試験管ワインの登場
50mlの試験管からサーヴされるクリュ・クラッセのボルドーワインがあったらどう思いますか?
50mlという量はあまりにも少量なので、個人的には魅力でないように感じます。しかしながらこのアイデアは大きな広がりを見せています。アルゼンチンのワイナリーCatena Zapataは、彼らのワインをサンプルサイズで流通する契約をオランダの工場と結びました。これは前衛的な動きでしたが、一部のボルドーシャトーは彼らの先を行っています。
ソーテルヌのChâteau Guiraudでジェネラル・マネージャーを務めるLuc Plantyは次のように語ります。「少し前から筒状の容器でワインを販売し始めています。より多くの人にボルドーワインを知ってもらうために、何か新しいことを試したかったのです。この試みによって、より広範囲の顧客がソーテルヌのワインにアクセスしやすくなると思います。我々は自分たちのためにワインを造っているわけではなく、消費者のためにワインを造っていますから。」
コロナウイルスが流行する以前、流行に敏感なソムリエ達はボルドーワインのイメージ向上に取り組んでいました。ボルドーワインは高価で過大評価されている、時代遅れなワインだと捉えられており、そのマーケティング手法は古典的すぎるとして受け入れられませんでした。マルセイユ郊外で生産されるような独特な香りのナチュラル・ワインにボルドーワインが対抗できなかったのです。
変化の容認
過去10年間にわたり、ボルドーは観光業の拡大や消費者への直販、新しいブドウ品種、新しい容器、そして持続可能な農業といった新たな試みに賭けてきました。これらの実例はボルドーの様々な地域で広がりを見せています。観光客を迎合しないようなシャトーの看板は夏季インターンシップやブドウ畑ツアーを謳った看板へ置き換えられ、ソーテルヌにはミシュランの星付きレストランが誕生し、観光客向けの高級ホテルがオープンしました。そして、ボルドーは環境へ優しい地域への変換を遂げています。
「2014年から2016年の間、ボルドーのブドウ畑におけるCMR農薬(発がん性、変異毒性、生殖毒性を有する農薬)の使用は半減し、わずか3年の間に55%のマイナス値を記録しました。」とネゴシアンMaison Sichelで代表を務めるAllan Sichelは語ります。
そして格付けシャトーがワインの直売を取り入れ始めたという事実からは、ボルドーの現代への歩み寄りが大いに見て取れます。Vinsent社では、ボルドーの三層システム(生産者、インポーター、小売の三社によってワインの取引が行われるシステム)を簡素化し、シャトーと消費者が協力することで購入価格を下げる取り組みなども見られます。
「我々は多くのシャトーとパートナーシップを結んでいます。Pichon Comtesse やCheval Blancといった一流のシャトーから、直接プリムールによる割り当てを確保することが出来ます。」と創始者であるGil Picovskyは述べています。
新しいプリムールの形
一方で、Glen Ritzenのような起業家はボルドーの向上心を上手く利用しています。Ritzenは2015年に自身の会社”TUBES”を立ち上げ、年間500万本を超える試験管を生産しています。彼はこれを大きなビジネスチャンスと捉え、2021年の後半にボルドーへ新たな工場を増設することを決めました。今年の多くの展示会は延期、またはオンラインでの開催となるので、Ritzenは事業の売上が増大すること予測しています。
「多くのシャトーが我々のサービスに興味を持っています。世界的なパンデミックが事業の成長と拡大へ繋がっています。ワイナリーがテイスティングイベントやワークショップをオンラインで開催する機会が増えているので、このビジネスモデルはそれらに大きく貢献できるはずです。試験管のような小さな容器で輸送することは、700mlのボトルを世界へ輸送するよりもコストが抑えられることは明らかです。」とRitzenは説明します。
歴代のワイン評論家はプリムールの弱点を繰り返し指摘していました。バレルサンプルからの試飲は不安定で、初期段階のワインを試飲することは歪んだ印象を与えかねず、また誇大な広告や価格高騰も懸念されるためです。しかし、ボルドーは2021年のプリムールをオンラインで開催するか、または伝統通りに開催するかの議論をしています。コロナウイルスは、この毎年恒例の行事に変化をもたらすきっかけになるかもしれません。
意見はもちろん二分化しています。「プリムールの永久オンライン開催」について何人かの支持者と話をすることが出来ました。支持理由の一つにはコスト削減を挙げており、また毎年多くの人をもてなす手間も省けるという利点もあるようです。しかしながら、試験管のサンプルを用いたオンラインでのキャンペーンは、果たして現実的な代替案でしょうか?
「2020ヴィンテージのプリムールは、少なくとも最初の時点ではオンラインでの開催になる可能性が高いと思います。出来る限りの現代技術を用いてオンラインでのプリムールを企画するために、最善を尽くしています。」とCantenac BrownのJose Sanfinsは述べています。
対面の価値
古い慣習はいずれ消えゆくものです。しかしながら、プリムールのオンライン開催への動きは現代派を含む大半のシャトーにとって現実的なものではありません。
「もし選択肢があるのであれば、オンラインモデルへの永久移行は支持しません。我々は醸造家ですから、造ったワインは対面で情熱を持って共有したいと考えます。ただし同時に現実主義者であるので、もし選択肢がないのであればオンラインイベントに向けて最善を尽くすつもりです。」と醸造家のHubert de Bouardは語ります。
プリムールの伝統に固執するボルドーの社会も、それを犠牲にするようなことは望んでいません。変化に寛容なシャトーがある一方で、いまだに厳格で偏った考えを持つシャトーが実存しているのも事実です。ポムロールは90年代から変わらないままで、テイスティングルームを所有することにアレルギーを持っているかのようです。
しかしながら、全体的にはボルドーに新しい風が吹き込んでいるのを感じることが出来ます。そうした内情を知らずにボルドーが時代遅れだと示唆することは、それ自体が既に時代遅れなことなのかもしれません。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/02/test-tube-vino
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