ブルターニュ: フランスの新しいワイン生産地
ブルターニュ地方のベル・イル島に、億万長者が所有するワイン畑が開墾されることになりました。
しかし、これに対して環境保護団体は海岸の環境保全を訴えています。
ブルターニュ地方最大の島ベル・イルは、白い砂浜やターコイズブルーの海など、野生の楽園として長い間親しまれてきました。温暖な微気候のもと、ナント市の西に位置するこの緑豊かで静かな隠れ家エリアはますます観光客を魅了しています。
しかし、島の地元の人々や別荘の所有者の中には、島にブルターニュ最大のブドウ畑を開墾しようとしている大富豪 Christian Latouche などの実業家によって、自分たちの楽園が脅かされていると感じている人もいるようです。
Latoucheがプロヴァンスに所有する Domaine de Vallongue と Domaine des Terres Blanches のディレクター、Bertrand Maloss がベル・イルにおけるワイン生産の可能性を見出したのは、5年以上前に島を自転車で走っているときに、古いブドウ樹を偶然見かけたことがきっかけでした。
それ以降、Latouche はベル・イルに25ヘクタールの土地を購入し、そのうち11.7ヘクタールをブドウ畑に割り当て、島の複数の場所に分散させています。Latouche は、ブルターニュ圏のボエディック島も所有しています。
11月、ブルターニュ地方モルビアン県を管轄するフランス国家の代議士は、Latouche が11.7ヘクタールに及ぶ有機栽培の畑 Kerdonis を開墾することを許可したと発表しました。
しかしこの認可は、このブドウ畑が地元の生物多様性に大きな脅威を与えることはなく、すべての法律と環境の規制を遵守しているとしています。これは、環境影響調査や、今年行われた公開質問状において、役所がこのブドウ畑を支持する判断を下したことを受けたものです。今年、ブドウ畑の影響を受ける自治体は、全員一致でこの開墾に賛成しました。
「ブドウ畑を開墾することによって雇用を生み出し、地元の人々が島に留まることを可能にします。気候変動に伴い、私たちは農業に多様性が必要なのです」と、ブルターニュ地方ロクマリア地区の自治体を率いる Dominque Rousselot は述べています。
フランス当局は、環境保全の基準を満たすことを条件に認可を与えました。生物多様性の保全を目的としたEUの ”Natura 2000” の下においては、環境保全の基準を満たすことができれば、保護された土地を農業用に開墾することができるのです。
しかし、島の内陸部にあるこのブドウ畑への植樹は、フランス政府による最終認可を受ける前に始まったので、地元の環境保護運動家たちの怒りを買うことになりました。今年5月、 Domaine de Vallongue と Domaine des Terres Blanches のディレクター Malossi は次のように語っています。「今年、2.7ヘクタールの有機栽培のシャルドネとサヴァニンのブドウ樹をベル・イルに植えました。美しく、ぴんと張った緊張感のある、フレッシュで軽やかなワインを造る予定です」
しかし、地元の遺産や環境の保護団体は、Latouche がベル・イルに新たに創設する有機栽培のブドウ畑が、島の沿岸部の景観とその環境に変化を与える恐れがあると指摘します。11.7ヘクタールのブドウ畑のうち約4ヘクタールは、海岸から300メートルほど離れたエリアに開墾される予定です。フランスがこのブドウ畑を認可したことで、大手のワイン関連企業がブルターニュ地方の他の海岸保護区域の近くにブドウ畑を開墾する可能性があると彼らは警告しています。
ブドウ畑の開墾に反対してきたベル・イル遺産協会 Gerveur Da Viken の書記を務める Micheline Lockwood Daumas は、次のように語っています。「私たちはブドウ樹を植えることに反対しているのではありません。海岸付近の野生の土地に区画を設け、エノツーリズムや関連する建築物の開発することによって、島の環境に影響を与えうることを懸念しているのです」
一方で、ブルターニュに別荘を所有し、La Bruyere Vagabond 協会の会長を務める Gilles Smadja は、国が沿岸部への植樹を認可したことを不服として、協会はレンヌの裁判所に控訴する準備をしているそうです。たとえ勝訴したとしても、ブドウ畑の大半に植樹はされてしまうのですが。
急拡大する植樹
