ワイン市場の枯渇に備えよ
- 2022.01.04
- ワインニュース
- イタリア, カリフォルニア, シャンパーニュ, スペイン, ソーヴィニヨン・ブラン, ソムリエ, フランス, ブルゴーニュ, ボルドー, ラングドック, ワイナリー, 価格, 保管, 樽, 生産者, 白ワイン, 赤ワイン, 輸入, 輸送
母なる自然が私たちに与えるものもあれば、時には奪うものもあります。
近年、特にワイン業界に属する人にとっては、天気を話題にすることはあまり適切ではありません。発芽後の霜害や山火事、干ばつ、洪水、猛暑と湿気など、気候変動によって引き起こされる様々な異常気象の影響で、世界の多くのワイン生産地で収量が激減しています。
フランスのワイン生産地の大半が被害を受けています。フランス農業省によると、2021年の収穫量は昨年と比べて平均29%減少しており、シャンパーニュ地方においてはさらに36%減少となっています。聞くところによると、シャンパーニュ地方の生産者は最大で90%の収穫減を報告しており、この影響でフランスの生産者は約20億ドルの売上減となる可能性があるとのことです。
ニュージーランドワイン全体の75%を生産するマールボロでは、収量が約3分の1に減少しました。カリフォルニアのナパ・ヴァレーでは平均を25〜40%下回り、銘醸地として知られる山間部のブドウ畑が最も大きな被害を受けています。
しかしこれは氷山の一角に過ぎません。今年は白ワインが、そして数年以内に赤ワインが市場で品薄になることは避けようのない事実に思えますが、ワイン愛好家や3,400億ドル規模のワイン市場の関係者はどのように対処すればよいのでしょうか。
洞察力
物事が起きた後に分析するのは簡単ですが、それは適切な対策とは言えません。しかし、適切な洞察力は輸出業者や生産者にとって良い手がかりとなります。
ネゴシアン・ Latitude Beverage Company の共同経営者兼ワインディレクターを務める Brett Vankoski は次のように語ります。「マールボロで30〜25%の収量減を目の当たりにしたとき、私たちは非常に心配になりました。彼らの収穫時期は、もちろん我々の収穫時期とは異なるのですが、ヨーロッパの主要なワイン生産地では春に激しい霜が降りました」。
事前にダメージを最小限に抑えるために、 Vankoski は次のような行動に出たそうです。「既に瓶詰・リリースされているボトルの買い付けを増やしました。ラングドックのロゼやイタリアのプロセッコ、アルゼンチンの赤ワイン、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランなどを購入しました」
買い付け量を約20%増やしたのは、「既存のヴィンテージのラインナップを増やすことで来年の春にアイテムが品薄になるのを防ぎ、深刻な価格上昇を防ぐため」だと推測しています。
ナパ・ヴァレーのスプリング・マウンテンAVA にある Cain Vineyard & Winery では、山火事によってワイナリーの施設や住居、そして500エーカー(200ヘクタール)ほどある土地の大部分が焼失してしまいましたが、醸造家の Christopher Howell とセールス・ディレクターの Katie Lazar は、この危機に毅然と立ち向かっています。
「山火事の前は、約200ヘクタール程ある所有地のうち約36ヘクタールにブドウ樹が植えられていました」と Lazar は説明し、通常であれば10,000〜12,000ケースの生産が期待できるそうです。「火事の後でブドウ畑が回復するまで1年から2年かかることもあるので、何を救うことができるかに考えを巡らせています。今年は、山火事と干ばつによる低収量のため、40~50トン程の収穫となりました」と述べています。
今年は約4ヘクタール、来年はさらに約4.9ヘクタール、再来年はさらに多くの植え替えを予定していますが、そのプロセスは時間をかけて行われます。「若樹は非常に多くの水分を必要としますが、私たちはスプリング・マウンテンの頂上に位置しているので、ブドウ畑に必要な水は降雨に頼る必要があります」
通常の年であれば約1,500mmの降雨がありますが、去年は約750mm弱、そして今年は現段階では非常に乾燥しています。しかし、2019年と2020年の収量を完全に失い、そして2021年は深刻な赤字問題を対処している最中ですが、旧世界の地域で主流なワインの貯蔵システム(バックヴィンテージを蔵元で保管しておくこと)が彼らの運営を支えています。
「2008年~2010年にかけて発生した金融危機の影響で、ナパでそのヴィンテージのワインを売り切ることの出来た生産者はいませんでした。私は、”豚の耳 “から “絹の財布 “を作るべく、貯蔵システムを立ち上げました。ワインの準備が実際に整うまでには、何年も樽や瓶で保管しておく必要があります」と、 Lazar は述べています。
2009年から、 Cain はその年の生産量の約25%を貯蔵用に保存し始めました。
「今では素晴らしいビジネス戦略になっています。これはレストランの助けにもなっていて、コロナウイルスによるパンデミックの時期には、多くのレストランが経営を維持するためにワインセラーのワインを売り尽くしていました。今では、2009年~2012年の4ヴィンテージをセラーの補充用として販売することができます。2006年~2008年のパックも売れているので、これを販売している間に収量不足の問題を解決する方法を考えることができます」と Lazar は述べています。
