ボルドー アン・プリムールの不確実なスタート

2024ヴィンテージのボルドー・アン・プリムール・キャンペーンが最初の一歩をよろめきながらも踏み出しました。価格は下がったものの、関心を引くほど十分に低いのでしょうか?
ボルドーのアン・プリムール・キャンペーンが、きしみながら始動しました。
2024年のアン・プリムール・キャンペーンは4月下旬から始まり、初期リリースの常連であるポイヤック5級のChâteau Pontet-CanetとChâteau Batailley が価格を発表し、サン・ジュリアン4級のChâteau Branaire-Ducru もそれに続きました。
今回のキャンペーンは悲惨なスタートを切った、というのがボルドーでの反応です。
Pontet-Canet は「失速」し、Branaire Ducru はほとんど関心を集めず、Batailley もゆっくりとしか動いていません。
個人的には、価格はまずまず良いと思いましたが、実際にはそれが問題なのです。Pontet-Canet、Batailleyのリリース価格は、2023年リリースから約10パーセント下がっており、筆者の目を引きましたが、銀行アプリで何本買えるかを確認する前に、二度見するほどではありませんでした。価格は、素晴らしいというよりは、単にかなり良いという程度です。
潜在的な購入者は、2023年よりも2024年の品質が少し落ちるとみていたため、少なくとも10パーセントの値引きを期待していました。しかし、2023年キャンペーンの不成功を考えると、2024年キャンペーンを成功させるには追加の努力が必要であることは明らかだったはずです。
では、なぜ生産者たちは、ワインの売れ行きを伸ばすレベルまで価格を下げることに躊躇するのでしょうか?もしかしたら、公表されているよりも、自分たちのワインの品質ははるかに優れていると感じているからかもしれません。その可能性はあります。
しかし、もし本当にそう思うのであれば、大半の評論家がまだ評価や点数を公表していないにも関わらず、なぜ急いで最初の価格を発表したのでしょうか?これは、評論家のレビューが出たときに、世間の評価が劇的に変わるとは、彼らが考えていないことを示唆しています。
おそらく、2024年の価格を引き下げると、現在市場にある他のヴィンテージの価値が下がると信じているのでしょう。もしそうであれば、それは生産者が顧客や販売業者に対して立派な敬意を示していることになりますが、筆者である私はその立場に完全には同意しません。私は、品質が劣ると見なされるヴィンテージを捌くことで、最高級ヴィンテージのワインの価値まで下がるリスクはほとんどないと考えます。むしろ、市場全体への関心が高まるはずです。想像してみてください。2021年の繊細で美しいワインが、当時よりも20パーセント安くリリースされていたら、ボルドーのアン・プリムール市場は今頃どれほど良く見えたでしょう。
では、もう一つのポイントとなる2024年の品質は、実際はどうなのでしょうか?
ここで私の意見を述べたいと思います。皆様にとって2024年の詳細な全体像を把握するのに役立てば幸いです。
北へ
最初のリリースがポイヤックとサン・ジュリアンからだったので、まずはメドックの最も北にある3つの主要コミューン、サン・テステフ、ポイヤック、サン・ジュリアンのワインから始めましょう。
これら3つのコミューン、特にポイヤックの自身のノートを見返すと、テイスティングでブラックカラントとカシスを何回も言及していることに驚きました。これらは私が通常、特にポイヤックのワイン、そしてサン・ジュリアンのワインにも密接に関連付ける味と香りです。
間違いなく、私が慣れるのに時間がかかったのもあるのですが、私が一般的に予測していたのは、やや青っぽいカシスでした。ですが、2024年のワインをテイスティングすると、その葉っぱっぽさを見つけるのに苦労し、むしろ純粋なブラックカラントのエッセンスの風味と香りを感じました。どうやら、畑での丁寧な管理とブドウの選果にかけられた労力によって、ボルドーの醸造槽から未熟なブドウが完全に排除されたようです。少なくとも、それだけの作業に必要な費用をかけられるシャトーに限ってですが。多くの場合、2024ヴィンテージのワインは、近年のこの地域におけるワイン造りの進歩を際立たせています。