ブルターニュの美しく保護された沿岸部に車を走らせると、高速道路も原子炉もないことが分かります。過去80年間、ブルターニュはブルターニュ語で ”ブレッツ” と呼ばれ、失われたブドウ栽培の歴史よりも、シードルやビール、シュシェン(蜂蜜酒)の生産とケルト音楽でよく知られてきました。
これは1941年、ナチスの支援を受けたフランスのVichy政権が、ミュスカデの産地であるブルターニュ地方のペイ・ナンテを無残にも切り離したからです。その結果、ブルターニュは最大のブドウ畑とかつての首都ナント、そして30%もの経済力を失ったと言われています。
しかし、2016年にEUがブドウ栽培を自由化したことで、フランスがブルターニュで商業的なワイン生産を禁止していた歴史に終止符が打たれ、ブドウ畑が急拡大しているのです。
ブルターニュワイン協会(ARVB)の Remy Ferrand によると、ブルターニュでは今後2年間で223ヘクタールのブドウ畑が開墾される予定で、主に辛口の白ワインとスパークリングワインを中心に生産されるといいます。
気候変動はフランスのブドウ畑においてブドウの糖度と酸度に劇的な影響を及ぼしており、フレッシュでアルコールの低いワインに対する需要の高まりを受けて、ブルターニュ地方にブドウ栽培者たちが集まり始めているのです。
ブルターニュが創成する新しいグループ
今年11月、ブルターニュ南部の Theix Noyalo に植樹した Aurelien Berthou や Loic Fourure らブルターニュの若手醸造家たちは、ARVBの姉妹組織としてAVB(ブルターニュワイン生産者協会)を設立しました。AVBのメンバーは農薬の使用を禁じられています。
2016年のEU自由化以前にブルターニュにブドウ樹を植樹した非営利の生産者たちは、シャプタリゼーション(ワインに糖分を加えて潜在アルコール度数を高めること)なしでもワインが造れることを示しました。「ブルターニュ西部のエリア Quimper のワインは、立地条件やヴィンテージにもよりますが、アルコール度数約11~12.5%に達するため、補糖は必要ありません」と、Ferrandは述べています。
一方、ブルターニュのワイン生産者は、生産者を保護し、一般的なヴァン・ド・フランスのラベルと区別するために、より柔軟性の高いブルターニュのアペラシオンを作る計画を検討しています。
ブルターニュ西部の沿岸部に位置する歴史あるワイン産地 Sarzeau は、ブドウ樹の植樹で農業の多様性を促進化している自治体のひとつです。Sarzeau の役所で環境・遺産部門を担当するLenaïck Chevalier によると、この自治体は100万ユーロを投じて、合計9.5ヘクタールのブドウ畑とワイナリーを設立し、毎年35,000本の有機スパークリングワインとスティルワインを生産する予定だそうです。
レンヌ大学地理学部の気候専門家、Valerie Bonnardot 教授によると、ブルターニュ南部とその島々、そしてブルターニュ東部は、平均より少ない降雨量と穏やかな微気候のためワイン生産に最も適した地域となっているそうです。
「半島に位置するブルターニュは、夜と冬の気温が下がりすぎず、昼と夏の気温が上がりすぎないように、海が調節してくれるという恩恵を受けています。霜が降りることも滅多にありません」と、Bonnardot 教授は説明しています。
しかしベル・イルにおいては、地価の高騰や開発、観光の増加という状況の中で、Kerdonis のブドウ畑が長期的に与える影響を、環境保護団体が懸念しています。
夏の間、島の人口(住民5000人以上と別荘の所有者5000人以上)は毎月10万人以上と、およそ従来の10倍以上に増加します。来年にはレンヌから島への航空便が就航し、島への船便が強化されるため、観光客数は年間40万人を超える見込みです。
Lockwood Daumasは次のように述べています。「 Christian Latouche を含む大規模な金融グループによるこの島の植民地化は、島の自然環境や遺産、環境を脅かすものです。小規模な農業のプロジェクトは、億万長者ではなく地元の若い家族に与えられるべきだったと思います」
このベル・イルの現状は、ブルターニュ地方の未開の海岸エリアで実際に起こっていること、また今後起こりうることの縮図であると、多くの人が考えています。
引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2021/11/brittany-frances-newest-wine-region
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