Mogador、Clos Dofi、Clos de L’Obac、Clos Martinet、Clos Erasmus)は世界にその名を轟かせ、以降プレミアムなワインとして高額で取引されるようになっていった。

現在における典型的なプリオラートは、乾燥したプラム、ブラックチェリーにカシスの要素が支配的なアロマを持つ。果実以外だと、はっきりとした「岩」のミネラルを感じるがこれはリコレッラ土壌に由来する。シナモンやカルダモンのようなスパイス、そしてフィニッシュにはミントやリコリスのニュアンスを感じる。味わいの骨格を作るのは、ソフトで心地よい酸と筋骨隆々なタンニン、比較的高めのアルコールである。上質なものになると、より調和の取れた力強さと表現力に富み、果実からセイボリー、そしてスパイスといったようにフレーバーの連なりを多層的に感じることができる。

多くの愛好家の舌を唸らせるプリオラートであるが、このユニークな味わいが裏目に出てしまうこともある。一般的にスペインワインというと「パワフルで甘みの強い果実味」が特徴だが、プリオラートはそれとは一線を画す「・タイト系」の味わい。この味わいの方向性が従来のイメージと異なるために、スペインらしさを求める層からの需要がいまいち少なく、過小評価されてもったいないという知られざる一面もある。

プリオラートのワインは高くなかなか手が出せないという人も少なくないだろう。しかし、その理由を知れば十分に納得できるはずだ。すなわち、超がつくほどの低収量で生産量が限られ、比較的長めの樽熟成により醸造コストが高くつく。加えて急斜面が作る段々畑では機械の使用ができず栽培には膨大な人手と時間がかかる。こうした厳しい条件の組み合わせが、プリオラートを高級ワイン産地たらしめているのである。

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