リオハの市民戦争
新たな政治的嵐がリオハを襲い、スペインのスターワイン産地の統治と戦略に再び疑問が投げかけられています。
Bodegas Familiares de Rioja(BFR)は、216の生産者を代表する協会で、これはリオハの認定ワイン生産者の半数以上にあたります。このBFRがリオハのワイン委員会(Consejo Regulador)とその部門委員会であるOIPVRを脱退し、リオハの権力回廊に衝撃を与えました。今後数ヶ月のうちに、同じ行動をとる生産者が増えるでしょう。
改革には時間がかかり、2年以上かかると主張するライバル協会やリオハ州知事からの憤りの波を、BFRの動きは引き起こしました。しかし、BFRは毅然としています。
「ワイン委員会が確固たる改革案を示さない限り、我々はワイン委員会の管理団体に戻るつもりはない。我々の決断が、ワイン委員会の行動を促すことを願っています」と、BFRの副会長Juan Carlos Sanchaは語りました。
「2年前、我々は2023年に委員会を去る計画を公にした。今年6月、リオハワイン委員会は改革の意向を発表したが、確固とした提案ではなかったので、我々は決断を進めた」とSancha副会長は説明し、生産者は2回の投票で全会一致でこの決断に同意したと付け加えました。
BFRの動きにより、リオハのワイン委員会では、認定された生産者の半数以下しか参加していない状態で、首尾一貫した運営を続けられるのかという疑念が生じました。たとえ彼らが、強力なGrupo Riojaに代表される大手ワイン会社に比べたら小規模で、リオハのワインのわずかな割合しか生産していないとしてもです。
リオハのワイン委員会は間もなくさらなる反対意見に直面する可能性があります。バスクのリオハ・アラバ生産者協会であるABRAは、この秋、リオハのワイン委員会を脱退する動議を提出する予定だということです。
ABRAのItxaso Compañon Arrieta会長は、「ワイン委員会からの離脱を求める動議が、ABRAの次回の総会の議題になるだろう」と語ります。
「議員の過半数が動議を支持する必要がある」と彼女は述べました。
ABRAとBFRは、リオハのワイン委員会に対し、比較的低価格のワインを大量に生産しすぎているという点で、ほぼ同じ不満を抱いています。ABRAとBFRは、質の高い職人的ワインの生産を通じて、経済的・環境的な持続可能性を確保したいと考えている中小規模の生産者で構成されているのです。
BFRのリオハ・ワイン委員会からの脱退にもかかわらず、その生産者たちはワインの生産を続け、リオハワインと書かれたラベルを貼り続けます。
不満感が高まっています。ブドウの価格が生産コストを下回るケースもあり、リオハのテロワール重視のワインを生産する著名な生産者数名が、リオハのアペラシオンを去る可能性を示唆しています。
ワイン評論家のJames Sucklingは9月7日、有名な高級ワイン生産者Telmo Rodriguezが “リオハのアペラシオンを捨てる “ことを計画していると自身のウェブサイトで発表しました。
Suckling はRodriguezの言葉を引用してこう述べています。
「現在のシステムは意味がない。テロワールに興味のない世界には興味がない」。
しかし、Rodriguezはその後、Suckling との間に誤解があり、アペラシオンを去るつもりはないと語りました。
「私はリオハを去るつもりはないし、面白いことをすると確信しているが、多くの不確実性と困難な瞬間にいることは事実だ」とRodriguezは言います。
Rodriguezは、クリアンサ、リオハ、レセルバに分類されるリオハの大量生産ワインは、格式あるアペラシオンには相当しないと述べました。
小規模生産者たちは、大企業がテロワールと品質評価に基づくリオハの階層システムの確立を妨げており、例えば、アペラシオンの土壌分布図の調査結果を公表することは、彼らのビジネスを損なう恐れがあるため、望んでいないと言っています。
2000年、マドリード工科大学のVincente Sote教授がリオハの土壌に関する研究を委託されましたが、リオハのワイン委員会はその研究を公表してきませんでした。
「鍵をかけてしまわず、公表すべきだ」と、リオハ・アラベサでテロワール重視のワインを生産し、高く評価されているOxer Bastegietaは言います。「土壌の分布図に関する研究は、このアペラシオンの苦境に対する解決策のひとつになるかもしれない」。
Bastegieta は、職人技を駆使した高品質のワインを独自に開発し、成功を収めているリオハの新世代生産者の一人です。「私は自分のブランドを確立するために努力してきたので、アペラシオンは必要ない。でも、リオハを離れて他でやるような余裕はない。私は畑とワイナリーで仕事をしていますが、窓の外にはリオハの複雑な状況が展開されているのが見えます」と彼は言います。
大量生産からの脱却
リオハのベテラン生産者であり、農学者、大学教授、そして古木のブドウ栽培と多様なブドウ品種の擁護者であるBFRの Sanchaは、25年間リオハのワイン委員会に所属し、民主的な統治改革の実施を訴えてきました。彼は、この意思決定の改革は、低価格ワインの余剰生産からリオハの戦略を方向転換するのに役立つだろうと考えています。
「リオハの発展のほとんどは、標準化されたブドウ栽培によるものでした。樹齢の古いブドウ木は伐採され、VSP(垣根)仕立てのブドウ栽培と、より生産性の高いクローンに取って代わられたのです。これらの多くは、本来ブドウ木を植えるべきではないような場所に植えられています」と彼は言います。
Sanchaは、リオハの過剰生産の問題は、コロナ禍、インフレ、ウクライナ侵攻、ブレグジットの影響よりもずっと前から始まっていたと言います。
