ムーラン・ナ・ヴァン:100年に渡る苦難に挑む

ムーラン・ナ・ヴァン:100年に渡る苦難に挑む

かつてブルゴーニュより高価だったボジョレーのアペラシオンが、1世紀の不名誉を経て反撃を開始しています。


「ボジョレーがブルゴーニュと同等?冗談でしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、そうとも限りません。

 

筆者はChâteau du Moulin-à-VentのEdouard Parinetとボジョレーの評価の低下について議論しています。彼は、最高の(Moulin-à-Ventからの)ワインは、歴史的には一流のピノ・ノワールと同じ敬意を払われてきたと主張します。「興味深いですが、その証拠はあるんですか?」私は答えました。

 

そこで、彼は1928年の非常に古いワインリストの写真を見せてくれました。メニューにはカナール(鴨)のお供に1923年のChâteau du Moulin-à-Ventが載っており、驚くことに1924年のBeauneやPommardよりも高く提供されているのです。同様に、HermitageやCote Rotieのボトルも、1920年代にはもっと安かったのです。当時、ボジョレーが高価な選択肢だったとは驚きです。

 

Moulin-à-Ventの生産者たちは、このワインのベル・エポックを懐かしんでいます。かつてのブルゴーニュ公フィリップ豪胆公(ガメイを嫌った)の時代から、ガメイ嫌いの人たちはこの品種を貶めてきました。フィリップ豪胆公とその後継者フィリップ善良公が、甘ったるさや全面に出てくる果実味に対してこの品種に宣戦布告を行うまでは、・ノワールは歴史的にコート・ドールの遺産の重要な一部を担っていたのです。それから何世紀も後にボジョレーヌーヴォーが登場しました。このバブルガム風味の安価なワインが巷のビストロに氾濫した際、十分に飲みやすかったものの、地域のプレミアムな評判には何の役にも立ちませんでした。

 

前進と上昇

それでもEdouard Parinetは落胆していません。むしろ彼は今年、Château du Moulin-à-Ventの100周年を祝っています。この歴史的なワイナリーは、彼の父、Jean-Jacques Parinet
によって2009年に取得されました。彼らは過去15年の間に、不良区画の植え替え、セラーの改修、収量のコントロールなど、素晴らしい成果を上げてきました。その結果を我々はグラスの中で楽しむ事ができます。“ボジョレーの王”と呼ばれるこのワインは、その評判に応え、凝縮感と骨格があり、緻密です。

 

こうして、豪華なLes Vérillatsや、非常に洗練されたLa RochelleなどMoulin-à-Ventの主要なテロワールのラインナップを試飲できたのは光栄でした。一方、アペラシオンの規則では、生産者は個々のクリマ名をラベルに記載することが認められており、多くの生産者がそうしています。しかし、Parinetは、AOCがこの地域の最高のブドウ畑に対して正式な格付けを採用していない事に失望しており、それをどうしても変えたいと考えています。

 

「2024年.私たちはIANOに14のリュー・ディーを正式なプルミエ・クリュに昇格させるよう請願しました」と彼は説明します。

 

「アペラシオンに含まれる畑は以下の通りで:Aux Caves, Michelon, Carquelin, Champ de Cour, Chassignol, la Roche, la Rochelle, a Tour du Bief, le Moulin à Vent, les Perelles, les Rochaux, les Thorins, les Vérillats, Rochegrèsです。私たちは提案の一環として、これらの区画の管理方法を規制する新しい枠組みを策定しました。これにはブドウ畑での合成化学物質の使用禁止、収量の制限、ワインの瓶詰と市場への出荷までに長く時間を取る事を含めています。」

 

もしParinetと彼の仲間たちが成功すれば、ボジョレーの最も有名なクリュの一つが、ついにブルゴーニュのモデルに倣った体系的な階級を持つことになります。

 

「これはMoulin-à-Ventにとって興奮すべき瞬間です。ただし、フランスの官僚主義は時間がかかることもあります」とParinetは笑いながら言います。それでも、彼は5年以内に決定が下されると確信しています。そして、Moulin-à-Ventが前例を作れば、ボジョレーの他の重要なクリュ— Juliénas, Chénas, Fleurie, Chiroubles —も従う可能性が高いでしょう。

 

古い前例

ボジョレーのワインメーカーたちは、訪問者に「なぜこの地域はブルゴーニュやボルドーのような分類を行わなかったのか?」と聞かれることがあります。しかし、実際には行われていました。

