輝かしい新たな樽使い

輝かしい新たな樽使い

ワイン造りのビジネスは、一般的にシリコンバレーやウォール街のような突拍子もない興奮とは正反対です。ワインメーカーが急激な進歩や革新によって突拍子もないニュースを発信し、市場を震撼させるのは、本当に稀なことでしょう。
私たちのワイン造りが8000年に亘り進化を遂げた現在では、急にレベルアップして世間を騒がせるようなワインが登場する時には、母なる自然からの時折の特別な贈り物と、セラーでのわずかな(しばしば高価な)技術的な微調整が関連しています。

 

最近では、そのような微調整には熟成容器が関係することが多く、ワイン造りへのアプローチの変化は、年代にもよりますが、皆が大好きなスーパーヒーロー/スーパー悪玉の引退によるものだと多くの人が考えています。Robert Parker氏は、いわゆるビッグで、力強く、堅牢なワイン、そしてリッチでスモーキーで樽香の強い、顕著な樽使いをしたワインが台頭したことで信頼され、また非難された人物です。

 

Parker氏が『ワイン・アドヴォケイト』を売却し、引退した時、状況は変わり始めました」と、ボルドーを拠点とする樽製造会社Maison MoussiéのCEO Thomas Moussiéは言います。「消費者は、樽香やトースト香の強いワインではなく、よりフレッシュで果実味豊かでエレガントなワインを求めるようになりました。アンフォラがあちこちに出回り始めたのもこの頃です。生産者たちと話をするうちに、私はこの新たな傾向に対応しなければならないと気づきました。樽は、ワインに10年から50年もの命を与える最高のツールです。また、骨格とテクスチャーを与えます」。

 

しかし、その熟成性、骨格、テクスチャーをオーク樽なしで実現するにはどうすればよいのでしょうか?Moussiéや他の醸造家が実践している革新的な解決策を紹介します。

 

新しいトースト方法

1999年からワインの仕事をしているMoussiéは、冷やして飲めるような、軽やかな赤ワインの人気が出る何十年も前からこの傾向を見抜いていました。

「私は樽のために生きています」と彼は告白します。「しかし、私の一番の目標は、顧客がより多くのワインを販売できるようにすることです。彼らのマーケットが変われば、私のマーケットも変わります」。

2005年、彼はワインの味わいをより透明性をもって伝えるにはどうしたらいいかを考え始めました。Parker氏が引退し、ワイン文化が堅牢な表現から目に見えてシフトしてきた頃には、彼もすでに準備していました。

「火を使わずに樽をトーストするのが答えだとわかった」とMoussiéは言います。「火を使って燃焼させること、それが樽香を生むのです。私はサウナが好きで、石で樽をトーストすることを思いついたのです。試作を始めたところ、素晴らしい結果が出ました」。

2018年、溶岩石で樽をトーストする製法は特許を取得しました。翡翠は驚異的な熱伝導性を持ち、Moussiéの顧客の多く、ひいてはMoussié自身のターゲット市場である中国で非常に珍重されています。

「このプロジェクトが成功したのは、技術的な側面とマーケティング的な側面の両方が含まれているからです」と彼は言います。「樽の品質に関するフィードバックは素晴らしい結果でした。生産者たちは、ワインがよりエレガントになり、熟成能力が上がり、骨格、テクスチャーを備えていることに気づいています。そして、グラン・クリュのワインを造っている私の顧客は中国に行って、翡翠でトーストした樽についてアピールするができるのです。大きなセールスポイントになります」。

現在、彼はスペインに約27、フランスに24、イタリアに1、アルゼンチンに1、アメリカに5、中国に1つのクライアントを持ち、溶岩石トーストまたは翡翠トーストを採用しています。特別にトーストした樽は、火でトーストした樽よりも20%ほど高くなります。2022年には約2000個の石や宝石でトーストした樽を販売し、今年は2500個の販売を目標としています。

「ウイスキーとテキーラの大口顧客を迎えることになり、とても興奮しています」と彼は言います。「まだ特許がないので詳細はお話できませんが、近々新しい、とても素晴らしいトーストの新しい手法が完成するでしょう。赤と白の樽熟成ワインの果実味とテロワールを表現する手法がさらに増えると思います。

彼の夢?それはダイヤモンドでトーストした樽です。
「ダイヤモンドは他のどの石よりも熱を伝えやすいのです」とMoussié は声高に言います。「残念ながら、60kgのダイヤモンドで樽をトーストするのに必要な$ 250万を払おうとする人はいません。

 

