ブドウ畑の化学薬品散布に別れを告げる

ブドウ畑への散布といえば、かつては有毒化学薬品の大量投与を意味していましたが、今は違います。

ブドウ栽培の世界では、ブドウ木に散布をするという概念は長い間ネガティヴな意味合いがありましたが、いくつかの自然療法がその概念を覆しています。
グリホサート系除草剤ラウンドアップなどの化学薬品ベースの殺菌剤とは正反対の、総合的な治療法に世界各地のワイン生産者は注目しており、その多くは有機認定された銅や硫黄をベースとした製品にも勝っています。
スキムミルクから海藻に至るまで、業界の専門家6人が、ぶどう畑で自然療法を使用することについて、その適用方法から対策、そして最も重要なこととして、それを使用することによって得られたポジティヴな結果について語りました。

自然療法と従来の方法との比較

ナパを拠点とするAshes & Diamonds社のオーナー、Kashy Khalediは、従来の散布剤は化学合成によって作られたものだと説明しています。
「従来の散布剤は、雑草や昆虫のような作物の競争相手に対して最も迅速、かつ安価な方法で対処することで収量を最大化しています。その使用の主な問題点は、同時に土壌内の生物活性を破壊してしまうことです。」
さらにこれらの散布が「他の多くの問題」を引き起こしていると言い、「最終的には、短期的な金銭的利益は得られますが、将来的なブドウ畑とその生態系の健康のために最善であることを無視している」と述べています。

バルバレスコのGaia Gajaは、「従来の散布剤はその化学成分によって様々な病気からブドウの木を守るが、オーガニック製品にはない化学残留物も残す」と言い、「これらの化学残留物は昆虫、酵母、そして環境の自然なバランスにも影響を与えてしまう」と述べています。
Khalediはこう話します。「従来の散布剤とは異なり、自然の散布剤はブドウの呼吸と健康状態を向上させる目的で使用されています。これらの散布剤はブドウ畑の生命線である土壌内微生物の数に悪影響を与えることはありません。」

Gajaは、海藻、ニンニク、ローズマリー、ユッカ、オレンジなど、様々な天然成分を畑に使用すると良い結果が得られることに気づきました。彼女はこの治療薬を「既製のハーブエキス」と言い、クリーム状のものを購入し水で希釈し、直接ぶどう畑に散布しています。
「それぞれの製品には効果的に働く独自の時期がある」と説明し、（単独、または銅や硫黄を少量添加し）希釈後、天然の化合物が準備できたら、植物が適応するように、ぶどうの葉に1枚ずつ噴霧します。

Gajaは、ニンニクのエキスを葉に直接散布すると、葉の表面のpHが7から6に低下し（酸性に傾き）、これによりうどんこ病が発生しにくくなることを発見しました。「クローブとユッカもニンニクと同じ効果があり、べと病とうどんこ病の両方に使用しています。」
さらに、オレンジオイルは菌類を自然に焼き尽くし、べと病やうどんこ病の発生を阻止することを発見しました。「私たちが天然の製品を選んだのは、土着の酵母も保護できるからです。一方で浸透性農薬は酵母だけでなく、ブドウ畑に生息する有益な昆虫や蜂にも有害です。」

スキムミルクと海藻

サヴィニー・レ・ボーヌでは、トモコ・クリヤマ氏が夫のGuillaume Bottと一緒に経営するMaison Chanterêvesのブドウ畑でスキムミルクの使用を試みています。
彼女がこのアイデアに出会ったのは、Chandon de Briaillesで働いていた2015年のことでした。「彼らはうどんこ病と戦うためにスキムミルクでの実験を始めました」。そして、まだ科学的にはその理由が証明されていませんが、「間違いなく効果がある」と断言しています。
彼女は、高温時に悪影響を及ぼす可能性のある硫黄の粉末を散布するよりも、スキムミルクを使用する方がより効果的であることが証明されている、と指摘します。
「夏場や気温が非常に高い時期には、硫黄はキャノピーやブドウに火傷を負わせる可能性があります。スキムミルクはうどんこ病と戦うだけでなく、ミルクの栄養素が葉から直接吸収されるため、キャノピーにとって優れた肥料としても機能します。」