 

ブドウに情熱を持つ道路および橋梁のエンジニアであったAntoine Budkerは、1869年にボジョレーのリュー・ディ(1級から5級までのランク付け)を含む権威あるリストを発表しました。これは、単にワインの品質評価や価格を基準にするのではなく、詳細な土壌調査に基づいていました。

 

Parinetと一緒にBudkerのブドウ畑リストのコピーをちらっと見ると、Moulin-à-VentとFleurieに最高のプルミエ・クリュの集中が見られると指摘します。

 

「興味深いことに、現在のMoulin-à-Ventの境界は、ロマネシュ=トラン(Romanèche-Thorins)の村と、シェナ(Chenas)の一部を合算したものです。1874年にはAOおよびAOCの枠組みは存在しておらず、そのため分類は村ごとに行われていました。しかし、地図を見ると、Chenasのプルミエ・クリュの畑が現在はMoulin-à-VentのAOCに含まれていることがわかります。」

 

Parinetによれば、Moulin-à-Ventは1924年に原産地呼称(AO)を受けました。当時、当局は偽造問題の増加を懸念していたからです。「この新しいAOはフランスで最初のものの一つであり、1550年に建てられた象徴的な風車の名前を自然に冠しました」と彼は明らかにします。「1924年には、Moulin-à-Ventのワインはグラン・クリュのブルゴーニュよりも高い価値が付けられていました。これが、多くの偽造瓶が作られた理由です!」

 

しかし、疑問は残ります。なぜ誰もBudkerの研究をボジョレーの畑の体系的なランキングの基礎として利用しなかったのでしょうか?比較のために言うと、ボルドーの人々は商人が瓶の価格を基準にして作り上げた階層を取り入れることを喜んでいました。

 

「すべては19世紀のボジョレーの販売方法に遡ります」とParinetは言います。「長年、業界はネゴシアン(商人)によって支配されていました。これらの商人たちは、地域の土壌や位置のニュアンスを理解することに興味がなく、ボジョレーのテロワール、つまり最良の村々を促進することに商業的な利益を見出していなかったのです。」

 

インスピレーション

それにもかかわらず、Budkerの先駆的な業績はChâteau Moulin-à-Ventとその近隣にとって大きなインスピレーションの源であり続けています。2009年に、彼らはゾーンの最も有望な地点の長期的な研究を始め、2014年には詳細な地質図を発表しました。

 

「私は穴を掘る専門家になりました」と親しみやすいParinetは言います。「2021年以降、毎年数多くのブラインドテイスティングを実施し、アペラシオン内の広範なクリマから生産されたワインを評価しています。結果は慎重に文書化され、INAOに提示され、この非常に特別な地域の素晴らしい可能性のさらなる証拠とされています。」

 

Moulin-à-Ventの信者たちの希望は、いつか1930年代の精神を再燃させることです。それは、Henri Mommessinと彼のガメイ種に対する執拗な愛情に代表されます。「当時、大規模なネゴシアンであるMommessinはMoulin-à-Ventのいくつかのブドウ畑を購入しようと必死でしたが、(あまりにも競売価格が高く)結局彼が手に入れたのはClos de Tartだけでした(2017年にFrançois Pinaultに2億ユーロ以上で売却された)」。かつてMoulin-à-Vent はグラン・クリュより価値が高く、Mommessinが競争相手に上回られたというこのエピソードは、Parinetの最も好きな逸話であり、かつてボジョレーの女神が微笑んでいたことを思い出させる感動的な話です。

 

このパラダイムへの回帰は、・クリュにとっての陽光降り注ぐ高地のようなものであり、消費者ではなく生産者にとってのものです。筆者も同様に、彼らの努力は、この地に名誉を取り戻すことと経済的成功に値すると思います。

 

それでも、Moulin-à-VentがもしVosne-Romanéeのように崇拝されるようになれば、私はこれらの美しい赤ワイン、つまりジューシーで花のような、かつ多用途で手頃な価格のワインを購入するのをやめなければならなくなるでしょう。あまりにも多くのワインが投資家や少数の超富裕層の領域に浮かんでしまい、二度と戻らなくなっているからです。

 

世界にとっては、ボジョレーのクリュは美味しくて手に入れやすい状態で地に足をつけている必要があります。

 

引用元: Scratching Moulin-à-Vent’s 100-Year Itch

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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