テロワール主義の樽

テロワールを表現しようとするワインメーカーは、自ら樽作りに取り組んでいます。チリのミラウエ・ヴァレーにあるVIK Wineryは、4300haの手付かずの自然の中に建っています。ブドウ木は330haに植わっていて、12の渓谷からなる自然の景観に囲まれ、敷地内の一番高い地点には27haのチリ産オークの木を含む森林があります。

 

「2018年が、状況を変えました。とても個性的で特別なヴィンテージだったからです」と、VIK Wineryの醸造家Cristian Vallejoは言います。「畑の各ブロックの個性が表れており、それをグラスの中で表現したかった。私たちのワイナリー以外からの介入はゼロにしたかった。とにかく全てに関して低介入で、ここの野生酵母を使っています。そして、私たちのワイナリー外のものはフランス産の樽だけだと気づいたのです」。
Vallejoはフランスに赴き、樽造りに必要な木の部分の選び方から、樽の構築やトーストの方法まで、樽造りに関するあらゆることを学びました。1年間かけて深く掘り下げた結果、彼はより恒久的なものへの橋渡しとなる一時的な解決策にたどり着いたのです。

 

「フレンチオークは国外から持ってくるのですが、トーストはここで行い、燃料は私達の森に落ちているオークの枝を使います。」とVallejoは言います。「ワイナリー独自の風味、テロワールのDNAを樽に与えます。チリで製作したオークはよりキメが細かく、私はトーストを完璧に仕上げたのでとてもマイルドで、バニラやチョコレートのような風味はありません。私たちのワインには、骨格と熟成感だけがあり、余分な風味はありません」。

 

最終的にVallejoは、ワイナリーにあるオークから樽を造ることを計画しています。このオークは「アロマという点ではマイルドだが、タンニンのコントロールやマイクロ・オキシジェンーションを施すには適している」と彼は言います。

 

彼は現在、持続可能性を確保するための計画に取り組んでおり、樽を作るために1本の木が切り倒された場合、植え替えをして小さな木の成長を促す計画を立てています。今のところ、彼のチリでトーストされたフランス産の樽ワインが市場に出回っていますが、あと5年もすれば、ワイン愛好家たちは全ての工程においてVIK Wineryで栽培・熟成されたワインを味わうことができるようになるでしょう。

 

楢材と蒸した樽は避ける

パソ・ロブレスとモントレーを中心に1619ha強のブドウ畑を所有し、セント・ヘレナには32のブドウ畑を持つJ. Lohrでは、樽香の少ない樽を見つけることは、樽を完全に捨てることを意味しました。

「テクスチャーとスパイスがあり、果実味がしっかりと感じられるフレッシュなソーヴィニヨン・ブランを造りたかったのです」と醸造家のSteve Peckは言います。アカシア樽は、アロマを保ちながら、私たちが求める口当たりと重みを与えてくれるのです」。

アカシア樽で熟成させたFlume Crossingのソーヴィニヨン・ブランは、年間約3万ケースが販売されています。

J. Lohrは50万ケースのRiverstone Chardonnayで同じようなことをしたかったのですが、Peckはオークだけが彼が望む結果を出せる鍵であることを知っていました。

「完璧な樽を見つけるために Demptos社と協力しました」と彼は言います。「彼らはParadoxと呼ばれる樽のラインナップを作り、トーストのようなロースト香を排除しながらも、骨格とテクスチャーの面でメリットをもたらしてくれました」。

この樽のキャッチフレーズは、”トフィー0%、フルーツ100%”であり、焦げ臭を完全に排除し、伝統的なトースティングが与える芳香から木材を保護するように設計されています。

「その結果、バターや甘い香りのないシャルドネになりました」とPeckは言います。「批評家のテイスティングノートには、 “ココナッツ” や “一体化”という言葉をよく見かけ、これは誉め言葉です」。

翡翠でトーストした、テロワール主導の、樽香のないオーク樽が本当に必要なのでしょうか?厳格で真面目な考えを持つ人は、このようにテロワールをひたすらに表現するのは少し行き過ぎではないかと疑問に思うかもしれません。

この開発を、我々の文化と社会の破滅を予感させる、退廃の新たな兆候と見る人もいるでしょう。しかし、侵略者の接近を警戒しながら神経質に地平線を睨んでいるくらいならば、焦がした古いオークのことなど気にせず、テロワールをより流暢に伝えることのできるワインで、我々の現在の恵みに乾杯した方がよいのかもしれません。

 

引用元: New Barrel Regimes the Jewel in the Crown
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