米国に拠点を置く海洋での再生農業に焦点を当てた組織、GreenWaveの市場開発ディレクターであるSam Garwinは、「海藻は何千年もの間、農業改良剤として使用されてきた」と話します。「従来の散布剤とは異なり、海藻をベースとした土壌改良剤は総合的であり、植物と土壌をサポートして、畑の健全な生態系を再構築するのに役立つミクロ栄養素と生物活性化合物を提供します。」
さらにGarwinは、「海には何千種類もの海藻が生息しており、気候変動の時代にブドウ畑が直面する課題に対処する上で、海藻によってまったく新しい可能性が開ける」と考えています。

ナパでは、KhalediがAshes & Diamonds社のブドウ畑に海藻を取り入れており、灌漑ラインを通して液体エキスを送り込んだり、時にはブドウの葉に直接散布したりしています。
「海藻は通常、土壌の肥沃度を高め、植物の成長を促進するために使用されるのであって、菌類や昆虫などのストレス要因と戦うためのものではない」と説明します。海藻は窒素、リン、その他の微量栄養素をブドウ木に移動させるのに不可欠な微生物コミュニティの成長を助け、カバークロップも併用し生物の多様性を促進させることで、土壌生物に悪影響を与える従来の殺虫剤の使用を避けられることに気づきました。“ちょっとファンキー”な匂いがすることと高価であることを除けば、海藻の使用による悪影響は全くないと考えています。

昆布の登場

昆布は海藻の亜種として特別に指定されており、他の多くの海藻よりも長くて大きいことが多く、そのサイズは大幅に違うことがあります。
Garwinは「フレッシュなものや乾燥させたものを直接土壌に混ぜる農家もいる」と説明します。「昆布を水に浸し、噴霧器や灌漑用ドリップラインで散布する液体散布剤（Khalediの方法と似ている）を作ることも一般的な方法です」
海洋での再生農業に焦点を当てた組織GreenWaveでは　過去数年間、ノースフォークに拠点を置くMacari Vineyardsと協力して、彼らのぶどう畑に昆布を供給してきました。
「Macari Vineyardsのように、自社で出る有機廃棄物を堆肥化している農場では、畑にまく堆肥の栄養分を高めるために昆布を混ぜ込みます」とGarwinは説明し、「海藻を使った農産物は、暑さや干ばつなどの環境ストレスに作物が耐えるのを助け、同時に土壌のマイクロバイオーム（微生物叢）を再構築することで、気候適応力を強化することができます」と付け加えます。
「昆布は栄養素が豊富なので、私達の堆肥プログラムに加えるには最適です。窒素や一般的な栄養素だけでなく、幅広い微量栄養素も豊富に含んでいます」と、Macari VineyardsのワインメーカーであるByron Elmendorfは述べています。「キャノピーに栄養を供給するだけでなく、昆布には比較的高濃度のサイトカイニン※や他の植物生長調節物質が含まれており、これらは土壌の中の根の成長と活力を刺激するのに役立ちます。」
（※注釈：サイトカイニン・・植物の成長を促す植物ホルモンの一種）

しかし、真の再生を実践するためには、野生で採取された海藻の代わりに養殖で育てられた昆布を使用する必要があるとGarwinは強調します。
「昆布を通じて陸と海を結ぶ懸け橋となる機会に恵まれ、興奮しています。」

現在GreenWaveは、米国の農場向けにカラフト昆布を使ったバイオスティミュラント（生物刺激剤）を提供するため、業務用バイオスティミュラント企業と共同で、低コストの発酵生産ラインを開発しています。
「初期の実験結果から、カラフト昆布をベースにしたレシピは根の生育に似通った効果をもたらすことが示されています。これは自社の使用する肥料や農薬などを再生可能なもの、かつ、身近なものとすることに関心のあるワイナリーにとっては大きなメリットであり、環境システム全体を改善するための将来的可能性を持つアプローチです」
Macari Vineyardsのディレクターを務めるGabriella Macariは、GreenWaveとの協力（およびワイナリーでの昆布の使用）について肯定的なことしか述べておらず、世界中のブドウ畑での導入の可能性についても同様に期待を寄せています。
「自家製の堆肥を使い続けることで、私たちのブドウ木が気候変動によるストレスに強くなったと自信を持って言えます。私の直感が、これは海藻のおかげ！と言っています。」

引用元：　Spraying Goodbye to Vineyard Chemicals
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