「2017年以降のリオハは、1985年以来28,000haもブドウ畑を拡大し、販売できる量を上回るワインを生産しており、そのため今年初めてワインの蒸留をすることになったが、それでもリオハにはまだ1億5,000万ℓの余剰在庫がある」とSanchaは述べました。
リオハのワイン委員会であるConsejo Reguladorは、余剰在庫の数字についてコメントしませんでした。
より多くのワインを造ってそれを売らなければならないということがリオハの根本的な問題であるとするワイン評論家のTim Atkin MWは、2023年のリオハ・レポートで「リオハは1980年代以来最大の危機に直面している」と述べています。
民主的かつ戦略的な改革をもたらすために、Sanchaはリオハのワイン委員会の部門別専門家委員会(OIPVR)において、中小規模の生産者がもっと大きな代表権を持つよう呼びかけています。
「我々は生産者の半数以上を代表しているにもかかわらず、生産者委員会に割り当てられた100票のうち8%しか持っていない。これは民主主義的に不合理だ」とSanchaは指摘しました。
OIPVRの投票システムは、ワインの品質や価値ではなく、生産量とブドウの販売量に基づいています。
投票配分には、リオハの各ボトル販売量に対する係数(点数システム)が含まれており、ジェネリック(ジェネリコ)ラベルのワインは、クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバに分類されるワインよりも高い価格で販売されていることも多々あるが、はるかに低い点数を与えられています。
「ボトリング登録をしている各ワイナリーは、リオハのワイン委員会から指定された裏ラベルの数字に応じて投票数が割り当てられる」とSanchaは言います。
「例えば、私のCerro La Isaのワインは、ディストリビューターには€25($26.7 USD)、小売価格では€45($49.2 USD)で販売しており、単一畑として認証されているが、裏ラベルがジェネリックです。ジェネリックのラベルとして販売された全てのボトルの平均価格で計算されるため、投票数では1本€2.40($2.56 USD)の価値しかない。しかし、スーパーマーケットで€3($3.2 USD)で売られているレゼルバは、€4.85($5.9 USD)の投票価値があるのです」。
Sanchaは、大手の工業的生産者の売上に有利な不正確な数字ではなく、実際の売上高に基づいた代表権を望んでいます。一方、SanchaとBFRは、改革が実現するとしても、2025年のリオハOIPVR理事会選挙まで待たなければならないかもしれません。
リオハの保守的なワイン委員会と “工業的”生産者たちは、改革に対して消極的な態度を示しています。村名ワインと単一畑ワインの造りをめぐる最近の新規則は、ちぐはぐで非現実的な側面を含んでいるとして、広く批判されています。
品質よりも熟成年数で分類するリオハの伝統的なカテゴリーであるクリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバは、新しいワイン分類から除外されると考えていた生産者たちは、失望したと言っています。
一方BFRは、もうひとつのリオハの存在を望んでいると言います。
サブリージョン・リオハ・アラベサの生産者にとって、リオハのクリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバを含まない、Vineyards of Alava(アラバのブドウ畑)というアペラシオンがもうひとつの選択肢となるのです。
リオハの生産規則に比べ、アラバのブドウ畑の仕様書には、収量、植密度、生産における硫黄の最大使用量について、より厳しい制限が含まれています。
このアペラシオンのワインは、リオハ・アラベサで栽培されたブドウから造られなければなりません。
リオハ・アラベサはスペインのバスク自治州に属し、同自治州は増税権と立法権を持つが、ワインに関する法律はリオハのワイン委員会が決定します。
リオハ・アラベサは、古木の株仕立てによるブドウ栽培、伝統的な剪定技術、小規模ながら人気の高いブドウ畑で知られています。
ABRAは、2022年10月に一時的に承認されたVineyards of Alavaのアペラシオンが、レセルバワインを含むリオハワインをスペイン国内で€4以下の低価格で販売することが多い、大規模な工業生産ワインに代わるビジネスモデルの一つになることを期待してきました。
しかし、2023年4月、リオハワイン委員会が、このアペラシオンとそのワインは “リオハのアペラシオンに風評被害と経済的損害を与え、消費者を混乱させる “と主張する訴訟を起こしたため、ビルバオのバスク高等裁判所は、Vineyards of Alava のワイン販売の認可について一時停止命令を出しました。
Vineyards of Alava とその規制評議会は、それ以来、判決に対する法的上訴を開始しました。
2022年11月に認可されたABRAに対する強引な法的アプローチを際立たせているのは、とりわけバスクの生産者がブドウを販売することを制限する、物議を醸す新しい独占規則です。
リオハの生産者がリオハの統治から離脱するか、あるいはリオハのアペラシオンから完全に離脱する構えを見せている中、リオハのワイン委員会による権威主義的なアプローチや小規模生産者たちが揶揄する中途半端な改革は、裏目に出る可能性があります。
引用元: Rioja’s Civil War
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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