いくつかのシャトーは、新しい発酵室にタンクの数を増やし、より高性能な設備を導入したことが、この2024年ヴィンテージの課題に対応する上でいかに役立ったかを詳しく説明してくれました。例えば、Léoville-Las Casesでは、110個もの個別の発酵槽を備えた新しい醸造施設によって、必要に応じて区画の一部を分けて発酵させることが可能になったと説明しています。発酵槽が40個から110個に増えたことで、ある区画の一部をブドウ樹に残してより良い成熟を待つ必要がある場合でも、別々に発酵を行う余地が大きく広がりました。この追加されたタンクスペースのおかげで、これらすべてのバッチを理想的な熟度で収穫することができたのです。
2024年ヴィンテージの特徴によって注目されたもう一つの変化は、発酵中に「R’Pulse(アール・パルス)」というマセラシオン技術が使われたことです。この方法は、実質的に巨大な「ストロー」のようなものを使って、発酵槽の中に空気を吹き込むものです。これは、浸漬を助けるために浮いているブドウの皮の層(果帽)を壊す、伝統的なルモンタージュやデレスタージュといった手法に代わるものです。このアプローチは、果帽をより効果的に粉砕することで、えぐみの強いタンニンの抽出を減らします。ブドウの皮がより良く分散されることで、穏やかで均一な抽出が保証され、果帽の特定の箇所からえぐみの強いタンニンが過剰に抽出されるのを防ぎます。Calon-Ségurは、2024年にこの手法を非常に効果的に使用したシャトーの一つです。
適切な補糖の見極め
2023年は、多くの生産者にとって、補糖(シャプタリザシオン)の判断が非常に重要な一歩でした。一般的に、補糖は現代のワイン造りにおいては「失敗」と見なされがちです。たしかに、アルコール度数を数パーセントも上げるために全面的に糖分を加えるという方法は、推奨されるべきではありません。
しかし、私のテイスティングでは、2024年にこの手法を慎重に活用し、最も影響を受けた区画の一部に0.2〜0.3パーセントのアルコールを僅かに加えたシャトーが、ワインのバランスを大きく改善させていることが分かっています。多くの場合、このような小さな補糖は、主にメルローの薄いロットに対して行われ、ワインの重みと豊かさをわずかに高めました。フレッシュな酸味と繊細なタンニンを持つこのようなワインでは、このアプローチが、「引き締まっているが、クラシックでエレガントなワイン」になるか、「薄く、収斂性の強いワイン」になるかの違いを分ける決め手となることが多かったのです。
同じ目的で、一部の生産者はセニエ(saignée)法を採用しました。これは、過剰な果汁を抜き取り、濃縮度の低い区画の深みと凝縮度を高める方法です。一般的に、アルコール度数が13パーセント以上のワインは、より丸みがありバランスが取れている傾向があります。大まかな経験則として、収穫時期を考慮する価値があり、赤ワイン用の収穫を10月7日以降またはその前後で終えたエステートは、それより早く収穫したところよりも良いバランスを示している傾向があります。
ポイヤック
2024年のポイヤックは、非常にクラシックなスタイルのワインを生み出しました。カシスの果実味が豊かで、樽の使い方は控えめです。これらのワインは優れたフレッシュさを持ち、しばしばグラファイト(黒鉛)のニュアンスが感じられ、きめ細やかな骨格を備えています。
サン・テステフ
2024年のサン・テステフのワインは、気候条件のおかげで、非常に抑制されたエレガントなスタイルに仕上がっています。多くのワインが、この地域としては珍しく、繊細で魅力的な赤系果実の風味を見せています。
サン・ジュリアン
サン・ジュリアンでは、Château Léoville-Las Casesが文句なしにこのコミューンのスターワインでした。普段はかなり控えめなこのワインが、密度、フレッシュさ、骨格、エレガンス、そして均衡を兼ね備えた見事な一本となっています。Léoville-Las Casesとしては最も力強い、あるいは豊かなタイプではありませんが、並外れたエレガンスと均衡を備えたワインです。
さて、ここで私が書いたことが、2024年のメドック北部のこれら3つのアペラシオンにおいて、魅力的な、質の高いワインが、様々な価格帯で手に入ることを示していることを願っています。ただ残念ながら、これらのワインのほとんどについて、発表される価格に見合う価値があるかどうか、そのコストパフォーマンスに関してコメントするのは時期尚早です。ただ言えるのは、生産者たちは、もし2024年のワインを売りたいのであれば、2023年と比べてリリース価格を10%以上引き下げる必要があると認識すべきだ、ということです。
引用元:Bordeaux En Primeur’s Uncertain Start
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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