古代品種の復活
地元のワインバーに行って今日のグラスワインは何か質問してみてください。その答えは数年前のものとは大きく異なるかもしれません。
グラスワインと言えばカベルネやソーヴィニョン・ブランが主流でしたが、最近では単一畑のパイスやヴァルディギエ、そのほかの無名な品種が注目を集めています。これらの品種は決して新しい品種というわけではありません。むしろ、地球上でも最も歴史のあるブドウの一種です。では、何故それらの人気が急上昇したのでしょうか?
エルバマット
イタリア北部では、Consorzio Franciacortaの副社長でありワイナリーFerghettinaのオーナーを務めるLaura Gattiが、2017年までDOCGの規定によりフランチャコルタのワインへの使用が認可されていなかった、ロンバルディア固有の品種であるエルバマットを再び栽培することを決定しました。(注:現在ではFranciacorta Satenの生産を除いて、DOCG法において10%を上限としてエルバマットの使用が認可されています。)さて、その理由はなんでしょうか?地元の歴史に敬意を示すためと、気候変動に適応するためです。
「エルバマットの栽培は挑戦的なことかもしれませんが、私はフランチャコルタに地域性を最大限に表現したいのです。そのために、土着のブドウを使用すること以外に良い方法があるでしょうか?」とGattiは述べています。エルバマットの課題は、単一品種として瓶詰めするにはあまりに酸が高すぎることと、フレーバーの特徴が非常にニュートラルであることです。Gattiはエルバマットが土着であることに加え、シャルドネやピン・ブラン、ピノ・ノワールとは異なり晩熟であることを説明しています。
「エルバマットは高い酸度を保つことが出来ます。ここ数回の収穫が温暖であったことを鑑みると、それは非常にポジティブに働くと考えます。」とGattiは語りますが、DOCG法においてエルバマットの使用が10%までに限定されているのは、地元の生産者がフランチャコルタの特徴を歪めたくないと考えているからです。しかしながら彼らも徐々に変化しており、地域に根付いたブドウを試すようになっています。
ヴァルディギエ
一方で、古代のブドウ品種を復活させることは気候変動に適応するものではなく、歴史へ敬意を示すことだと考える人もいます。カリフォルニアのワイナリーVin Fraiche、Gagnon-Kennedy Vineyards の創始者であるMichael Kennedyは、これが彼とMarc Gagnon(元Screaming Eagleの醸造責任者であり、現在のGagnon-Kennedy Vineyardsの醸造責任者)がヴァルディギエの栽培を決意するきっかけになったと説明します。
「歴史的にみると、ナパ・ヴァレーには大量の”ナパ・ガメイ(=ヴァルディギエ)”が栽培されていました。ワイナリーを設立した当時の素晴らしい象徴的な作品なので、我々はそれをモダンなスタイルで表現することにしたました。」とKennedyは語ります。Gagnon-Kennedyではヴァルディギエをカルボニックマセレーションで醸造し、微発泡の状態で瓶詰めします。Gagnonは、この方法がヴァルディギエの本来の性質を尊重していると考えます。
微発泡で瓶詰めすることに加え、彼らはシュール・リー熟成を実践しています。シュール・リーをすることによってフレーバーが豊かになり、フレッシュで溌溂としたワインに酵母のキャラクターをもたらします。Gagnon-Kennedyでは年間100ケースのヴァルディギエを生産していますが、顧客のフィードバックによると、Kennedyは基礎的な教育が必要であることを認めます。
「我々の市場は情熱的なカリフォルニア・ワイン愛好家によって支えられているので、彼らをカベルネという箱から出す手助けをしたいと感じていました。我々がこのワインを提供した時、多少の批判はあるかもしれませんが、我々の顧客がこのワインから何かを学び、そして楽しむ手助けをする機会は非常に価値のあることです。」むしろ、Kennedyは彼らのヴァルディギエがソムリエ業界の中ですぐに話題になるだろうと述べています。
ミッション
カリフォルニアの他の地域では、ソムリエから醸造家へ転身したPatrick Cappielloがミッションという品種を通してカリフォルニアの豊かな品種の歴史を称えようとしています。「Monte Rio Cellarsは古き良きカリフォルニアに影響を受けているので、州で最も長い歴史を持つ品種の1つに目を向けることは至極自然なことです。」彼によると、ミッションは1800年代後半にスペインの宣教師(missionary)によってカリフォルニアに植えられたそうです。Cappielloはこれがミッション(mission)という品種の名前の由来であると説明しますが、この品種は南米ではパイス、スペインではリスタン・プリエトなどと呼ばれています。
Capielloによると、ミッションが復活したのはカリフォルニアだけではないようです。チリでは、Luca Hodgkinsonという醸造家が兄のJosé Miguelと手を組んでパイスの栽培を始めましたが、彼らはこの品種に愛着があるというわけではありませんでした。
「何年もチリ周辺でパイスのワインを飲んできましたが、数年前にLouis-Antoine Luytの2006 Clos Ouvertを飲むまでは感銘を受けることはありませんでした。」とHodgkinsonは語ります。優雅に熟成するワインのポテンシャルに彼と彼の兄弟はすぐさま魅了されたと言います。数年後、彼らは偶然にもパイスの畑で働く機会を得ました。驚くべきは、この区画は彼らが衝撃を受けたLouis-Antoine Luytのワインに使われていたブドウが栽培されていたということです。もちろん彼らは大興奮しました。Hodgkinsonは、この畑にはまだ多くの投資と剪定が必要であることを明らかにしていますが、キュヴェに丸みを持たせるために少しのグルナッシュを加えて、出来るだけ自然な形でパイスを醸造しています。
ネイティブらしさ
スペインのカタルーニャでは、地域の神聖なトリオであるマカベオ、チャレッロ、そしてパレリャーダが絶対的な存在であるにもかかわらず、ワイナリーSucces VinicolaのMariona とAlberto Canelaは土着の赤品種トレパットを用いることにしました。
彼らはスペインの東海岸におけるブドウの深い歴史を引用しながら、トレパットについて次のように説明します。「トレパットはコンカ・デ・バルベラで発見された唯一の土着品種です。フィロキセラ以前には、トレパットはバレンシアのほうまで植えられていましたが、ブドウの樹が再植樹された後は、唯一コンカ・デ・バルベラにおいて復活しました。トレパットは、標高の高い、冷涼な地域に適しているからです。しかし、DOコンカ・デ・バルベラを除いて、カタルーニャにおけるトレパットの90%はカヴァの生産に用いられます。」
2004年の時点で、DOコンカ・デ・バルベラではワイナリーが最低1種類以上のトレパットの生産をすることを要求していますが、Succes Vinicolaでは7つのキュヴェを生産予定だとCanelaは語ります。彼らは人為的介入を減らし、畑からの天然酵母を使用してトレパットを醸造しています。
この話の教訓はなんでしょうか?復活を遂げた品種で造られたワインを飲むことは、現代風にアレンジした古代を飲むようなものです。もし歴史が本当に繰り返されるのであれば、古代品種の復活に我々は感謝をしているし、そしてより渇望しています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/01/the-rise-of-resurrected-wines
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