物流面での課題
ビジネスを活性化させる「洞察力」を持っていないことに気づいた人には、残念ながらさらなる悪い知らせが待ち受けています。
高級ワインの輸入を手掛ける Europvin 社のセールス・ディレクターである Matthew Green は次のように述べています。「需要の高いワインの中には、すでに大幅な値上がりをしているものもあります。これは一例ですが、今年の春先にとあるサンセールのオファーがありました。私が電話を折り返すまでの3日間に春霜が降り、そのワインは彼らが3日前に提示した価格よりも25%高い価格で販売されました。特にロワールやブルゴーニュのワインに対する需要が高いために価格の上昇が激しくなっているので、多くの人は手が届かなくなるような産地が出てくる可能性もあります」
ブルゴーニュをはじめとする人気の高い地域では、15〜25%もの価格上昇が予想されるそうです。
今回の値上がりは、(今のところは無効ですが)関税とコロナウイルスのパンデミックの後に起こったもので、いずれも信じられないような物流上の課題をもたらしました。
「大きな課題は、業界の誰もが直面している物流上の問題です。一例ですが、我々が既に手配していたコンテナ船が40%もの値上げをしていることを輸送中に知りました。業者によると、コンテナ船に対する高い需要が値上げに繋がったとのことで、私は支払わざるを得ませんでした」と、 Green は述べています。
ガス料金や人件費、ワインのガラス瓶などの消耗品のコストも軒並み上昇しているので、ビジネスに携わるすべての人にとって経済的に厳しい時期に、思わぬ痛手となっています。
ヴァージニア州にある Crystal Palate Wine & Gourmet のオーナー兼ソムリエである Crystal Cameron-Schaad のような小売業者は、主要商品の調達に困難を極めているといい、シャンパーニュの在庫を確保するのも大変だったそうです。「大手メゾンや著名生産者のシャンパーニュの多くは、既に売り切れが続出しています。私たちはとにかく在庫の確保に尽力し、他のスパークリング・ワインの代替品を提供しています」
スポットライトの変遷
Cameron-Schaad は次のように述べています。「来年、消費者はお気に入りのボトルに更なる出費を覚悟しなければなりません。しかし小規模な小売店にとっては、既成概念にとらわれず、ローカルなワインやマイナーなワイン産地に注目する機会があると思います。例えば、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが不足しているので、代替品としてスペイン・ルエダ地方の品種ヴェルデホを紹介したところ、お客様がこのワインを気に入ってくれたのです!」
“相場よりも高い価格” だとしても Green はまだ所望するブルゴーニュ・ワインを手に入れることができる一方で、リベラ・デル・ドゥエロやプリオラート、リオハなどのスペイン産地を始め、その他のマイナー生産地をEuropvin のポートフォリオに加える計画をしています。
Grupo La Rioja Alta の米国輸出マネージャーである Jose Navarro は、気候の影響でリオハの収量が20~25%減少したにもかかわらず、同社が米国でより大きな足場を築く機会があると考えています。
「今年のブドウは素晴らしい品質で、リアス・バイシャスのワイナリーでは例年以上に素晴らしい収量となりました。リアス・バイシャスのワインは2022年以降、リオハのワインは2026年~2027年に市場に出回る予定です。関税などの問題でワイン全体が値上がりしているので、高級ワインに分類されている当社のワインはそれに比べるとまだ平均的な価格で、今年予定している値上げはわずか2〜5%となっています。現段階では需要が供給を上回っています」と、 Navarro は説明します。
気候や物流の問題に影響される価格変動に対して、消費者がどのような反応を示すかが分かるのは時間の問題です。
果たしてワイン愛好家たちはこのままブルゴーニュやボルドー、シャンパーニュ、ナパのカベルネ・ソーヴィニョンといった高級ワインに多額のお金を払い続けるのでしょうか?それとも、リオハやリベラ・デル・ドゥエロなどの歴史と伝統ある産地に再び目を向け始めるのでしょうか?それとも、ヴァージニアやペンシルバニア、またはレバノンやウルグアイなど、より安価な新しいワイン産地を探索し始めるのでしょうか?
ワイン業界における今後の様子を見ている間に、生産者や輸出・輸入業者、小売業者の人々は、今後起こりうる緊急時の対応策を練っておくのが賢明でしょう。
引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2021/10/get-ready-for-the-global-wine-drought
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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